通学道中膝栗毛・48
最初二分半、二度目に二分でP3は焼き上がった!?
そして仮組してスイッチを入れると、P3はみごとに蘇った!!
「えーー、なんでオーブンで焼いたら直るわけ!?」
「初期のP3は発熱がハンパじゃなくって、基盤がハンダクラック起こすの」
「クラック?」
「ひび割れの事です、融点の低いハンダは発熱と冷却が繰り返されることで微妙に溶けてひび割れが出来ます。ですので、オーブンで程よく焼いてやることで、ハンダが溶けて、再び回路が復活するということなんです」
アケミさんが補足してくれる。
「初期の60ギガバイトのはP2のソフトもできるし、ま、いろいろできるから置いとくと便利。そーだ、60ギガじゃ可哀想だから1テラくらいのハードディスクに交換して上げよう、こんど持ってくるね!」
そう言うと、ノドチンコが見えるくらいのアクビをした。
「ちょっとお眠ですね、今夜はこれくらいにしておきましょうか」
アケミさんが、そう言うとモナミは素直にオンブされてしまった。
「じゃ、栞さま、モナミさまのことよろしくお願いいたしますね」
ニッコリ微笑んで、アケミさんは、モナミをオンブしたまま狭い階段を下りて帰って行った。
そのあと、お風呂に入りながら考えた。アケミさんが言ってたことをね。
ゲーム以外……ゲーム以外と言っても、ゲームそのものもハンパなわたし。
考えてみたら、夏鈴が居たころから、いわゆる帰宅部で、学校の行き返りの通学路以外のことはあんまり知らない。
アキバとか渋谷とかは時々行くし、週末にはメイド喫茶のバイトもやっている。
でもね、人を楽しませるほどに馴染んだところは一つもない。
うーーーーーん
テーマパーク……水族館……動物園……スカイツリー……浅草……人形焼き……海の科学館……お台場……東京ビッグサイト……恩賜公園……それから……
いっこうにまとまらない。十六年生きてるから、それなりに行ったところは多いけど、連れて行ってもらったとこばかりだ。
能動的なお出かけじゃなかったから、やっぱ、モナミを連れて行って楽しめる自信はない。
そうこう思い悩んでいるうちにのぼせてしまったので、さっさと寝ることにした。
けっきょく何も思い浮かばないうちに朝が来て、いつも通りの通学路。
駅の階段を上がっている時にスマホが鳴った。モナミからの電話だ。
「もしもし?」
―― オハー栞! この連休海に行くから用意しといてね。また連絡するね! ――
それだけ言って切れてしまった。なんなのよーーとスマホを睨んでいるとホームで準急発車ののアナウンス。わたしは二段飛ばしで階段を駆け下りて電車に飛び込む。
ちょっと違和感。
なんと閉じた扉にスカートが挟まれてしまった。