フケモンGO 12
『SEVENTEEN』
あたしの家の前は4メートル幅の生活道路。
そこに数十人のマスコミがひしめいていて、それを掻い潜るようにしてタクシーに乗った。
映画……主演……シンデレラ……決意……したのは……一言……頼みに……オーディション……これから……。
マスコミの人たちの言葉が、タクシーの中で細切れの渦になって、あたしの頭をかき回す。
「ね、お母さん、これって?」
「着くまで目をつぶってらっしゃい、着いたらこんなもんじゃないんだから」
「いったい、なにが?」
お母さんは答えてくれず、混乱したままPホテルの車寄せに……そこでも大勢のマスコミが居て、もうほとんど恐怖なんだけど、十人ほどのガードマンと屈強なオニイサンがガードしてくれ、学校の体育館程のロビーを抜け、エレベータに乗せられ二十階(たぶん)の大広間に着いた。
『SEVENTEEN』
金屏風の上には、そのタイトルが掲げられ、横には日米合作ナンチャラと書いてあったような気がしたんだけど、確認する前にマイクやら花の飾りが並んだテーブルに座らされた。
席に着くと、一斉にストロボが焚かれ、パシャパシャと夕立みたくシャッターの音。ただただビックリし続けていると、いつの間にか周囲に大人たちが座っている。
鈍感な上に狼狽えまくっているあたしでも、これが日米合作超大作映画の制作発表会であることが知れてきた。
間もなく日米合作映画『SEVENTEEN』の制作発表ですが、関係者が揃うまで今しばらくお待ちくださいませ。
司会のオネエサンが、ゆったりした笑顔でおことわりを言う。
このオネエサンだって、オーラありまくりの美人さんで、彼女を主演にしても立派に映画が撮れそうな気がする。
ストロボを避けて目を上げると、特大の映画のタペストリーが何本も壁に掛けられているのが分かった。
やっぱ、あたしだけどあたしじゃない……。
タペストリーの真ん中には、それぞれ違うあたしがいる。映像記号としてはあたしなんだけど、目鼻立ちの整い方や微妙な骨格の塩梅、それに、その姿から発せられるオーラが、決定的にあたしではない!
と言いながら、その姿は、今朝姿見に映ったあたしそのものではある……。
それから五分ほどの間に、スタッフのエライサンや、出演者と思しき人たちが席に着いた。みんなあたしに握手してから座っていく。
これは違うだろう……そう思いながらも、いつの間にか調子を合わせている自分に戸惑ってしまう。
そして、決定的な人が急ぎ足で現れた。
ほら、お父さんよ、やっと来たわ。
お母さんが、あたしの肘をつつきながら小声で言った。
え………………?
それは、あたしが17年間親しんできたお父さんではなかった……。