通学道中膝栗毛・39
『足止めを食う・2』
モニターの一つに親近感が湧いた。
プレステ3のメニュー画面になっているんだけど、ツールアイコンがチラチラと動きまくっている。
「あー、これ?」
わたしの視線に気づいたアラレちゃんは、兎みたくジャンプしてコントローラーを三つもつかんだ。
「プレステ3が三つも?」
「あ、一個はVitaテレビ、コントローラーはP3と共通だから……えと、これだな」
一つを選ぶとカチャカチャとやり出した。
「アニキに貸してたんだけどね、あいつタバコ吸うし部屋は汚いし、すぐ、こうなっちゃうんだよね」
「そうなると直らないでしょ?」
「直るよ、たいてい」
「え、そうなの!?」
自分のプレステ3も同じ症状なので声が弾んでしまった。
「そういう反応する人には面白いかも、ちょっと直してみるね!」
アラレちゃんは「んちゃ!」一声言うと、コントローラーをでんぐり返して五本あるネジをスルスル外した。
「開けちゃって大丈夫なの?」
「ダイジョ-ブダイジョーブ、ほらね、パカッと開けてバッテリーと基盤を出して……ほら、R3とL3のグリグリ……ここにホコリやらナンヤラが……」
「毛が絡みついてる」
「犬飼ってるから、冬毛が抜ける時期はこまめにブラシ掛けなきゃ……おーし」
器用にホコリや抜け毛を取り去ると手製っぽいポンプを出す。
シュッ シュッ
「自転車の空気入れみたいな音」
「みたいじゃなく自転車の空気入れ。ピンポイントでホコリ取るには最適なんだよ……でもって」
こんどは極細ノズルの缶スプレー。
「油差すの?」
「まさか、これは接点復活スプレー。ホコリとか錆とかで鈍感になったスイッチとかを劇的に回復させんの」
R3とL3のグリグリにほんの少しスプレーし、グリグリを馴染ませ、裏ブタをカチャ、ネジをキュッキュッ。
「ほら、直った!」
モニターのメニュー画面は劇的に落ち着きを取り戻した。
「うわー、直った直った!」
「その感動の仕方は、あなたのとこにもP3があって、同じような症状で、こりゃコントローラーの買い直しだと思っていたんじゃない?」
「う、うん、当たり!」
「こういう電子機器ってのは意外に丈夫でね、ちょっとしたことで直せたりするんだ。この部屋の機材って、ほとんどジャンク品だったんだよ。このP3は……ほら」
本体をひっくり返して、付けたままの値札を示してくれる。
「え、五百円!?」
「うん、クリーニングして、適当にいじってやると復活する。栞ちゃんもやってみな、使いさしだけど接点復活あげるから」
「いいの?」
「うん、満タンでも千円しない。ま、二百円分ほどしか残ってないし」
「ありがとう、チャレンジしてみる!」
足止めを食ったけど、得難い収穫だ。
「再起動しました」
声にビックリして振り返ると、首なしのルイゼがすぐそばに! あやうく気絶するところだ!
「ヘッドなしでも起動するようになったんだ!」
「PCのバックアップエンジンで動いています」
「あ、そっか、レストアするときにバックアップとったんだっけ」
にこやかに邂逅を喜ぶ主従ってとこなんだけど、アラレちゃんと首なしメイドさんのツーショットは、やっぱシュールだ。