大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・48『ハンダクラック』

2018-04-28 10:53:42 | 小説3

通学道中膝栗毛・48

『ハンダクラック』 

 

 最初二分半、二度目に二分でP3は焼き上がった!?

 

 そして仮組してスイッチを入れると、P3はみごとに蘇った!!

「えーー、なんでオーブンで焼いたら直るわけ!?」

「初期のP3は発熱がハンパじゃなくって、基盤がハンダクラック起こすの」

「クラック?」

「ひび割れの事です、融点の低いハンダは発熱と冷却が繰り返されることで微妙に溶けてひび割れが出来ます。ですので、オーブンで程よく焼いてやることで、ハンダが溶けて、再び回路が復活するということなんです」

 アケミさんが補足してくれる。

「初期の60ギガバイトのはP2のソフトもできるし、ま、いろいろできるから置いとくと便利。そーだ、60ギガじゃ可哀想だから1テラくらいのハードディスクに交換して上げよう、こんど持ってくるね!」

 そう言うと、ノドチンコが見えるくらいのアクビをした。

「ちょっとお眠ですね、今夜はこれくらいにしておきましょうか」

 アケミさんが、そう言うとモナミは素直にオンブされてしまった。

「じゃ、栞さま、モナミさまのことよろしくお願いいたしますね」

 

 ニッコリ微笑んで、アケミさんは、モナミをオンブしたまま狭い階段を下りて帰って行った。

 

 そのあと、お風呂に入りながら考えた。アケミさんが言ってたことをね。

 ゲーム以外……ゲーム以外と言っても、ゲームそのものもハンパなわたし。

 考えてみたら、夏鈴が居たころから、いわゆる帰宅部で、学校の行き返りの通学路以外のことはあんまり知らない。

 アキバとか渋谷とかは時々行くし、週末にはメイド喫茶のバイトもやっている。

 でもね、人を楽しませるほどに馴染んだところは一つもない。

 うーーーーーん

 テーマパーク……水族館……動物園……スカイツリー……浅草……人形焼き……海の科学館……お台場……東京ビッグサイト……恩賜公園……それから……

 いっこうにまとまらない。十六年生きてるから、それなりに行ったところは多いけど、連れて行ってもらったとこばかりだ。

 能動的なお出かけじゃなかったから、やっぱ、モナミを連れて行って楽しめる自信はない。

 

 そうこう思い悩んでいるうちにのぼせてしまったので、さっさと寝ることにした。

 

 けっきょく何も思い浮かばないうちに朝が来て、いつも通りの通学路。

 駅の階段を上がっている時にスマホが鳴った。モナミからの電話だ。

 

「もしもし?」

―― オハー栞! この連休海に行くから用意しといてね。また連絡するね! ――

 

 それだけ言って切れてしまった。なんなのよーーとスマホを睨んでいるとホームで準急発車ののアナウンス。わたしは二段飛ばしで階段を駆け下りて電車に飛び込む。

 ちょっと違和感。

 なんと閉じた扉にスカートが挟まれてしまった。

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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト・145【わたしのAKB48】

2018-04-28 06:38:13 | ライトノベルセレクト

ライトノベルセレクト・145
【わたしのAKB48】
         初出:2014-01-26 09:01:22


 このごろ、AKB48を観なくなった。

 最後の学年末テストが終わったら、アキバまでリアルAKBを観にいこうと決めてもいた。
 それが、まるで、そんな気持ちが無くなった。
 自分でも、この心境の変化に驚いている。

 AKBの結成は2005年。今年で10年目……かな?
 わたしがハマリだしたのは、2006年の『会いたかった』のメジャーデビューから。小学校の4年生だった。
 あたしは群れるのが嫌いだった。保育所のころから「お手々つないで」とか「みんなそろってね」とか言われるのが苦手だった。保育所のころは年長組のとき、いつもパートナーになるシンちゃんって子が嫌いなせいかと思っていた。
 シンちゃんも、あたしよりも一つ前のルミちゃんがいいのがよく分かっていた。2年間手をつないでも、お互いの顔は見たこともない。

 小学校に入ったら、変わるかと思ったけどダメだった。

 そもそも、人と群れることがダメと気づいた。
 自分や相手の気持ちなんか、なんにも考えないで「さあ、仲良くね!」は、ゲロが出そうだった。
「亜季、お友だちと仲良くできないんだって?」
 最初の懇談から帰ってきたお母さんが、ため息ついて言ったのを覚えている。
 3年生までは、通知票に決まって「集団活動が苦手」と書かれていた。

 それが、AKBの『会いたかった』で、世界が変わった。

 こんなに、一生懸命いっしょになって歌ったり踊ったりすることができる子達がいるんだ!
 まさに、大発見だった。You tubeなんか観まくっていた。タカミナの「このオーディションに落ちたら諦めようと思ってました」にもビックリした。そしてオーディションの様子。みんな、あたしたちと変わらない年齢で、歌も踊りも上手だとは思えない。プロモの彼女たちとはまるで別人。それが、あのチームワークとテンションの高さ。
 なによりも「お手々つないで」の強制なしでやれているのが信じられなかった。

 4年生からのあたしは、ガラッと変わった。運動会や生活発表会でも進んで前に出て、みんなを引っ張っていった。AKBの主なレパートリーは、ほとんどカンコピできた。でも、みんなとやるときは「会いたかった」とか「ヘビロテ」とか、ポピュラーなものにした。
 AKBの真似だけじゃないよ、遠足や修学旅行でも、いつの間にか仕切り役をやるようになった。

 中学では、キンタローほどではないけどAKBのメンバーの真似なんかもやって喜んでいた。お母さんなんか「一度オーディション受けたら」って言ってくれた。戸惑った。そんな気はぜんぜんなかったから。

 なんて言ったらいいんだろう……。

 富士山に登ろうという人は沢山いるけど、富士山になろうという人はいない……ちょっと近い。
 AKBッポイドというセミプロのグループがある。あの人たちはAKBの真似はするけど、AKBに入ろうとは思っていない。分かるかなあ……。
 キザな言い方すると、AKBからは「やったらできるんだ」という精神に気づかされたのであって、自分がなるものじゃ無かった。

 高校では演劇部に入った。新入生歓迎会で「桜の木になろう」を部員一同でやってくれたから。東日本大震災があって直ぐだったので、正直グッときた。

 入ってガックリだった。

 AKBの真似は単なる人寄せ。部員も他のクラブを兼ねている者が多く、考えていた部活とは違った。でも、そんな一面だけで判断するほど子どもじゃなかった。がんばれば、何かが出来ると信じて練習に励んだ。

 一年の時、震災を取り上げた創作劇をやった。

 ここで違和感。震災を取り上げながら、フィールドワーク一つやらない。せめて疎開してきた人から話を聞くとか、肌で共感しなければ、震災をモチーフにした芝居はやっちゃいけないと思った。
 夏休み、日帰りだけど被災地を自分の目で見に行った。
 そしてAKBのキャラバンのミニコンサートと偶然出会った。

 コンサートは、炎天下のトレーラーの荷台が舞台だった。終わった後握手会。あたしもAKBシアターには何度か行って握手会にも並んだが、ここでは並んじゃいけないと思った。
 驚いたことに、お婆さんが握手会に並んでいた。そしてメンバーになにやら話すと、ディレクターみたいな人が間に入り、みんなでお婆ちゃんの仮設住宅に向かった。

 帰ってから、ブログで分かった。お婆ちゃんのお孫さんがAKBの大ファンで、お婆ちゃんは、孫の魂といっしょに見に行き。感動のあまり、孫に焼香してやってくれと頼んだのだ。

 わたしの芝居は、それから変わった。コンクールでは、それなりの成果もあげた。でも、現場も見ないで受賞だけ喜んでいる部員や顧問にはガックリきた。
 でも、一年は辛抱した。もっとまともな創作集団にしてやる。そんな思いでやった。

 しかし、演劇部は、そういう集団にはならなかった。

 演劇部でありながら、芝居も観なければ、脚本も読まない。あたしは一人浮いた存在になり、二年の一学期で辞めた。
 そのころから、AKBの創立メンバーの卒業が始まった。昨日なんか、小嶋陽菜、高橋みなみ、大島優子が「卒業する!」と宣言し渡辺麻友を驚かせるが、実は“今までのバイト探し”からの卒業宣言だったというものがテレビに出てきて笑っちゃった。

 あたしは、10年ぶりに一匹狼になった。毎日通いながら学校がひどく薄っぺらに感じるようになった。

 お父さんが、昨日同窓会に行って、盛り上がって帰ってきた。今朝も『高校三年生』という古い曲を調子っぱずれな声で歌いながら、フェイスブックでチャットをやっている。お父さんの時代は人間の粘着力が違ったような気がした。
 あたしは、たった三人だけど気の置けない友だちができた。念のため演劇部の子じゃない。それで十分だ。

 あたしは、将来同窓会にはいかないだろう。この仲良し三人組で十分だ。

 AKBも世代交代。あたしのAKBは終わりつつある。二月末には、あたしも卒業。進学しないで就職する。就職先はN物産の赤羽物流センター。

 イニシャルだけはAKBだ。それもセンターだぞ!


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