通学道中膝栗毛・38
『足止めを食う・2』
アラレちゃんみたいなナリはしているが淹れてくれたお茶は絶品だ。
わたしもメイド喫茶でバイトをするようになってから多少は分かる。
カップを事前に温めることや、お茶ッパを入れる時にも二人分であるにもかかわらず三杯入れる。
呪文のように小さく呟いているのが――one for you. one for me. one for the pot.――であると知れる。
「家の者は、紅茶にはスコーンだって言うんだけど、わたし的には芋清さんの……おお!」
アラレちゃんは芋清の紙袋を開けて目を丸くする。
「すごい! ほんとにじゃがバター始めたんだ!」
「気に入って頂けたらうれしいです」
変な子だと思っていたけど、芋清のお芋を素直に喜ぶ様子はアドバンテージだ。
部屋は十二畳ほどだけど、コンピューターやモニター、イコライザーみたくフェーダーが一杯ついたのやら、電子機器としか、わたしの知識では分からないものが中心に、小さな旋盤ボール盤、3Dプリンタと思しき機材。棚や机の上にはゲーム機が二三十台、天井まであるラックにはゲームやフィギュアやロボット。
ソファーの周囲だけはカーペットが見えているが、それ以外のところは黒いケーブルが縦横無尽に走り回っている。ハッキリ言って超ド級のオタク部屋だ。全てのモニターが起動していて、テレビスタジオの副調整室みたい、一つのモニターで四つの動画を流しているものもあり、SNSの画面になっているもの、テレビ画面になっているもの、たくさん点いているいるので目がチラチラしてしまうが、ゲームの中継らしいものにおのずと行ってしまうのは、ライトではあるけど、わたしも同類の証かな?
部屋の様子に気を取られていると、アラレちゃんはタブレットになにやら打ち込んでいる。
「おいちゃんにメール打っといた、ルイザがバグってあなたが出られなくなっちゃったって」
「どうもありがとう」
おいちゃんと呼ぶのはお馴染みさんの証拠だ、ということは外に出かけることもあるのかなあ……少なくとも商店街の芋清にはいくんだろう。いや、それもずっと前のことで、いまは引きこもってるんだろうか?
「いろいろ興味を持ってくれたみたいね栞ちゃん」
「え?」
わたしのこと知ってるんだ。
ちょっと不気味になってきた……。