大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・039『豊受神のオトヨさんと樺太ランチ』

2024-03-31 10:45:42 | カントリーロード
くもやかし物語 2
039『豊受神のオトヨさんと樺太ランチ』 




 あ、ひいお爺ちゃんだ。


 そう思ったのは、目の前に現れた建物がひいお祖父ちゃんが勤めていた愛知県庁に似ていたから。

 愛知県庁は六階建ての鉄筋コンクリートなんだけど、部分的に七階になっていて、七階部分は名古屋城そっくりの和風の屋根になっている。

 目の前の建物は縦にも横にも県庁の半分の三階建。そして真ん中が四階建になっていて、お城の天守閣みたいな和風の屋根が載っている。

「サハリン州郷土博物館なんだけどね、元々は樺太庁博物館なんだ」

『子どもの頃に社会見学で来ましたよ!』

 交換手さんが御息所の姿で声を弾ませる。いつも冷静な交換手さんなんで、ちょっと新鮮。
 御息所は、いつもはにくたらしいんだけど、交換手さんの魂が宿っていると、とても清楚な美人さんだ。1/12サイズだけどね。

「さあ、入るよ」

 少彦名さんが歩き出すと、デラシネがわたしの後ろに隠れた。

「ケルベロスみたいなのが居る!」

「え?」

 見ると、玄関の両脇に強そうな狛犬が居る。

「ああ、うちに居た狛犬だ。口を開けてるのが太郎、閉じている方が次郎。僕のお客さんだ、挨拶しろ」

 少彦名さんが言うと、二匹の狛犬は怖い顔のままペコリと頭を下げた。

「あ、おっかない……」

 デラシネはわたしの後ろにくっついたまま博物館の中に入った。

「展示物にも面白いのがあるんだがね、今日は時間がない、食堂の方に行くぞ」

 そう言って、正面の階段は登らずに階段の下へ。

『そうだ、地下には食堂があったんです。社会見学に来た時いい匂いがしてました!』

「交換手さん、食べたことあるの?」

『いえ、社会見学でしたから匂いだけでしたけどね(^_^;)、見学が終わってから、近くの公園でお弁当食べました』

「じゃあ、百年ぶりに実物を食べられるわけだな」

『百年も経っていません、九十年ですョ!』

 アハハハハ((´∀`*))

 いつも冷静な交換手さんがムキになるのでおかしい。

「オトヨさん、連れて来たよ~」

 少彦名さんが呼ばわると奥の方から「ハイヨ~」と明るい声がして割烹着に三角巾の女の人が出てきた。

「いらっしゃい、ひい、ふう、みい……少彦名入れて四名様だね」

「ああ、樺太ランチ四つで頼むよ」

「樺太ランチ四つ!」

 厨房の方にオーダーを通すオトヨさん。

 感じは高級レストランなんだけど、ノリは大衆食堂の雰囲気だよ。

「乱暴な感じだけど、美人だなぁ、オトヨさん」

 デラシネはオトヨさんの方に感心している。

『ひょっとして、豊受神(とようけのかみ)さまでいらっしゃいます?』

「ああ、そうだよ」

「トヨウケノカミ?」

『食べ物の神さまです、天照大御神の孫娘でいらっしゃいますから、おきれいなのは当然です』

「少彦名といいオトヨさんといい、なんだか雰囲気がいいなあ……」

「神さまの有りようなんて、いろいろなんだ。異国の女神よ」

 あ、なんか少彦名さんの目が優しい、というか、言葉遣いまで。

「女神って……(-_-;)」

「俯かれるな、貴女がひとかどの女神、それも女王級のお方だというのは分かっております。先日、三方さんからも回覧板が回ってきました」

「三方さんから?」

「ははは、もてなしというほどのことは出来ませんが、まあ、ゆっくりされよ」

「は、はい」

「と、畏まった言葉遣いはここまでにして、ランチができたようだ」


「はい、おまちぃ! 樺太ランチ四つぅ!」


「「『うわあ(^▽^)!』」」

 あっという間にお誕生会のような雰囲気になって、おいしく樺太ランチをいただく。

 シャケのちゃんちゃん焼きをメインに、エビやらカニやらイクラやら、一見カチコチのロシアパンも中はモチモチ。

 みんなで美味しくいただいて、いよいよメインの樺太観光になったよ!

 
☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第125話《尾てい骨骨折・5》

2024-03-31 07:04:36 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第125話《尾てい骨骨折・5》さくら 




 唄い終ると松子さんは照明やらパソコンをいじって「ワンモアプリーズ( •◡-)♡ 」とウインクされてもう一回。

 そして、晩御飯を勧められた。

 地下のスタジオから戻ると息子さんご夫婦も帰っておられて準備も整っていたので、断るのも失礼かと家にはスマホで連絡。お誘いに乗った。
 
「かえって気を遣わせてしまったみたいね」

「いいえ、友達のマクサや恵里奈とはしょっちゅうですから」

 お料理は気取らない多国籍料理だ。

「いいえ、冷蔵庫のありあわせの無国籍料理。共働きの三世帯でしょ、時間もまちまちだし、長年やってるうちに、こうなっちゃった」

 感じとしては煮物と炒め物にサラダ。それが微妙にエスニック。これも各自の好みを聞いているうちに四捨五入して「手抜き」という絶対数で割ると、こういうものになると奥さんの弁。ちなみに息子さんと娘さんは大学生で、わたし同様、朝に家を出たら糸の切れた凧らしい。

「わたしたちの時代じゃ許されなかったけどねぇ」

 そう言いながら、お祖母さんが遅れてスタジオから上がってこられた。

「あ、そうだ。サクラさんに名刺渡しとこう」

 相変わらず、この「サクラ」は、あたしのことか、ひい祖母ちゃんのことか分からない。

―― よろずクリエーター 白波園子 ――と書かれていた。

「この『よろずクリエーター』って、なんですか?」

 無邪気に聞くと、みんながホタホタと笑った。

「ようは、なんでもやりたがり屋。好きなことをやってはブログに書いたりYouTubeに投稿したり……お母さん、さっきの佐倉さんの投稿なんかしてないでしょうね!?」

 校長先生が顔色を変えた。

「もちろんアップしたわよ。だって、あたしと桜の仲なんだもん。ねえ、桜ぁ(^▽^)」

 これは完全にひい祖母ちゃんと間違われている。

「ちょっと、確認」

 校長先生はテレビを点けると、入力をパソコンにした。

「『ゴンドラの唄 桜』で出てくるわよ」

 校長先生が、そう打ち込むと、まるで本物のスタジオで歌手が歌っているように、カメラ3台の画像が切り替わりながら、わたしの歌を流していた!

「いい出来ねぇ。ネット仲間でテレビのメカニックさんがいてね。昨日来てもらって、こういう仕様にしてもらったの。ホホホ」

「佐倉さん、ごめんね、すぐ削除してもらうから」

「なによ、こんなにいい出来になのにい」

「お母さん、肖像権の問題とか著作権の問題だとか……」

「著作権は切れてるからOK。写っているのは桜だし、ねえ」

「え、ああ、いいですよ。あたしYouTubeなんて載ったことないし、良く撮れてるし、記念になっていいです」


 そう答えたのが運命の分かれ道だった。


「ちょっと、さくらのアクセスすごいわよ!」

 帰るなりさつきネエに言われた。

 パソコンには、校長先生の家で観たのと同じ画面が写り、その下のアクセス回数は1000を超えていた。コメントも10個ほど来ていた。

 懐かしいー! 若いのに上手! 大正ロマン!などなど、ご年配と思われる人たちのコメントばっか。

「これ、いつものさくらの鼻歌のレベルじゃないわよさ。なんか特訓した?」

「ううん、お姉ちゃんがのど飴ぶちこんだぐらいよ……」


 そこまで言って気づいた。


 こうなっちゃったのは、秋分の日の夜。尾てい骨骨折やって、なんだか無性に眠くなるようになった。で、そのあくる日にひい祖母ちゃんが夢に出てきて、それからだ……お彼岸ミステリー!

「ハハ、まさかね」

 まあ、一晩だけジババのアイドルになるのもいいか(^_^;)。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
 
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