大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・210『共同墓地』

2024-03-18 13:58:12 | 小説4
・210

『共同墓地』ミク 




 ちょっと息をのんだ。


 開拓初期に堀りつくした地下鉱山が史跡東京ドームほどの空洞になっていて、その空洞が丸ごと墓地になっている。

 印象は高校の修学旅行で傍を通った青山墓地。青々とした林の中に古色蒼然とした和式の墓石が並んでいる。

 医者であるわたしは基本的には生きた人間しか相手にしない。死者と関わるのは、検死で立ち会う、たいていはなりたてホヤホヤの死者。その先の葬儀や埋葬には立ち会ったことが無い。
 だから、墓地というのは今風のパルスコーティングした規格品が並んでいる無機質なイメージしかない。
 なんだけど、この共同墓地は、慎ましやかではあるけれど石でできた古典的な墓石だ。

「うわぁ、地球から持ち込んだ墓石もあるぞぉ……」

 時代劇に出てきそうな墓石には『〇〇家』とか『△△家墓地』とか彫られていて、側面には頭に『釋』『俗名』、お尻に『居士』『真女』が付いた名前が、少ないもので十数人、多いもので数十人彫られていている。

 中には没年が彫られているものもあって、そのいくつかは昭和・平成・令和があって、中には明治・大正や、教科書でしか見たことのない年号のものも混じっている。

「ひょっとして、地球から移してきたのかなあ」

「そうだろうなあ、みんな家とか血のつながりを大事にしていたんだ……」

 21世紀の終りから月や火星に移った日本人は家を大事にした。

 広い宇宙に飛び出して、自己を律すると言ったら硬いんだけど、アイデンテティーをしっかり持っていないと苦しい。

 人類とかコスモポリタンとかいう概念は括りが曖昧、大きすぎて心の拠り所にはならない。

 日本人は、心の要石として『ご先祖様』『お天道様』『天子様』を置いてきた。
 二百年前に流行ったグローバリズムやコスモポリタンという括りでは、アイデンテティーをティッシュペーパーのように薄くて脆いものにすることに気が付いたんだ。

 だから、火星に国家を立てる時に、ご先祖たちは幕府という大時代なものを作った。幕府であるからには、どこまで行っても日本の血脈であり、その最小単位である家族や一族を大切にすることに繋がる。そして、さらに、同時に宗主国の日本とは親和性を持ちながら一線を引くことができる。

 月の開拓は火星よりも早かったから、地球と一線を画すよりは、アイデンテティーの保持が大切で、ご先祖様を核とする繋がりを大事にしたんだ。それが、この青山霊園に似た墓地に現れている。

「木や草はフェイクだな、当たり前だけど」

「たとえフェイクでも、墓地に緑が必要と思う感性はいいと思う」

「お墓を探そう、案内板は……」

「あ、あそこにある」

 寄ってみるとA区画とあって、百基余りの墓所が記してあるけど姉崎というのは見当たらない。下の方には立花不動産のロゴとハンベナンバーが書かれていて、分譲や管理は不動産屋が請け負っているのが分かる。

 二つ目……三つ目……四つ目の区画で姉崎という墓所を発見、下の方を見るとあけぼの不動産、間違いない。

 林立する墓石の中ほどに、線香の煙が立ち上っている。

 もしやと踏み入ってみると、墓石に額づいている懐かしい後姿を発見した。



☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 






 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第113話《たぬき蕎麦から見える日本の文化》

2024-03-18 07:21:49 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第113話《たぬき蕎麦から見える日本の文化》さくら 





 帝都の学食の「たぬき蕎麦」はちょっと違う。

 ふつう「たぬき蕎麦」ってのは、かけ蕎麦の上に天かすが載っているものと決まっている。ところが、我が帝都女学院のそれは、かけ蕎麦にネギがドッチャリ入っている。120円と言う安さで、生徒に人気のメニュー。入学したころはびっくりしたけど、お手軽でビタミンたっぷりの優れもの。カウンターにはカイワレも載っていて自由に入れられる。別名「ビタミン蕎麦」とも言う。

 で、なんで、これが「たぬき蕎麦」なのか、食堂のオジサンはうんちくを垂れた。

「ここの食堂任されたときに、なにか安うて特別なメニュー作ろ思て考えたんや。玉子は高いし、安うてボリュームあって、栄養のあるもん」

「それがたぬき蕎麦なんですか?」

「せや!」

「で、なんでネギ載せたのが『たぬき』になるんですか?」

「玉子蕎麦の玉子抜きや!」

 たぬき蕎麦の「た」は玉子の「た」だったのだ(^_^;)。

「まあ他のもんを抜くいう意味もあるんやけどな。ちょっとありきたりやろ。ネギはボリュ-ムの割に安い。で、栄養もたっぷりやさかいな。震災の後、これ作ってみんなに喜んでもろたん思い出してな」

 それだと『ねぎ蕎麦』になりそうなんだけど、オジサンは、そのつど『タヌキ蕎麦』と言い直して無理やり定着させたらしい。

「でも、この夏なんかネギ高かったでしょう?」

 佐伯くんが、もう帝都の生徒みたいな気楽さで聞いた。

「あれは例外。それに夏休みやったから営業してへんかったさかいな。ほんまの『たぬき蕎麦』はかけ蕎麦の上に煮しめたアゲさん乗せるんや」

「え、それって『きつね蕎麦』じゃないんですか!?」

「それは東京。関西は、これを『タヌキ蕎麦』という。うどんが蕎麦に化けたいうのが語源や」

「へえ、そうなんだ!」

「その返事は、関西では、ちょっと冷とう聞こえる」

「え、どうして?」

「それはやなぁ……」


 ということで、たぬき蕎麦から東西文化の違いに発展。あくる日改めてオジサンの話を聞くことにした。


「東京でレーコは通じひんやろ」

 恵里奈は分かっているようでクスクス笑っている。

 あたしらには分からない。

「アイスコーヒーのことをレーコと言う。元々は喫茶店で出たコーヒーの搾りかすをもろてきて、煮出したコーヒーの二番煎じ」

「ええ、そんなの香りも味もないでしょ!」

「味はけっこう残ってる。そこにシロップと牛乳ぶちこんでキンキンに冷やす。これがもとで喫茶店の冷たいコーヒーもレーコ言うようになった。元祖レーコは冷やし飴よりいけるで」

「そうなんだ」

「昨日も言うたけど、それ、関西人には冷とう聞こえる」

「じゃ、なんて言うんですか?」

「ほんまあ!? とか、おもろいなあ! ウッソー!やな」

 なるほど、距離感の近い言葉だ。テンションが上がりそうだ。

 それから東西文化の違いに花が咲いた。

 エスカレーターで左右のどっちを空けるか。程よい整列乗車の仕方の違い(大阪なんかは並んだふりして、電車がきたら要領次第)。「直す」という言葉には「片付ける」という意味があることとかいろいろ。

 大阪の人間はおそらく日本で一番声が大きい。この話の間もオジサンと恵里奈の声が目立ったというか、恵里奈はオジサンと意気投合してた。

 電気が60と50ヘルツの違いがあって、東西に跨って走る電車は、途中電気の通っていない区間をちょこっと惰性で走って切り替えてるらしい。

 アホとバカの重さの違い。これは思い出した。一年の頃、恵里奈に「バカね」と言ったら、すごくショックな顔をしたので違いは分かる。東京の人間に「アホ」と言うとケンカになりかねない。関西は、その逆とかね。


 そんなこんなで、また日が暮れてしまった。


 オジサンは「たぬき蕎麦」をごちそうしてくれた。オジサンも含めて、みんなフレンドリーになった。

 佐伯君もなんだか、もうお仲間。でも律儀な佐伯君は、病院から来ているのにもかかわらず、必ず乃木坂の制服を着てくる。

 彼らしいけじめのつけ方だろうと思ったが、事情はあたしを含めて5人しかか知らない……これで七不思議の五つは揃った。

 あと二つだ。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
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