通学道中膝栗毛・34
『少しは片づけたら~』
少しは片づけたら~
お母さんが言う。
ちょっと自分が片付けしたもんだから娘にも押し付けてくる。
お母さんのお片づけは仕事が行き詰まった時の儀式なんだ。十六年も親子をやっていたら分かるよ。
文筆業というのはテンションを保つのが難しい、だから同業の人は、いろんなやり方でテンションを保っている。
お酒を飲みに行く人、買い物に行く人、カラオケに行く人、お料理をやる人、トイレに籠る人、ご近所の散歩に行く人……。
元来お母さんは、冬の間はお散歩派だ。
寒いくらいの戸外をサッサか歩くと、身も心も引き締まって――書くぞ!――という気持ちにもなるし、時にはアイデアが浮かんだりするそうだ。
それが、春になると、心地よいを通り越して暑くなってしまってダメらしい。
それは、歳をとったので、寒暖の差を感じるセンサーの順応が悪くなって暑く感じてるだけなんだけど、それは言わない。
で、お片づけハイになったお母さんは、仕事に取り掛かるだけでは飽き足らず、わざわざ、わたしの部屋まで来て「少しは片づけたら~」とおっしゃるわけだ。
っるさいなあ~というのが本音なんだけど、もめ事は嫌いだ。
「うん、そーだね」と返事して部屋を見渡すくらいのことはする。
たしかに、出しっぱなしの冬物衣料、プレステ3のコントローラーの不調から、あれこれ出しっぱなしのゲームのあれこれ。
この二つをやっつければ家庭平和が持続する……決心して立ち上がると、背後のお母さんの安堵が気配で分かる。
クリーニングに出さなきゃいけないのでビニール袋に入れて完了、所用時間は三十秒ほど。
さて、ゲームグッズ……で、手が停まってしまった。
出すまでは、キチンと収まっていた収納ボックスが溢れてしまう。ま、しばらくプレステ3はやってなかったもんね。
収納ボックスの中身を出して入れ直してみるが、やっぱ収まらない。
無理に突っ込んだら、そこから出してゲームをやろうという気にはならないだろう。
いっそ、大規模にゲーム関係の整理をしてみるか!
で、あれこれやって、もう一度プレステ3を立ち上げて、コントローラーの様子を見てみる。
見てみたから直るというもんじゃないことは分かってるんだけどねえ~………やっぱダメ!
触りもしないのにカーソルが動く……だけじゃなくて、メニュー画面がチラチラフラフラして末期的症状。
「こりゃ、オシャカだなあ……」
ゲーム機本体は大丈夫そうだからコントローラーを買い直さなきゃならない。
ネットでコントローラーの値段を確かめてみる。
う~ん、思ったより安くない。
中古ならあるんだけど、人が触りまくったものはクリーニングしてあっても気になる。
無線でないのもあって少しは安いんだけど……イジイジしてしまう。
「あら、ちっとも片付いてないじゃん!」
開け放したドアにお母さん、声が尖がっている。この瞬間だけを見て言わないで欲しいんですけど……。