通学道中膝栗毛・44
キーリカへの船の中でオオアカ屋に気づく。
大きなリュックを背負った小太りのオジサンだ。
以前かじったときは単なるモブだと思って、パスしていた。
見知らぬ人には、なかなか声をかけられないわたしはゲームの中でもメインキャラ以外とは会話しない。モブキャラのことをNPCと略すことをモナミが教えてくれた。ノンプレイキャラクターの略で、本来はオンラインゲームでプレイヤーのアバターではなく、CPのアルゴリズムとかによって一定の動きと言葉しかないキャラ。ま、人の姿をしたオブジェクトのようなもの。
FFXはオフラインだから、主役のティーダもユウナもNPCってばNPCなんだけど、ストーリーに絡んでこなければ、わたし的にはモブと変わらない。
このオオアカ屋は行商のショップで、ここでポーションやらのアイテムを買っておかなければ、キーリカまでの最大イベントの『シンとの闘い』を乗り切れない。以前は、このクジラの化け物みたいなシンとの闘いを乗り切れなくってゲームそのものを投げ出してしまった。
ま、こういう序盤戦で投げ出したゲームばかりで、ろくにコンプリートしたゲームは数えるほどしかない。
ま、その程度のゲーマーとも呼べない、ライトユーザーであったわけです。
今回は、モナミの指導もあって、オオアカ屋からポーションを買いまくってシンとのバトルに臨んだ。
「バッカじゃない!?」
ポップコーンのバレルを抱えたまま、モナミが罵倒する。
「なんでよ、一所懸命戦ってるじゃない!」
今夜は「シンをやっつける!」とメールをしたので、モナミはアケミさんの車でポップコーンのバレルを二つ抱えてやってきているのだ。
「シンのこけらは無限に出てくるよ! シンをやっつけなきゃ絶対クリアできないんだから!」
「シンなんてラスボスでしょ、こんな序盤戦で勝てるわけないじゃない!」
「勝てなくても、追っ払わなきゃ、いつまでたってもキーリカに着かないわよ!」
「だ、だって……この!この!この!このーーーー!!」
本日二回目の全滅になってしまった。
「ワッカのシュートとルールーのファイアを撃ちまくって、ティーダとキマリはコケラ専門、ユウナはヒーラー専一!」
「わ、わかって……るんだけど、えと……キマリを引っ込めて……」
「ほら、ルールーのターム!」
「ファイアアアアアアアアアアアア!」
「あ、MPがないじゃん」
MPがなければ魔法は使えない。
「信じらんない!? エーテルなしでバトルに突入!?」
「く……代わりに」
「万能薬使ってもMPは回復しないわよ! ど、どんくさい女やなああああ!」
「う、うっさい!」
あやうく三度目の全滅かと思ったが、ルールーとユウナの活躍で、なんとかシンを追い払うことができた」
「や、やった…………」
「やったね、栞!」
二人手を取り合ってキーリカへの無事な到着を祝福し合った。
「やだ、栞ったら汗びちゃだよ」
「モナミだって」
久々に心地よい汗をかいた二人は、仲良く狭いうちのお風呂に入ったのでした。