フケモンGO 13
『ひい祖母ちゃんはアンパンマン』
「遅れて申し訳ありません」
周囲の人たちに頭を下げながら〔お父さん〕は、あたしの隣にお母さんと並んで座った。「亜美、ごめんな」と前を見ながら言ったところまでは覚えているけど、気が付いたら『SEVENTEEN』制作発表会は終わっていた。
ジーンと頭が痺れているような感じ。
制作発表の後は記者会見、これも早回しの映像みたく過ぎて行った。
「じゃ、俺は仕事残ってるから。改めて家族三人でお祝いしような」
そう言って顔を寄せてきた〔お父さん〕は、目鼻立ちにお父さんらしさはあるんだけども決定的に別人だ。
お父さんは、こんな映画の制作発表に出てこれるような人じゃない。シャイで口下手な人だ。お母さんは、まるまるいつものお母さんなんだけど〔お父さん〕は……そう、お父さんの従兄弟ぐらいなら、こんな人もいるかなあ……そんな感じ。
「お父さんが独断で応募しちゃったのはいつものことだけど、今回は大当たりだったわね」
帰りのタクシーの中で、安心と誇らしさの混じった顔で、ため息のようにお母さんが言った。
「お父さんが応募したの?」
「いろんなのに応募しては断って来たけど、待ってて正解だったわね。やっぱお父さんは見る目が違うわねえ……亜美って、やっぱりひいお祖母ちゃんの血を引いてるのかもね」
「あ、そ、そうかもね……」
「なんたって日映ニューフェイスの第一期生で、清純派女優で大人気だったそうだから」
「そ、そうだったよね」
あたしは適当に話を合わせた。
ひいお祖母ちゃんはお父さんのお祖母ちゃんなんだけど、子どものころに法事で写真を見ただけだ。明るく朗らかそうな人だけど、アンパンマンを女にしたような丸顔の鼻ぺちゃで、清純派女優になれるような人じゃない。
「結婚して早くに女優は辞めちゃったけど、そのままやり続けていたら原節子みたいに伝説の女優になっていたかもね。ま、そうなると独身のマンマだから、お父さんも亜美も生まれてはこないことになるけどね……ひいお祖母さんの夢、亜美が叶えなくっちゃね」
家に帰ってから、古いアルバムを取り出してみた。
ええと…………あ、これだ!
五冊目のアルバムにあった。ひいお祖母ちゃんの昔の写真。
それは、あたしが知っているアンパンマンの顔ではなかった。スチール写真というんだろうか、アイドルや女優さんがPR用に使う写真だ。少し斜め上を見てニッコリ笑っている顔は、アングルこそアンティークって感じだけど、二十一世紀の今でも十分アイドルとして通用しそうだ。
どこかで見たことがある。
あたしは、アルバムのページを繰ってみた。
「!……これは?」
それは女学校の卒業写真だ。集合写真で「あれ?」っと思い、友だち三人で写した写真で確信が持てた。
それは土手道で、米軍機の機銃掃射から……あたしが救った女学生だ。