大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・249『突出する准将』

2024-09-21 09:20:49 | 小説4
・249

『突出する准将』 胡盛媛中尉




 国境の向こうで戦闘が始まっても騎兵三個旅団は、パレードの順番を待っているみたいに落ち着いている。いたずらに緊張したりテンションが上がっているのは、わずかの新兵たちと、うちの准将ぐらい。

 まだ少年の匂いの残る二等兵はともかく、准将がワタワタしているのは、ちょっとみっともない。

 うちの准将は兵学校こそは出ているけど、ほとんど軍政畑に身を置いて、戦闘経験はおろか実戦部隊に居たこともほとんど無い。

 わたしがしっかりしなくっちゃ。

 一人は全員のために、全員は一人のために……お父さんが教えてくれた。

 単なるスポーツの教訓なんかじゃない。軍隊、いえ、人が複数で行動する時には必要な心構えだって言っていた。

 見渡すとあがっている新兵のそばにはベテランの兵が付いている。あるいは、伍長や先任の兵が寄り添っている。

 わたしも僭越ながら准将の傍を離れないようにしなければ。


 カメラを国境の向こう、始まったばかりの戦場に向ける。


 活発に両軍の騎兵が動く中にひときわ大きな騎兵があちこちに見える――青銅の騎士――だ。

 モンゴルの騎兵は巧みに青銅の騎士を躱して通常の騎兵を攻撃している。数騎で取り囲んだかと思うと、直後にその場を離れる。すると、ロシアの騎兵が倒れる。時どきは二三騎まとまって倒され、次の数騎が止めをさす。

 モンゴル騎兵のワイヤー攻撃だ。でも、青銅の騎士には通じない。青銅の騎士はその大剣で易々とワイヤーを切り、直近のモンゴル騎兵を追って、馬ぐるみ切り捨てていく。

 しかし、モンゴル騎兵も、その間に一騎二騎と敵と味方の間に入り青銅の騎士の目を逸らせて、味方を救う。しかし、その救助も必ず成功するわけではなく、まとめて返り討ちになりそうなモンゴル騎兵もチラホラ。

 10分ほどすると、モンゴル兵は青銅の騎士を避けて、通常の騎兵や、その背後の騎兵砲部隊に襲い掛かる。奥に入り過ぎたモンゴル騎兵を青銅の騎士を先頭に数騎のロシア騎兵が囲み、討ち取られる者、逃げおおせる者。ざっと見て五分五分の戦い……いや、微妙にモンゴルが押されているのかもしれない。

 数の上では、圧倒的にロシア兵が多い。この戦いぶりでは、時間が経つとモンゴルが不利だ。

「そうとも限らないわよ……」

 いつの間にか准将とわたしは劉宏元帥の傍まで来ていて、元帥は、わたしの心配が分かったように呟いた。

「全軍、西北に移動」

 元帥は右手を上げて進路を示し、静かに移動し始める。

 攻撃に移るわけではない、牽制しているんだ。ロシア軍が吊られて横に伸びる。本能的に漢明軍の介入を恐れているんだ。

 その僅かな怖れの隙を狙って、十騎あまりのモンゴル騎兵が一騎の青銅の騎士を取り囲み、甲冑の隙間目がけ、同時に銃を撃つ。

 パパパパーン!

 ほとんどゼロ距離射撃された徹甲弾は、騎士の関節を狂わせ、一ニ発はメインサーキットにダメージを与えて無力化していく。一体だけだったけど、突然爆発して支援に来た通常騎兵もろとも爆散した者もいる。

「おもしろい!」

 ひとこと叫ぶと、准将は突然駆けだした!

「部長!」

 わたしも追随する。このまま駆けては国境を超えて戦場に突入してしまう。広報とは言え軍人、軍服を着て携帯用の銃は持っている。戦闘への参入ととられても不思議ではない。背後の味方には期待できない。大人数が出てしまえば、本当の参入、参戦になってしまう。

 一刻も早く連れ戻さなきゃ!

「部長ぉー! 准将ぉー! 停まってくださーーい!」

 声が届かない……准将の馬は上級将校用のオートホース、わたしのはリアルポニー。届かないかぁ……。

 これはもう、准将の馬を撃って強制停止……カメラを銃に換えて狙ってみる……でも、射撃に自信のある方じゃない。間違って准将に当ってしまうかも。

 ピピピピ ピピピピ

 あ(''◇'')!

 迷っているうちにハンベのアラーム。

 国境を超えてしまった!

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

コメント
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