大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・209『恩師の消息・2』

2024-03-14 09:53:42 | 小説4
・209

『恩師の消息・2』ミク 




「先生、空港のメディカルゲートで引っかかって……」

「検査の途中で抜け出してしまったんです。あ、こんなナリですが、公務ではないんです。任務中にミクに呼び出されて、軍服のまま飛び出してきたもんですから」

「じつは……」

 空港からここまでの話をすると、オヤジさんは「そうですか」と腕組みしたまま立ち上がった。

「この界隈は訳ありのもんが多くて……」

 そう言うと、オヤジさんは棚から博物館にでもありそうなごっつい台帳を取り出した。

 バサリ

 開くと、風が起こってお茶の湯気をたなびかせ、紙の匂いが立ち上がる。

 なんだか、伝説の昭和を舞台にした古典映画の中に潜り込んだみたいだ。

「いっぱい書き込みがしてありますね……」

「アフターサービスというか……お世話させていただいたお客さんとは、その後も付き合っていただいてましてね。いろいろ書き込んでます。いやあ、まあ、はんぶん道楽です……ええと、やつのは……」

 パサリ……パサリ……

 二度ほどページをめくったところで手が停まる。

「ここです」

「「え?」」

 戸惑った、指さされたそこは『姉崎』という苗字ではなかった。

 そして、それは住居ではなくて、開発初期に造成された共同墓地の一画だ。

「これは……?」

「すこし長い話になりますがね……」

 月に赴任してから扶桑本国では思いもつかない事例や事件にでくわした。日々起こる事件や病人怪我人、死者と向き合うことも度々だ。この四年で書いた死亡診断書や死体検案書は100枚近い。わたしもダッシュも少々のことでは驚かなくなっていた。

 でも、姉崎先生のそれは経験も想像も超えていた。

 二杯目のお茶を飲みほし、オヤジさんにお礼を言うと、駐車場に戻って高機動車で共同墓地を目指した。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第109話《帝都女学院七不思議・1》

2024-03-14 08:23:18 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第109話《帝都女学院七不思議・1》さくら 




 シリコン騒ぎで『ゴジラ』は観損ねてしまった。


「またこんど連れてってやるから」

 そう言って、玄関で靴履くときは自衛官の顔に戻っていた。

「なんかもう『対空戦闘ヨーイ!』って顔だよ」

「それはいかんなあ」

 自分の頬っぺたをスイッチみたいに捻って、いつもの倍ほど緩い顔になって出て行った。

「ま、辛抱しなよ。機密漏えいを未然に防いだんだからさ。ゴジラならブルーレイ出たら買ってきてやるから」

「あたしは、映画館で観たいの!」

「高校生は、そこまで贅沢言うもんじゃないの」

「へいへい」

「エイ!」

 さつき姉も一発気合いを入れると、ホンダZに乗って大学だかバイトだかに行ってしまった。


 で、いささかプリプリしながら学校へ。時間が無いので、いつもの裏路地を通って駅にいく。
 
 もう終わっていると思った水道工事をまだやっている。ガードマンのニイチャンが指示棒振って誘導してる。こういうのは、たいていヨレヨレのお爺ちゃんがやってるので、ちょっと目を引く。

 遠目で見てもけっこうイケメンだ。彼の横をすり抜ける時、赤灯が、あたしのスカートひっかけて、そこからラブロマンス……などは起こらなかった。
 ニイチャンは慣れた手つきで、赤灯を振って「ご迷惑かけます」あたしは無言で5ミリほどお辞儀して1秒ですり抜けていく。ロマンスには縁のない生まれつきのようだ。ただ、通る時に工事のおじさんが「四ノ宮くん……」と言っていたので、苗字だけは記憶した。


 学校に着くと、気にかかるのは米井さん。


 例のスマホ事件から幾日もたっていない。クラスでたった一人の関係者としては気を遣う。

 事情知らない人のために解説。

 短縮授業の日にTデパートで、アベックの米井さんを発見。いっしょに行ったマクサ(佐久間マクサ、茶道部で家元の娘)がよせというのに接近。お邪魔虫になる。
 その後米井さんカップルのチェーンメールが回ってきて「あんたでしょ!?」と米井さんに詰め寄られて、担任の水野先生が無実を証明してくれた。

 でも、米井さんの彼、実は生後間もなく別れた双子の兄だということが発覚。

 それまで彼氏として付き合っていたのを兄妹の関係に戻す努力の途中だった。そんでもって、彼氏の佐伯君は不治の病で余命いくばくもない身。水野先生やチェーンメールに関係した(実行犯は、まだ不明)子たちは、感涙の涙を禁じ得なかった。

 ところが、米井さんは委員長だけのことはあってか、切り替えが早い。

「次の授業自習だから、文化祭の取り組みについて話し合います。いいわね」

 と、臨時のホームルーム。休んだ先生も自習課題の点検しなくて済むし、自習監督の先生も職員室でラクチン。そして、なにより文化祭の取り組みは早く決めたクラスほど、何かにつけて占有権がある。あとから被った企画を出したクラスは同じものはやれない。

「一年のときは、二三年に先越されて、展示とかバザーとか店番ばっかで、ろくに文化祭楽しめなかったじゃん。で、今年はできるだけラクチンで、かつ楽しげな企画でいこうと思います」

 一年のときは不満タラタラの子が多かったので、みんな米井さんの次の言葉に耳をそばだてた。

「もし、他に企画があったら言ってね……じゃ、あたしから。えへん!」

 さすが委員長。注目を集めるのが上手い。

「帝都女学院は古い学校で、調べると不思議なことが一杯あります。それをまとめて『帝都七不思議』で発表しようと思います。できたら原因究明までやりたいけど、未解決のまんまってのもウケると思います。7人で一話ずつ二十分~三十分。あとは遊んでいられまーす!」

 みんな、おもしろーいという顔をしたけど、そんなのあったっけ? という顔にもなった。

「あるわよ。例えば北門から学校に入ると、校舎の方が高く見えるんだけど、実は低いの。知ってた? 題して重力異常の北門!」

 ああ……というみんなの顔。校内の、いわば都市伝説。そんなのを米井さんは五つ紹介した。「あとの二つは?」当然の疑問である。

「ま、やってるうちに見つかるでしょう」

 さすがは米井さんだと思った(^_^;)。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
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