大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

勇者乙の天路歴程 008『始まりの駅から』

2024-03-17 14:13:42 | 自己紹介
勇者路歴程

008『始まりの駅から』 




 高校生の頃から五十余年乗り慣れたK電鉄、隣県に入るまでは複々線のはず。それが、列車が発車した後の鉄路は、いまどき我が県ではよほどの郡部にでも行かなければお目にかかれない単線だ。

 それに、駅舎が無い。ポツンと単式地上ホームがあるばかりで、ホームの前後には鉄路が伸びているが、左右は幼稚園の園庭ほどの地面が見えて、その先は草原のようなのだが、茫漠として灰色の闇に溶けている。景色が闇に溶けてさえいなければ、Nゲージのスターターセットを買って、取りあえず組み上げたという感じに近い。

 ホームには年季の入った行先案内板。そこには横長のT字の上に『始まりの駅』とあるのみで前後の駅名は書かれていない。

 そう言えば、ネットの都市伝説にあった『きさらぎ駅』というのがこんな感じだろうか。

 これが夢なら、どう解釈しても悪夢で――夢なら覚めろ――と思う状況なんだが、妙に落ち着いて、わたしが異世界の冒険を始めるのなら、こんなもんだろうと地味な時めきさえ覚える。

 さて、ここに居てもらちが明かない。

 よく目を凝らすと、草原が微妙に薄くなっているところが見えて、獣道のように、あるいは数カ月前までは人の往来があった跡のような、あるいは、神さまだか仏さまが、せめてもと現してくれた標のようにも見える。

 さて、前に進むか。

 ガチャリ

 おお?

 駅に着いて装備がグレードアップしたようで、胸甲と脛当てが着いている。

 インタフェイスを開くと『レベル2・勇者の防具』と出ている。

 そうそう、技やアイテムも確認しておかなければ。

 スクロールすると、RPGにありがちなアイテムがいっぱい並んでいて、スクロールしてもキリがない。

 それに、こういうものは覚えられない性質で、ユルユルのベリ-イージーに限るので、たいてい――生き返ってもう一度――的なものでやってきた。

 設定を開くと『おまかせ』というのが出てきたので、過たずクリック。

 得物は……オリハルコンの剣とあって、シャランと抜くと両刃の剣なのだが、日本刀のような波紋が走っていて逞しい。

 さあ、行くとするか。

 草原に踏み込むと鉄路の来し方の方で音がする。

 タタタタタタタタタタタタタタタ

 少し戻って鉄路を見ると、器用にレールの上を走って来る者がいる。

 スカートがたなびいて……女性か?

 わたしの姿を見とめたのか、手を振り始めた。

 小さく手を挙げて応えると、それは、わたしのことを呼ばわった。


 せんせぇーー! 中村せんせぇー!


 え?


 それは、さっき学校へ帰って行ったばかりの静岡あやねであった。

 
☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・087『春の大浜海岸』

2024-03-17 10:49:37 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
087『春の大浜海岸』   




 桜が見ごろになったら江ノ島か鎌倉に行ってみようということになった。

 その桜は令和でもまだ蕾は堅い。

 地球温暖化とか言われるけど、おおよそ昭和と変わらない。

 二月は初夏か!? と思うくらいの日があったけど、三月はけっこう寒くて、先日女バレの部室に寄って令和に戻った時なんか戻り橋を渡り終えたところでブルっと震えてしまった。


 いつだったか、お祖母ちゃんと話したことがある。


「二酸化炭素の95%」

「ええ、そんなに出してんの!?」

 出してるとは、人類がバカみたいに出してる二酸化炭素が全体の95%かと思った。

「逆よ、95%が自然界から出てるのよ。生物の吐く息とか腐敗とか、火山の爆発とか、人類が出してるのは5%、せいぜい6%」

「うっそー!」

「その5%のうち、日本が出してるのは3%」

「たったそれだけぇ!?」

「ああ、半分近くは中国とアメリカだからね、両方とも本気で二酸化炭素減らそうなんて思ってないから。まあ、来年アメリカの大統領が変わったら二酸化炭素なんて言わなくなるよ」


 そんなお祖母ちゃんとのやり取りを思い出して、大浜海岸で海を見ている。

 
 こないだまでは人恋しくて、用も無いのに学校に行ったりしてたけど、この二三日は一人でいたい気分。

 おとつい久々に軽音楽部を舞台にしたアニメを見た。そのボーカルのMちゃんが作詞のために冬の海岸に行って一日震えながら詩を書いている。

 それを見終わって――よし、メグリも行くぞ!――と、昭和の大浜海岸行った。

 ところが意に反して、昭和の大浜海岸は風も吹かず、波も穏やかで、現国の時間に習った『春の海 ひねもすノタリ ノタリかな』を、作者は思い出せなかったけど思い出して居眠りしてしまう。

 ざざざぁー ざざざぁー ざざざぁー

 波の音は胎児の時にお母さんのお腹の中で聞いていたお母さんの心臓や血の流れる音に似ているそうで、とても穏やかな気持ちになれるそうなんだ。

 目が覚めると目の前に茶色の小瓶が流れ着いている。

 フト、思いついた。

 Mちゃんみたいに作詞はできないけども、ちょっと書いてみよう。

 コンビニで買った小さなノートに『世界が平和に みんなが幸せでありますように M・T 1971』と書いて、そのページを千切って小瓶に詰めた。

 エイ!

 勢いつけて小瓶を投げると、ちょうど離岸流が流れるところだったのか、小瓶はあっという間に沖合に流れ去って行った。


 そして、今日は令和の大浜海岸。

 
 昨日の大浜海岸と違って、けっこう寒い。

 ブル

 あんまり長居はできない……そう思いながら、それでも海岸を百メートルほど歩いてみる。

 ここが、高知の桂浜とかだったら懐手して水平線を見るのに似合ってる。もう、Mちゃんのイメージなんかすっ飛んで、坂本龍馬を思ってみたりする。

 ザップーーーン

 ちょっと大きな波が打ち寄せて後ろに飛びのく。

 波がひくと、茶色い小瓶が流れ着いている。

 あれ、これって?

 拾い上げて蓋を開けると見覚えのあるノートの切れ端。

『世界が平和に みんなが幸せでありますように M・T 1971』

 びっくりして、手に力が入ると切れ端はハラハラと崩れて、春にしては冷たい風に吹き飛ばされてしまった。

 あっという間のことだった。

 記念に小瓶だけは持ち帰ったよ。



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 7組) 上杉(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  

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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第112話《水飲み機とついてくる足音!》

2024-03-17 06:49:01 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第112話《水飲み機とついてくる足音!》さくら 





 誰も触らないのに水飲み機から放物線を描いて水が飛び出した!

 まるで透明人間が水を飲んでいるように(;'∀')!


「東京大空襲で焼け死んだ人たちが、水を求めてやってくるのよ」


 米井さんは、怖そうなことを天気予報の解説のようにお気楽に言う。

 聞いた瞬間は「そうなんだ」だけど、数秒後に頭が理解して、俄然怖くなる。

 これは、あたしたち女子高生が、いかに人の話をいい加減に聞いているかの現れ。

 人が話したら、とりあず「はい」とか「そうなんだ」を息を吐くように無意識ってか、無神経に言う。

 これは「まず、お返事しましょう」という保育所時代から仕込まれた動物的な条件反射。

 そんで帝都で仕込まれた『明朗・闊達・品性』の指導の賜物。

「人の話には、まず明るく素早く返事をしましょう。明朗・闊達・品性をもって」

 何かにつけて言われるので、帝都の子たちは明るく躾がいいと言われる。

 でも、これも保育所以来の仕込みの積み重ね。返事のわりには理解していない。

 聞いたことは、そのあと頭の中で取捨選択して、重要なものや、興味のあるもの、怖いものには、そのあと脳みそが判断する。

 で、今の米井さんの話は、数秒かかって、脳みそが「怖い」と認識したわけ。

 授業なんかだと「はい、分かりました」と無意味に返事して、スルーしたまま脳みそは反応しない。

「これは他の学校でもおこっているわ、空襲は二十三区全域がやられたから。大概は生徒が居なくなった深夜におこるの。うちに来る幽霊さんたちは優しいから、まだ日のあるうちにおこしになるの」

 そんなの優しいって言わないよ!

「ボクもガードマンのバイトし始めたころに経験したよ。とある都立高校に深夜の巡回に回ったら、同じようにウオータークーラーから、水が飛び出して……」

「幽霊さんて、どんな人たちなの?」

 えりなが、試合前に相手チームの情報を仕入れる感じで聞いた。

「老若男女いろいろ、主にこの地域の被災者の霊よ」

 だろうね、東京大空襲じゃ十万近い人たちが犠牲になったからね。

「でもね」

 普段から自分を八百比丘尼なんだとうそぶいてる白石優奈が前に出る。

「その犠牲者の人たちを案内してくるのは、うちの卒業生の霊なのよ」

「「「「「うちの生徒ぉ(;'∀')!?」」」」」

「名前も分かってる、主席で卒業式には総代で答辞を読むことになっていた水野美紀っていうひと」

 水野美紀……みずのみき……水飲み機!?

「あ、やられたぁ(^_^;)」

「「分かったぁ(○`ω´○) ?」」

 米井さんと白石優奈がドヤ顔で指をたてやがった!

 そうか、このオチに持っていくために、ウォータークーラーとは言わずに水飲み機なんて言ってたんだ!

「こいつはタネがあるんだよ」

 測量技師のオジサンが、マジシャンの種明かしのような口調で付け加えた。

「ウオータークーラーの水が腐らないように、タイマーが仕掛けられていてね、一日に一回タンクを空にするために、水が全部出るんだ」

「「「「「「な、なんだぁ」」」」」」

 聞いてみると、どうってことない(^_^;)。

 米井さんは知っていたようで、優奈といっしょにニンマリ笑っている。その傍で佐伯君もニコニコ。どうも三人にはめられたようだ。

「動画も撮ったし、これで七不思議の三つが取材できた!」

「そうだな」

 アハハハと、楽しそうに笑う米井、佐伯兄妹と白石優奈であった。



 あくる日は、担任の水野先生にも付き添ってもらって、日が沈んでからの取材だった。

「なんにも言わないで、グランドを一周走ってみそ」

 米井さんは、とぼけた口調で言う。

 また昨日の水飲み機のデンであろうと、あたしたちはタカをくくっていた。

 もう8時を回っていて、運動部もいない。グラウンドが広く感じる。青山通りからは一筋隔てているだけなのに、車や街の喧騒はほとんど聞こえない。

 佐伯君が高性能カメラを担いでスタンバイしている。なんだか、もうスタッフの一員だ。

 わたしたちは、グラウンドシューズに履き替えて、グラウンドに並んだ。

 今日は遅いのにも関わらずメンバーは10人に増えている。時間まで、あたしたちは東京の都市伝説なんかで盛り上がっていて、やる気は満々だった。

「時間だわ、ヨーイ……スタート!」

 走り出して二三分で気が付いた。

 あたしたちのすぐ後ろを、数十人の集団が走っている。今にも追いつかれそう。グラウンドは夜間照明が点いているとはいえ、周りは青山通り界隈のビル、怖さはひとしおだった。

 みんな同じと見え、速度が上がっていく。

 先頭はバレー部セッターの山口恵里奈。二番手は意外も茶道部の佐久間マクサ……なんのことはない、二人とも親友のあたしをほったらかしにして先を走っているだけ!

 ザックザックザックザックザックザックザックザック…………

 迫りくる何十という足音( ゚Д゚)!。

 心臓が口から飛び出しそうになった!



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
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