やくもあやかし物語 2
あ、ひいお爺ちゃんだ。
そう思ったのは、目の前に現れた建物がひいお祖父ちゃんが勤めていた愛知県庁に似ていたから。
愛知県庁は六階建ての鉄筋コンクリートなんだけど、部分的に七階になっていて、七階部分は名古屋城そっくりの和風の屋根になっている。
目の前の建物は縦にも横にも県庁の半分の三階建。そして真ん中が四階建になっていて、お城の天守閣みたいな和風の屋根が載っている。
「サハリン州郷土博物館なんだけどね、元々は樺太庁博物館なんだ」
『子どもの頃に社会見学で来ましたよ!』
交換手さんが御息所の姿で声を弾ませる。いつも冷静な交換手さんなんで、ちょっと新鮮。
御息所は、いつもはにくたらしいんだけど、交換手さんの魂が宿っていると、とても清楚な美人さんだ。1/12サイズだけどね。
「さあ、入るよ」
少彦名さんが歩き出すと、デラシネがわたしの後ろに隠れた。
「ケルベロスみたいなのが居る!」
「え?」
見ると、玄関の両脇に強そうな狛犬が居る。
「ああ、うちに居た狛犬だ。口を開けてるのが太郎、閉じている方が次郎。僕のお客さんだ、挨拶しろ」
少彦名さんが言うと、二匹の狛犬は怖い顔のままペコリと頭を下げた。
「あ、おっかない……」
デラシネはわたしの後ろにくっついたまま博物館の中に入った。
「展示物にも面白いのがあるんだがね、今日は時間がない、食堂の方に行くぞ」
そう言って、正面の階段は登らずに階段の下へ。
『そうだ、地下には食堂があったんです。社会見学に来た時いい匂いがしてました!』
「交換手さん、食べたことあるの?」
『いえ、社会見学でしたから匂いだけでしたけどね(^_^;)、見学が終わってから、近くの公園でお弁当食べました』
「じゃあ、百年ぶりに実物を食べられるわけだな」
『百年も経っていません、九十年ですョ!』
アハハハハ((´∀`*))
いつも冷静な交換手さんがムキになるのでおかしい。
「オトヨさん、連れて来たよ~」
少彦名さんが呼ばわると奥の方から「ハイヨ~」と明るい声がして割烹着に三角巾の女の人が出てきた。
「いらっしゃい、ひい、ふう、みい……少彦名入れて四名様だね」
「ああ、樺太ランチ四つで頼むよ」
「樺太ランチ四つ!」
厨房の方にオーダーを通すオトヨさん。
感じは高級レストランなんだけど、ノリは大衆食堂の雰囲気だよ。
「乱暴な感じだけど、美人だなぁ、オトヨさん」
デラシネはオトヨさんの方に感心している。
『ひょっとして、豊受神(とようけのかみ)さまでいらっしゃいます?』
「ああ、そうだよ」
「トヨウケノカミ?」
『食べ物の神さまです、天照大御神の孫娘でいらっしゃいますから、おきれいなのは当然です』
「少彦名といいオトヨさんといい、なんだか雰囲気がいいなあ……」
「神さまの有りようなんて、いろいろなんだ。異国の女神よ」
あ、なんか少彦名さんの目が優しい、というか、言葉遣いまで。
「女神って……(-_-;)」
「俯かれるな、貴女がひとかどの女神、それも女王級のお方だというのは分かっております。先日、三方さんからも回覧板が回ってきました」
「三方さんから?」
「ははは、もてなしというほどのことは出来ませんが、まあ、ゆっくりされよ」
「は、はい」
「と、畏まった言葉遣いはここまでにして、ランチができたようだ」
「はい、おまちぃ! 樺太ランチ四つぅ!」
「「『うわあ(^▽^)!』」」
あっという間にお誕生会のような雰囲気になって、おいしく樺太ランチをいただく。
シャケのちゃんちゃん焼きをメインに、エビやらカニやらイクラやら、一見カチコチのロシアパンも中はモチモチ。
みんなで美味しくいただいて、いよいよメインの樺太観光になったよ!
☆彡主な登場人物
- やくも 斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
- ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
- ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
- ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
- メグ・キャリバーン 教頭先生
- カーナボン卿 校長先生
- 酒井 詩 コトハ 聴講生
- 同級生たち アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
- 先生たち マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
- あやかしたち デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名