馬鹿に付ける薬 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》
017:ヒュドラを討つ・2『森に踏み込む』
峠を下り、北に向かう街道を横目に森に近づくと、甘い香りが漂ってきて思わず足を止めてしまう駆け出しの冒険者とガーディアン。
「こんなにいい香りがするんですねぇ……」
「学食で出てくるリンゴなんて目じゃないなぁ……でも、こんなにいい匂いがしたら街道を通るやつらが取りに来るだろ」
「さっきは、それほどじゃなかった。森の中を進んで果樹園の手前まで行かなきゃ、リンゴの匂いはしなかった……」
並の勇者や冒険者なら、敬遠して通り過ぎるか、あるいは匂いにつられて森に踏み込んで番人のヒュドラに返り討ちになるかなんだろう。
「じゃあ、入るぞ」
「おお」「はい」
プルートを先頭に森に足を踏み入れる三人。
ようやく日が上り始めたと見え、微かに小道が窺える。
シャワ シャワシャワ……
「なにか変なものを踏みつけていません?」
「枯れ葉……じゃない!?」
「……え!?」
立ち止まって足元をうかがうと、木の葉や枝の切れに紛れている骨だった。
獣の骨も混じって入るが、あきらかに人のそれと分かるものも混じっている。
「さっきは獣道を探りながら進んだから気づかなかったが……先客は居たようだな」
「冒険者たちですね、装備や服の切れ端もあります」
「登録書の切れだ……」
「ええ、七級と八級……わたしたちよりもレベルが高いわ!」
「運が悪かったか、ただの間抜けだったかだな」
それだけ言うと、プルートは「そうか、さっきはあっちを通ったのか……」と小手をかざして薮の向こうを見たりするが、足は緩める様子がない。
「ウン、がんばりましょう!」「おお!」
ベロナは気合いを入れると髪をひっ詰めにまとめてマントのフードの中に収める。アルテミスも無意識に髪に手をやるが、元がショートカットなので、ペシっと自分の頬を打ってごまかした。
三人は、さらに森の奥に足を踏み入れた。
☆彡 主な登場人物とあれこれ
- アルテミス アーチャー 月の女神(レベル10)
- ベロナ メイジ 火星の女神 生徒会長(レベル8)
- プルート ソードマン 冥王星のスピリット カロンなど五つの衛星がある
- カロン 野生児のような少女 冥王星の衛星
- 魔物たち スライム ヒュドラ ケルベロス
- カグヤ アルテミスの姉
- マルス ベロナの兄 軍神 農耕神
- アマテラス 理事長
- 宮沢賢治 昴学院校長
- ジョバンニ 教頭