大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・088『ロッカー整理』

2024-03-22 10:52:30 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
088『ロッカー整理』   



「ねえ、これ、似てると思いませんか!?」


 終業式も終わってロッカーの整理をしていると、ロコが映画のパンフみたいなのを開いて近づいてきた。

「あ、見たことある!」

「お、さすがグッチですねえ! 本放送は7月からだから、まだ知らない人が多いんですよぉ!」

「え、そうなの(^_^;)?」

 昭和の学校に通って一年あまり。こういうことには気を付けている。

 通い慣れてしまうと、昭和も令和もそんなに違いは無い。

 両方とも同じ宮之森の街だし、同じ高校生だし。

 でも、実際には50年以上の時間の開きがあるので、うかつに「ねえ、あれだけど」「これなんだけど」という話は禁物。

 令和では普通だったり当たり前なことでも、昭和ではまだ出現していなかったり一般的じゃないことがけっこうある。

 たとえば、アニメという言い方は1971年には無い。テレビマンガというのが一般的。「う~ん、最近のアニメ……」という言い方をしてポカンとされたことがある。いちどポカをやると、あとのフォローが大変なので、これはヤバイなあと予想されるものは避けたりトボケたりしておく。

 でも、ロコが嬉しそうに差し出したパンフのは、令和でも地味に人気だし、かなりの古典だし、うっかり「あ、見たことある!」と言ってしまった。

「セサミストリートはアメリカで爆発的に支持を広げてましてねえ、もう、単なる人形劇じゃなくて文化現象ですよねぇ! で、あ、これこれ」

 ロコが指差したのはバードという真面目な男の子のキャラで、連なった太い眉毛が特徴的。

「あ、ほんとだ、うちの担任(藤田先生)にソックリ!」

「でしょでしょ(^▽^)!」

 感動が共有されると、もう多少の矛盾や不思議は忘れてくれる。

「知り合いからもらって、夏ごろに見せびらかしたんですけどね、日本人は人形劇っていうと『ひょっこりひょうたん島』とかか『チロリン村とクルミの木』ですからね、反応が薄かったんですよぉ。タイプぜんぜん違いますからね」

 なるほど、こういう感動したものを人に伝えようとか共感しようというのが、ロコの優れたところでもあり、少しウザがられたりするところだ。令和でいうオタクなんだけど、昭和のこの時代でも、ちょっと異民族の扱いだ。

「あ、それで思い出したんですよ、さっきの藤田先生の話」

 なんの話しだっけぇ……先生の訓話めいた話は右から左に抜けるようにできている(^_^;)。先生たちも話へたくそだし。

「これから新設の大学がいっぱいできる。芸術系やメディア系とかな。そういう大学は分かりやすくて目新しい学部や学科を看板にするだろうが、要はカレッジだ。中には推薦で入れるところもあるが、安易に選ぶべきじゃない。ユニバーシティーをこそ目指しなさい。学問は積み重ねだ。最低でも創立50年は超えているユニバーシティーをな。それも出来る限り国公立を目指せ、蓄積された知性は何事にも勝る。そのためには、四月から始まる二年生、それも夏休みまでにおおよその勝負はつく。校長先生も終業式でおっしゃっていただろう『夏休みを制する者は受験を制す』とな。この言葉には嘘も誇張もない! そういう話です」

「え、あ、そうだっけ(^_^;)。あ、で、カレッジとユニバーシティーって、どう違うの?」

「え、そこからですかぁ?」

「アハハ、まだあんまり進路とか考えてないしぃ……」

「カレッジは単科大学、ユニバーシティーは総合大学ですよ」

「え、あ、そうそう」

「学部が一つしかないのがカレッジ、複数あるのがユニバーシティーなんですけどね、藤田先生や校長先生が言うのは理系と文系の学部を揃えているような大学のことです。ハッキリ言って国公立のことですね」

「え、ロコ、国公立目指してんの!?」

「いいえぇ……メディア系とかなんですけどね……」

 ああ、藤田先生も校長先生も論外っぽい言い方をしてた大学だぁ。

「あ、なんか……」

 さすがに「臭い」という言葉は呑み込む。

 男子たちが取り出したものは半分ほどは体操服と下足の運動靴。中にはフルカラーのカビが生えていたりするものがあって、ちょっと正視に堪えない。

「もう、そんなもの捨てちゃいなさいよ!」

 思わず10円男に言ってしまう。

「え、体操服は洗ってるぞ」
 
 不足そうに口を尖らす10円男。

「じゃ、なくて、その外骨格よ!」

「え、ヘルメットのことかぁ」

「三年生も卒業したし、そんなの、もう流行らないから」

「あ、でも加藤君には青春の思い出なのかもですよぉ」

「ん? それって、地味にひどくない?」

「え、あ、ごめんなさい加藤君、加藤君はまだまだ青春でした! ですよね!?」

 あ、なんか傷口に塩……憮然とロッカーの中身を抱えると、そそくさと階段を下りていく10円男だった(^_^;)。

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 7組) 上杉(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  
 

 

 

 

 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第117話《トーマス・ブレーク・グラバーの憂鬱》

2024-03-22 05:57:55 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第117話《トーマス・ブレーク・グラバーの憂鬱》さつき 






 キイイイイイイ!!


 渾身の力でブレーキを踏む!

 …………もうちょっとで轢き殺すところだった(;゚Д゚)。

 数秒ハンドルに伏せた顔を上げられなかった。

 そして顔を上げたら、轢かれかけた本人がスタスタ歩いていく後ろ姿が目に入ったではないか!

 同じゼミのトム。

「何か言ったらどうなのよ! 飛び出してきたのあんたなんだから!!」

 思いのほか大きな声になった。トムは初めて気が付いたようにポカンと振り返った。

「……どうしたの、さつき?」

 こいつ、まだ分かっていない。

「急に車の前に飛び出してきて、挨拶もないわけ!?」

「え、ボクが?」

「あんたのボンヤリが原因でも、轢いたら車の過失になるんだからね!」

「ボクが飛び出した? さつきの車の前に……?」

「そうよ、あたしのゴールド免許に傷つくとこだったわよ!」

 トムは、スタスタやってきて、覗きこむようにして言った。

「このミニカーじゃ跳ね飛ばされることはあっても轢かれることはない。物事は正確に言わなきゃならないよ」

 怖い顔で、それだけ言うと足長のイギリス人は、また歩き出した。

「ちょっ!!」

 これが間違いだった。様子がおかしいので、つい声を掛けて助手席に乗せるはめになった。


「……そういうことだったのかぁ」


 事情が呑み込めたのは、ゼミをサボって紀国坂にさしかかったころだった。トムは、正式にはトーマス・ブレーク・グラバーという。ゼミの自己紹介で、この名前を聞いて「「え!?」」と声を上げたのは、あたしと先生だけだった。

 トーマス・ブレーク・グラバーと言えば、幕末に竜馬の海援隊や薩長相手に武器の商売をやってがっぽり儲けたイギリス人だ。それと同姓同名だったので、あたしと先生はたまげた。他の学生はグラバーそのものを知らなかったか、知っていても「幕末の」という冠むりが付かなければ思い出せなかった。まして、フルネームで知っていたのはあたしと先生だけだ。

 そのあたしでも、トムがスコットランドの出身で、今日が特別な日であることは理解していなかった。

 ゼミをサボるについても一応先生に電話はしておいた。

「今日はトムにとっては特別な日なんだ。欠席にはしないから付き合ってやってくれないか」と、頼まれた。

 で、ただでもガタイのでかいトムを折りたたむようにして、ホンダZの助手席に押し込んだ。

「じっとしていられないから、どこでもいいから走って」

 で、走っているわけ。

 その間にトムは問わず語りに事情を話した。


 トムはイギリスの北1/3あたりにあるスコットランドのエジンバラに住んでいる。日本の京都と姉妹都市……でも分かるようにエジンバラはスコットランドの古都。このエジンバラを首都としてスコットランドはイギリスからの独立をはかり、向こうの18日、こちらの深夜から未明にかけて住民投票が行われ、あの大英帝国本土の一部が無くなるかもしれないという事態なのだ。
 投票権はスコットランド在住の者しか与えられない。トムのようにスコットランドに住んでいなければ投票権がない。逆にスコットランドに住んでいれば外国人でも投票権があるらしい。

「考えてみてよ、日本で言ったら京都府が独立するようなものなんだよ」

「あり得ないわよ、そんなこと」

「日本人は呑気だなぁ、これ見なよ」

 トムのスマホには沖縄の新聞記事が出ていた。そこには……。

 沖縄の独立を目指そう! と、一面で取り上げていた。ちょっとびっくりしたが、あり得ない話だと思った。

「イギリスでも、そう思ってたんだよ。1990年代までは……それが現実になっちゃった」

「そうなんだ……で、投票できるとしたら、トムはどっち?」

「分からない、両方の気持ちが分かるから」

 この優柔不断な答えを聞きだしたのは横浜の山下公園だった。雰囲気のないことにトムは焼き芋を買ってきて、二人並んで食べている。

 ここは、あたしの大好きな『コクリコ坂から』の主人公メルが俊が自分たちの未来を不安交じりに語り合う聖地なんだぞ。

 ボーーーーー

 思いのほか遠くの汽笛が大きく聞こえた。トムはその音に紛らわせてオナラをした。風下にいなければ気づかないところだった。トムの憂鬱はよく分かったけど、デリカシーのないスコットランド人だ……! 



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする