大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・036『交換手さんの提案』

2024-03-16 14:37:25 | カントリーロード
くもやかし物語 2
036『交換手さんの提案』 




 デラシネは言葉にしようと、息を吸っては吐き出した。

 ハーーー

 思いを伝えようとしてるんだけど、言葉が見つからない。あるいは、言葉にしたとたん心か身体か、あるいは、その両方が壊れるか暴れるかしそうで踏み出せないみたいで、何度目かには顔を洗うような仕草のまま伏せてしまった。

 お母さんが言ってた――水泳の授業でね、なかなか飛び込めなかった――って――飛び込むと自分の中にいる魔性の者が蘇ってプールも学校も破壊してしまいそうだった――って。

 自分では「お母さんは魔法使いの子孫だからね、プールなんかに飛び込んだら、それが蘇ってプールも学校もめちゃくちゃにしてしまう!」とか言って、わたしにもそういうものがある的なニュアンスだったけど、あれは、根性なしの言いわけ。
 だいいち、お母さんと血のつながりは無いしね。でも、それを忘れて血のつながりがあるように正当化してるのは、ちょっと嬉しかったけどね。
 
 意味は違うけど、いまのデラシネは、そんな感じ。

 ただ、デラシネはお母さんと違って、ほんとうに能力持ってるから、ほんとうに暴れそう……というか、もう何回も暴れてるし(^_^;)。

 プルルル プルルル

 黒電話が控え目な音で鳴った。

「あ、ちょっとごめんね」

 デラシネにゴメンして受話器を取る。デラシネは邪魔されたというよりは助かった的に息を吐いた。

「もしもし」

『交換手です、お話の最中にすみません』

「あ、いいよ。デラシネも気にしてないし。で、なにかな?」

『こないだ言ったでしょ、真岡。よかったらデラシネさんと二人で行ってみます?』

「真岡! ああ……でも、学校あるし」

『大丈夫です、昔の真岡だし、イマジネーションの中だから時間はたちません』

「あ、そうか。日本であちこち行ってたのと同じなんだ」

『はい、そうです。お供は……』

「交換手さんは?」

『あはは、わたしは電話からは出られませんし(^_^;)』

「あ、そうなんだ」

 日本にいる時から分かってたけどね、いちおう言ってみただけ。

『お供は、いつもの通りポケットの君に……』

 ゴソゴソ

 モゴモゴしたかと思うと、御息所が目をこすりながら顔を出した。

『なにか言ったぁ?』

『御息所さん、やくもさんがデラシネさんといっしょに真岡の見物に行くんですけど、お願いできます?』

『真岡って……あんたの故郷の、樺太の真岡か?』

『はい、そろそろ流氷が動き出す時期でシャケとかも美味しいですよ』

『う~~寒そうでいやだ』

「ヤマセンブルグだって寒いじゃない」

『ここは、寒い時は部屋に居られるし、たいていは寮と教室のどっちかだし』

「あ、それなら、これを貸してやる」

 デラシネが手袋を出した。ポワポワした綿毛のような感じで気持ちよさそうだ。

『わたしの手は、こんなに大きくない!』

「手に嵌めるんじゃなくて……エイ!」

『な、なにをする!?』

 デラシネは御息所の首根っこを掴むと、あっという間に手袋を着せてしまった。

 中指と薬指のところに脚を、親指と小指のところに手を突っ込ませると、お母さんが持っていたモンチッチみたいになった!

『一本余ってるんだけど』

 なるほど、人差し指のところが余ってブラブラしてる。

『それは、お土産を入れる袋というかポケットにすればいいでしょ』

『かっこ悪い……けど暖か~い』

「よしよし」

 御息所が納得したところで、真岡に飛び立つことになったよ。



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第111話《四ノ宮青年の正体》

2024-03-16 06:30:01 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第111話《四ノ宮青年の正体》さくら 




 ヘルメットを脱いだ顔に驚いた!


 それは渡辺謙を若くして、少しバタ臭くしたハーフっぽいイケメンなのだ。それに、耳がすこし大きい。

 思わず見つめてしまった。

「ああ、自分ハーフエルフだから」

 ええ( ゚Д゚)!?

「妹はフリー〇ンていって、魔王をやっつけたあと、魔導書を集めながら仲間と北の国を目指してる」

 は、はあ……

「四之宮クン、こないだはヴァルカン人とか言ってなかったぁ」

 測量技師のおじさんがジト目で言う。

「アハハ、近ごろはスタートレック知らない子もいるからぁ」

「な、なんだ(^_^;)」「信じたぁ(^・^;)」「びっくりしたぁ(^○^;)」

「ここ昔はうちの屋敷があったんだ……」

 あっさり言った……え、エルフのお屋敷!?

「……あの、聞いてる?」

「あ、はい。もちろん!」

 あやうく上の空になるところだった。

「うちは昔ちっこいけど大名家でね、代々ここに上屋敷をもっていたんだ。大名家って没落したとこが多いんだけど、うちのご先祖は上手く立ち回って明治からこっちは華族さまでね。帝都の創設者がひいジイサンの友達で、学校が移転するときにこの家屋敷を寄付した……といったらかっこいいけど、戦争に負けてニッチモサッチモ。で、国に取られてバラ売りされるよりは、そのまま学校になった方がいいって、帝都女学院がここにあるわけ。で、上屋敷だったころは、ここ丑寅……北東のことね、魔物が入ってくるって鬼門だったんだ。実際不審火が出たり、庭師が怪我をしたりしたりして。そこで、都から陰陽師を呼んで鬼門封じをやってもらったと……ここまでいい?」

 みんな黙ってコックリした。エルフの上にやんごとないお方なのだ。

「で、将門塚から敷石を一つもらってきて。あの校舎の下あたりに埋めたんだ。それから、今みたいに坂の上の方に物が転がるようになった。どう、すごい話でしょう……?」

 最後の方は、声を低めて言うもんだから、あたしたちはすっかりキミが悪くなった。

「ハハ、信じたぁ?」

「え……え、ウソなの!?」

「本当さ。でもここから先は佐伯君に譲ろう」

 佐伯君が少年探偵のように一歩前に出た。

「実は、重力異常の場所って案外あるんだよ。うちみたいに建築会社やってると、たまにこういうところに出くわすんだ。地脈の異常とか、地下に大きな隕石が埋まってるとか、説はいろいろだけど、怪奇現象……にしていた方がいいかな。あ、由美、そろそろ時間じゃないか?」

 佐伯君が、兄妹のニュアンスで米井さんに振る。

 それから、わたしたちは米井さんに先導されて旧館三階の水洗い場に向かった。三つ蛇口が並んだ横に時代物の水飲み機があった。

「え、ここで何かあんのん?」

 大阪弁丸出しで里奈が聞く。

「待ってて、あと20秒ほどだから……」

 みんな米井さんに従って、水飲み機を見つめた。


 ドーーーーーーーーーー


 キャ( ゚Д゚)!?

 なんということ!

 誰も触らないのに、水飲み機から放物線を描いて水が飛び出した。まるで透明人間が水を飲んでいるように!
 


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
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