やくもあやかし物語 2
『この番号を回してください……』
交換手さんは簡単に言ったけど、10桁の番号は聞いただけでは憶えられないので、二回に分けて言ってもらってメモに取り、もう一回確認してからダイヤルに指をかける。
ジーコ ジーコ……
「やくも、おまえ、魔法使いには向いてないぞ」
「え、どうしてぇ?」
魔法使いになるつもりはないけど、デラシネの言い方はひっかかる。
「たかが10桁の数字。一発で覚えられなきゃ、魔法の詠唱なんかできないよ」
『だからして、わらわが付いておるのじゃ』
「もう、御息所もぉ……ほら、間違えちゃったじゃない」
もう一度、いちからかけ直し。
「ちょっと、覚えにくい番号なのよねぇ……」
47230のぉ……14226っと……
ツー カシャカシャ ツー カシャカシャ ツーカシャ カシャカシャ……
メチャクチャ長い接続音(^_^;)
ポシャ
接続完了の音がして、これで話し中だったらどうしようかと思ったけど、電話をかけているわけじゃない。
理屈は分からないけど、これは樺太の真岡に行くための番号なんだ。
「あ、もしもし……」
習慣で電話の呼びかけをしてしまう(^_^;)
ドゴゴォォォォォォォン
すごい音がしたと思ったら、はるか目の下で氷がひしめきぶつかり合っている。
「これが全部氷なのか……すごい……白い猛獣たちがひしめき合っているようだ!」
「たしかにねぇ……」
流氷とか氷山とか、動画や映画とかでは見たけど、リアルで見るのは初めて。コタツでミカンの皮を剥きながら見ているのと違って、周り中ひんやりしてるし、足もとからは流氷で鋭くなった冷気が無数の矢になった感じでピシピシ打ち上げられてくる。
「でも、デラシネ、ヤマセンの湖だって氷が張るんじゃないの?」
「これに比べれば栗鼠か兎の感じだ、ここのは虎かライオン、伝説のサーベルタイガーとかマンモス。それ以上だ、こんな凶暴な氷は始めて見た」
バッキーーン!
「「ウワ!」」
ひときわ大きな氷が弾けて、大小の破片が噴き上がる。
デラシネと二人、思わず身をかわした。
「さすが、戦前の樺太、迫力がちがうなあ」
『『いえ、これは今の樺太ですよ』』
御息所が交換手さんの声で言う。
『ちょっと、人をスピーカー代わりにしないでくれる!』
『『すみません、樺太までは声が届きませんので』』
『ああ、そう』
「戦前の真岡に来るんじゃなかったの?」
『回線の都合です。ほら、左の方に島が見えますでしょ』
「え、ああ」
氷に見惚れてるうちに陸地に近づいてきたみたいで、島の所どころに日本風ではない街や建物が見える。
みんな敷地が広くて、建物はゆったりと建っている。鉄筋アパートみたいなのもあるけど、戸建てのは壁は白かアイボリー、屋根はオレンジに近い赤色が多い。所どころに玉ねぎ坊主みたいな屋根が見えるのはロシア式の教会なんだろうね。
『『あれは真岡の南の方の町です。これから戦前の樺太に飛びます。インタフェイスのダイヤルを回してください。番号は……』』
また五桁が二つだったらどうしようかと思ったけど、今度は1941。
これは、ひょっとしたら西暦のことかもしれないねえ。
ジー コロコロ ジーー コロコロコロ……
ダイヤルを回すと視界の真ん中に読み込み中そっくりのグルグルが現れる。
交換手さんの電話って、ひょっとしたらネットなのかなあと思った。
☆彡主な登場人物
- やくも 斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
- ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
- ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
- ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
- メグ・キャリバーン 教頭先生
- カーナボン卿 校長先生
- 酒井 詩 コトハ 聴講生
- 同級生たち アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
- 先生たち マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
- あやかしたち デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方