大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

勇者乙の天路歴程 009『八百比丘尼』

2024-03-21 09:37:14 | 自己紹介
勇者路歴程

009『八百比丘尼』 




 先ほどと同様に膝に両手をついて、ゼーゼーと肩を上下させる静岡あやね。


「どうしたんだ、静岡ぁ?」

「あ、いえ……」

 左手は膝についたまま、右手だけハタハタとさせる。

「わたし……静岡あやねじゃなくてぇ……」

「え?」

「ゼーゼー……八百比丘尼です」

 やっと上げた顔は、静岡あやねに性格真反対の双子の姉妹がいたらこうだろうというぐらいに明るい。

「え……だって」

「影響されやすいんです。八百年生きてきましたけど、その時その時、関りの深かった人や影響力のある人に引っぱられて、見た目がコロコロ変わるんです」

「え、そうなの?」

「はい、またじきに変わると思いますので、とりあえず宜しくお願いします」

 ペコリとお辞儀する姿も、さっきの静岡そのものだ。

「あ、あの時のお辞儀は良かったですね。素直な喜びに満ちていて、それがお辞儀する時の勢いになっていて」

「あ、うん。常日頃、ああいう風に振舞えたら、もう言うことなしなんだけどね」

「ですね。わたしも感動したから、この姿になりました。ええと、原則的にタカムスビさまは神社の境内からはお出ましにはなりませんので、わたしが仲立ちをいたします。まあ、人の形をしたインタフェイスとでも思ってください。少しぐらいなら戦闘力やスキルもありますので、きっと役に立ちます」

「そうか、そうですか……」

「あ、わたしにはタメ口でけっこうです。呼び方は正式には八百比丘尼ですが、ビクニでけっこうです。なんなら、その時その時の姿やキャラに見合った呼び方でもかまいませんので」

「ええと……じゃあ、比丘尼」

「あ、それは漢字のニュアンスですね。もっと気楽に平仮名か片仮名のニュアンスでけっこうですよ(^○^)」

「そ、そうか」

「先生も、勇者らしく逞しいビジュアルになられてよかったですね!」

「え、あ、そう。気が付いたらこんな感じになっていて、いや、こっちこそ、ちょっと恥ずかしいかな」

「これからはカオスの旅になると思いますので、それでちょうどいいと思います」

「そうかそうか。ではビクニ、とりあえずはこっちの方でいいのかなあ?」

 草原の獣道を指さす。

「はい、正解だと思います。さっそく参りましょうか!」

 勢いよくスカートを翻して前に立つビクニ。

「ああ……」

「はい、なにか?」

「この草原を行くのに、制服では厳しくないかなあ。せめて体操服にするとか」

「あ、そうですね、気が付きませんでした! えい!」

 シャラ~ン

 べつにエフェクトが入ったわけではないが、そんな感じでコスが変わった。

「あ、その体操服はぁ(^_^;)」

「え、ダメですか?」

「今はブルマなんて穿かないからね」

「先生の頭に浮かんだイメージでやってみたんですけどぉ」

「え、あ、ジャージジャージ! 耐寒登山の時の服装!」

「了解です!」
 
 シャラ~ン

「どうですか?」

「あ、うん、これなら大丈夫かなぁ」

 学年色のジャージに軍手、ネックウォーマーにキャップを被り、背中にはリュック。

「ちょっと、こっち向いて」

「はい」

 振り向いた胸の名札が静岡のままだ。

「あ、名前!?」

 パチンと指を鳴らすと、名札は『ビクニ』と変わった。

「よし、では行くとするか」

「出発進行!」

 ビクニと二人、草原に踏み込む。

 少し行って振り返ると、始まりの駅は灰色の闇に呑み込まれて見えなくなっていた。
 

☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • 八百比丘尼      タカムスビノカミに身を寄せている半妖
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒

 

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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第116話《最後の七不思議・2》

2024-03-21 06:43:30 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第116話《最後の七不思議・2》さくら 




 控室は12畳ほどの和室だった。


 正面の幅広の床の間みたいなところで、佐伯君は首までお布団掛けられれて、胸のあたりが盛り上がっている。胸のところで手を組ませてあるんだろうね。

 マクサが無言のままお焼香。手を合わせお香を一つまみくべて、もう一度手を合わす。みんなもそれに倣った。最後にわたしがお焼香し終えたとき、由美は初めて口を開いた。

「もう、月の初めにはダメだって言われてたの。でも七不思議の話をしたら『オレもいっしょにやる』って言って痛み止めの注射だけしてもらって帝都に通ってくれた。聖火ドロボーの話、一番気に入っていたわ。最後は、これを超えるやつがトドメにあればな……って」

 由美が語る佐伯君の言葉は由美の口を借りた間接的なものだけど、声の響きは兄貴としてのそれだった。あたしに彼氏はいないけど、惣一って兄貴が一匹いる。兄貴の言葉遣いだと感じた。

「夕べは七不思議のことで話が盛り上がってね、つい病室に泊まり込んだの……今朝方様態が急に変わって。最後に酸素マスクしながら言ったの……そうだ、オレと由美のことをトドメの七不思議にしようって……ふとしたことで知り合って、いい感じで付き合い始めたら、双子の兄妹ってことが分かってさ、そしてまた兄妹に戻れた。七不思議のお蔭で……オレたち二人でトドメの七不思議になろう。そう言ってあたしの手をとったのが最後だった」

「……そうなんだ」

 やっぱ、東京の女子高生として精一杯寄り添った気持ちで言うと、この言葉になる。

 本通夜は焼香だけで失礼した。親族の人や乃木坂学院の制服がいっぱいきていた。わたしたちは昨日の由美の言葉で十分だった。由美も落ち着いたいつもの顔にもどっていた。この夏休みまでだったら「冷たい」と思うほどの落ち着きだったけど、今は分かる。由美が表面張力いっぱいで心が溢れるのを耐えていると、ああいう顔になるんだ。

「さくら、いつの間にか『米井さん』と違うて『由美』て呼ぶようになったんやね」

 恵里奈に言われて、初めて気がついた。


 今日のお葬式では引き留められた。


「マイクロバスに乗って斎場まで付いてきて。お兄ちゃんの遺言だから」

 あたしたち8人はマイクロバスの後ろに固まった。故人の遺言とは言え、周りは親族の人ばかりだからね。

 火葬炉の前で最後のお別れをした。棺の小窓が開けられ、花に埋もれた佐伯君の顔が見えた。まるで眠っているような表情が不条理だ。泣いている子もいたけど、あたしの中では佐伯君が死んだことが、まだ腑に落ちない。由美は優しく微笑みかけていた。万感の思いが籠った微笑みだった。

 ガチャン

 炉の三重になった最後の扉が閉じられた。

 ウウ

 瞬間みんなの嗚咽が漏れた。でも由美は泣いていなかった。兄の佐伯君に語るように少し唇が動いたような気がした。

 三時間後の骨あげにも加わった、炉から出された台車の上には、かろうじてそれが人の骨と分かる程度に焼きつくされた佐伯君が載っていた。去年お婆ちゃんがが亡くなった時と同じだった。あんなにボロボロになるのは年寄りだからだと思っていた。若くてもいっしょだ、不条理で不思議だ。
 由美は、まだ語り合っているような顔をしながらカラカラになった骨を拾っていた。


 これで七不思議の全てが揃った。

 見上げた斎場の空は雲一つなく、むやみに青空だった……。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生

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