大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

勇者乙の天路歴程 007『始まりの駅へ』

2024-03-15 15:29:01 | 自己紹介
勇者路歴程

007『始まりの駅へ』 




 駅まで全力疾走!

 発車まで2分を切っている。

 ここからなら歩いて8分、走って4分。もっとも還暦を過ぎてからは10メートル以上走ったことが無い。
 10メートルというのは、自宅最寄り駅横の踏切。駅向こうの床屋に行こうとして上がったばかりの遮断機を潜ると、とたんに警報機が鳴りだした。
 戻るのも業腹で、それで走ったのが数年前だったか。今は踏切横のエレベーターで上り下りして、踏切そのものを忌避している。

 若いころでも3分は切れなかっただろう。それを2分は絶対無理なんだが、どうも体は身体能力のピークであった高校時代のそれを超えている。
 ゲームの一人称視点のように、見える自分は手足と、せいぜい胸元まで。腎臓結石の手術の後リハビリを怠ったので、左腹側部の筋肉が戻らなくて、そう太っているわけでもないのに、左の腹がプルンプルン揺れていたが、それもない。
 取りあえず体は軽くて、インターハイに出場した陸上部の部長程度には走れている。
 パン屋のウィンドウに映る姿をチラ見すると、流行のRPGゲームを実写化したキャラというか『走れメロス』と打ち込んでAIが生成したCGのようだ。

 セイ! トォ!

 黄色が点滅し始めた交差点も、たった二歩のジャンプで渡ることができた!

 これで空が飛べたら鉄腕アトム! 今でも十分エイトマン!

 ヒーローに例えても出てくるものが古い(^_^;)。

 昼日中なので、通行人も多いのだが、全力疾走のわたしを見ても訝しんだり驚く者がいない。むろん、人にぶつからないように注意しながら走っているんだが、ひょっとしたら見えていないのかもしれない。

 駅の階段もわずかツーステップで駆け上がり、改札は障害物競走の要領で飛び越える。

 ポロロン ポロロン ポロロ~ン♪

 聞き慣れた発車のメロディー、それも終わりの一小節。これが聞こえたら、たとえホームに着いていても乗車は諦める。

 トォ!

 なんの躊躇いもなく飛び込む、それも腰のソードがドアに挟まれないように縦にして。

 ムグ!

 しかし、マントの端が挟まれて焦る。以前カバンのマスコットがドアに挟まれて難渋している他校の生徒を助けてやったことがある。引っ張たらストラップのところで千切れてしまって、そいつは礼も言わずに憮然として電車を降りて行った。

 あの時のような無様なことをしてはなるものか!

 フン!

 ほんのコンマ何秒力を入れるだけでマントは万力のようなドアから挽く抜くことができた。

 あれ?

 車内を見渡して驚いた。

 昼間の空いている時間帯とはいえ、その車両にはわたし一人しか居ない。

 前後の車両を見晴るかしても、人の気配がない。

 回送電車……いや、ちがう。

 単に車内に人気が無いだけではない。

 窓の外に景色が無いのだ。下りの電車に乗ったのだから、このあたりの第二種住居地域 の街並みが広がっているはずなのに、住宅も小規模工場の群れも見えなかった。晴れた日には富士山をアクセントに刀の波紋のように連なる山並みも見えない。それどころか空と地面の区別もあいまいで、ぼんやりと乳白色に染まる空間が広がるばかりだ。

 さて……

 そして、そう焦る気持ちにもならず、立ったまま十分ほどが過ぎた。

 パ

 音がしたわけではないのだが、そういう音がした感じで、ドアの上のモニターに文字が現れた。

――間もなく始まりの駅です。勇者さまは次でお降りください――

 そのテロップが二度流れると、電車はゆっくりと減速して、今どき珍しく、この路線では存在しないはずの島式ホームに停車した。

 
☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒
 
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鳴かぬなら 信長転生記 170『赤壁・2』

2024-03-15 10:25:29 | ノベル2
ら 信長転生記
170『赤壁・2』書籍範 




 赤壁は魏と呉の境を流れる長江の上流にある。


 魏王曹操様のご提案で大法話が開かれる河原よりも上流にある。両岸には高々と天然の岸壁が聳え、その岩肌が赤みを帯びているので古くから赤壁と呼ばれている。

 むろん全てが岸壁では無くて、岸壁の切れ目や後退しているところには小規模の船着き場が設けられていて、下流域ほどではないが人の往来や物資の流れがある。大軍の渡河には向いていないが複数の切れ目から同時に侵攻させるか、あるいは上流・下流より船団を進めて兵を上陸させることは可能だ。ただ、優れた指揮官と軍師の存在があればのことだが。

「あら、あなた、なにか工事をやっていますよ。音が聞こえる!」

 ドドドド ガガガガガ カーンカーン ブルルルルー

 歳の割には耳と目の良いかみさんが声を弾ませる。

 かみさんは年相応にボケ始めていたが、大橋様が豊盃楼を買い取りパサージュの作事を始めた時から工事や建造に興味を持ちはじめた。パサージュの中央路の天蓋を高くし舞台を設えられた時は日がな一日店の前に座って工事の進捗を眺めていた。
 書店を買い取って頂いた時も、一画を新聞販売店に残す工事を「お店の整形手術!」と喜んでいた。

 来年あたりは夫婦そろって養老院かと思っていたので、この変化は嬉しかった。

「あんまり前に出たら危ないよ」

 注意しながらも、わたしも横に並ぶ。

 工事は岸壁の切れ間に堤防を作る工事だ。

 もし赤壁を一万尺の空から見下ろせば神さまがお造りになった天然の堤防にみえるだろうが、地上から見れば隙間だらけで、場所によっては差し渡し数百メートルにも及ぶところがある。
 そこを、左右両岸同時に築堤工事をやっていて、それが上流に向かって続いている様は、先日見たタクラマカン砂漠以上に壮観だ。

「まあ、工事をやっているのは兵隊さんたちですよ」

「ああ、ほんとうだ……少しは呉の人間も混じっているけど……ほとんど魏の歩兵たちだ」

「若い兵隊さん達がキビキビ働いているのはいいものですねえ」

「ハハハ、婆さん、ほんとうは工事じゃなくて若い男を見ているのがいいんじゃないかぁ」

「作られる物と作る人の調和と力強さがいいんですよぉ」

 少女のように口を尖らせる。久々に婆さんではなくて『栞ちゃん(かんちゃん)』と呼んでみようかと思った……が、いざとなったら呼べない(^_^;)

「あら、ねえ……」

「どうした、か……婆さん?」

「堤防、微妙ですけど南の方が高くなってますよぉ」

「え、そうなのか?」

「ええ、豊盃楼の工事の時は毎日現場監督さんに高さを聞いてましたから確かですよ」

「ああ、でも、ビルと堤防じゃ違うだろ」

「いいえ、確かです!」

「そうかぁ」

「もう、範ちゃん、耄碌してますよ」

「耄碌はひどいよ栞ちゃん」

「あはは、奥方がおっしゃる通りですよ」

「「え……(゚д゚)!」」

 声に振り返ると、現場監督のようなナリをした小柄な男が部下らしい数人の兵を引き連れて立っていた。

 この男は……店番の合間に読んだ雑誌や歴史書が頭を巡る。

 数百人の写真やプロフが明滅して、数秒後にヒットした。

 この御仁は、ここのところ滅多に姿を見せなかったが……間違いない。


 魏王、曹操その人だ!

 

☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主

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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第110話《帝都女学院七不思議・2》

2024-03-15 06:08:03 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第110話《帝都女学院七不思議・2》さくら 





 ビー玉の群れは、ゾロゾロと北門の坂道を転がっていった。

「「「「「ふっしぎー!!」」」」」

 みんなが、一斉に声を上げた。七不思議の最初、北門の重力異常の撮影に取り掛かっている。

 どう見ても北門の位置が低く、校舎側が高くなっているように見える。だのにビー玉の群れは、北門から校舎に向かって転がっていく。なんか遊園地のトリックハウスのようだ。

「これは、トリックハウスの原理よ!」

 理系の成績トップの松坂莉乃が指を立てる。

「いいこと、このアプローチの道幅、校舎側の方が細くできているの。他にも植木の高さを意図的に刈り込んで、校舎側が高く見えるようにしてあるのよ。このアプローチも微妙に曲がってるじゃん。そのへんにも秘密があると思う」

「あたし試してみるで」

 バレー部の名セッターの山口里奈が大阪弁で名乗りを上げる。

 最初にバレーボールを転がした。数秒じっとしていたボールは、ゆっくりと、坂道を登って行った。

「やっぱり……」

「体で試してみる」

 横になって転がるのかと思ったら、バレーボールをトスしながら、坂道を登って行った。

「どう?」

 米井さんが、坂の上の里奈に声を掛けた。

「不思議やなあ……感覚的には、こっちの方が高い」

 みんなは、当惑顔で、顔を見合わせた。

 里奈は練習中に体育館の床の傾きを感知し、顧問を通じて学校に申し入れたことがある。
 測量の結果、0・3度床全体が中央に向けて傾斜していることが分かった。残念ながら体育館は七不思議ではなかった。単に老朽化で床が沈み込んでいるに過ぎない。   
 ただ、この傾きでは公式戦などはできなくて、バレー部のみんなは密かに喜んだ。欠陥のある会場で公式戦はできない。つまり帝都は当分公式戦の会場になることはなく、試合会場の準備や後片付けをしなくても済むからね。

「ま、こんなこともあろうかと、専門家呼んでるの」

「え、そうなの?」

「だったら最初から、専門家の人にやってもらったらよかったのに」

「演出よ、演出。まずみんなで試して驚いておく。ここまで撮ってあるわよね」

「うん、ばっちり」

 写真部のオソノがスマホを示した。

「やあ、遅くなってごめん」

 北館の校舎の陰から、二人のオッサンを従えて佐伯君(ほら、チェーンメールで騒ぎになった米井さんの双子の兄貴。でも彼って病気のはず。大丈夫かなあ)が乃木坂学院の制服で現れた。

「佐伯君のお父さんのコネで、測量技師の人にきてもらったの。よろしくお願いします」

「いや、持ち場の仕事が終わったとこなんで、大丈夫ですよ。じゃ、四ノ宮クンかかろうか」

 四ノ宮……あたしは、その名前にビビッときた。黄色のヘルメットの下の顔は豪徳寺の水道工事のガードマンのニイチャンだった!

「こういう現場は時々あるんですよ。ま、視覚的な勘違いがほとんどですけどね」

 測量技師のオジサンが準備をしながら呟き、莉乃が「どんなもんだ」という顔をする。

 オジサンはトランジットという三脚付の測量機械を出し、四ノ宮君は測量用の物差しの化け物みたいなの持って、4か所ほど立った。

「……測量したかぎり、校舎側の方が3度、高さで30センチほど高くなってます」

「えー!?」

「よかったら、ボクが説明するよ」

 ヘルメットを脱ぎながら、四ノ宮青年が言ったので、猫じゃらしを見せられた子猫のように一斉にそっちを向いた……。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
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