大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

馬鹿に付ける薬 017・ヒュドラを討つ・2『森に踏み込む』

2024-09-23 15:42:36 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》
017:ヒュドラを討つ・2『森に踏み込む』 




 峠を下り、北に向かう街道を横目に森に近づくと、甘い香りが漂ってきて思わず足を止めてしまう駆け出しの冒険者とガーディアン。

「こんなにいい香りがするんですねぇ……」

「学食で出てくるリンゴなんて目じゃないなぁ……でも、こんなにいい匂いがしたら街道を通るやつらが取りに来るだろ」

「さっきは、それほどじゃなかった。森の中を進んで果樹園の手前まで行かなきゃ、リンゴの匂いはしなかった……」

 並の勇者や冒険者なら、敬遠して通り過ぎるか、あるいは匂いにつられて森に踏み込んで番人のヒュドラに返り討ちになるかなんだろう。

「じゃあ、入るぞ」

「おお」「はい」

 プルートを先頭に森に足を踏み入れる三人。

 ようやく日が上り始めたと見え、微かに小道が窺える。

 シャワ シャワシャワ……

「なにか変なものを踏みつけていません?」

「枯れ葉……じゃない!?」

「……え!?」

 立ち止まって足元をうかがうと、木の葉や枝の切れに紛れている骨だった。

 獣の骨も混じって入るが、あきらかに人のそれと分かるものも混じっている。

「さっきは獣道を探りながら進んだから気づかなかったが……先客は居たようだな」

「冒険者たちですね、装備や服の切れ端もあります」

「登録書の切れだ……」

「ええ、七級と八級……わたしたちよりもレベルが高いわ!」

「運が悪かったか、ただの間抜けだったかだな」

 それだけ言うと、プルートは「そうか、さっきはあっちを通ったのか……」と小手をかざして薮の向こうを見たりするが、足は緩める様子がない。

「ウン、がんばりましょう!」「おお!」

 ベロナは気合いを入れると髪をひっ詰めにまとめてマントのフードの中に収める。アルテミスも無意識に髪に手をやるが、元がショートカットなので、ペシっと自分の頬を打ってごまかした。

 三人は、さらに森の奥に足を踏み入れた。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          アーチャー 月の女神(レベル10)
  • ベロナ            メイジ 火星の女神 生徒会長(レベル8)
  • プルート           ソードマン 冥王星のスピリット カロンなど五つの衛星がある
  • カロン            野生児のような少女  冥王星の衛星
  • 魔物たち           スライム ヒュドラ ケルベロス
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!10『ダークサイドストーリー・5』

2024-09-23 08:09:04 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧▢≦)!

10『ダークサイドストーリー・6』 




 え……各駅停車……?


 片岡先生は、先週からダイヤが変わっていることを忘れてやがる。先週までは、この時間は特急の通過だったんだぜ。

 各駅停車でも目的を果たせねえわけじゃねえけど、ホームに着く寸前なんで速度が遅い。

 片岡先生は、特急列車で景気よく跳ね飛ばしてもらい、きれいに即死したかったんだ。


 それほど、メリッサ先生を見た衝撃は大きかったんだぜ。


 片岡先生は気づかなかったけど、メリッサ先生とシンディーは双子の姉妹なんだ。それも、幼い頃、母親が亡くなって、別々の里親に育てられ、双子の姉妹がいることを二人とも知らなかったんだ。

 だからよ、メリッサ先生が片岡先生を初めて見たときは――変なやつ――と思っただけだったぜ。

 片岡先生も、中庭の池の鯉を見ているうちに、よく似た他人なんだろう……と理解したぜ。

 ネトゲでキャラクリして、オキニのアバター作ったやつがバトルで負けて、アバターを売るとか取られるやつがいるだろ。ログインして、そいつに声かけたらまるっきりの別人でよ。よく見たらIDが違って、ガックリしたとか、そんな感じ。他のプレイヤーに聞いたら「あ、元の持ち主はリアルの事故で亡くなったってよ」と言われた感じ。

 しかし、理解と納得は違う。

 それまで封印していたシンディーへの思い出が、血を流しながら蘇ってきやがった。

 シンディーに会いたい……切なく、理不尽な願望で心が一杯になって、それは心の表面張力の限界を超えて、ドバドバ溢れてきちまった。

 そんで、理不尽な願望は、飛躍した行動を先生に思いつかせやがった。

――死ねば、心乱されることもなくシンディーに会える!――

 で、片岡先生は、ホームのベンチで特急列車を待っていやがるんだ。

 マユはよ、改札に入ったとこで先生の思念に気づいたんだ。

――なんとかしなくっちゃ(''◇'')――

 ビビッちまった! デーモン先生に「おまえ、落第な」って宣告された時みたいにワタワタしたぜ!

 悪魔の立場から言えば、人間の不幸は願ってもないことのように思えるかもしれねえけど、実際は違う。

 悪魔の役割は人を不幸にすることじゃねえ。人が正しい選択をするために、試練を与えるのが役目なんだ。

 たとえば、敵に追われて川辺にたどり着いた人間がいるとする。天使とか神はよ、その時の人間の心の清らかさや信仰心次第で、橋を架けたり川を割って道を造って、ダイレクトに人間を助けてやる。調子に乗った時は海を真っ二つにするなんて反則技を使ったこともあった。

 悪魔は違うぞ!

 ひとまず隠れる場所を与え、あとはホッタラカシにする。人間が苦しみ悩んだ末に自分で結論を出し、行動をおこすのを待つんだ。

 ときにヒントとして、川の側に小さな木を植えたり、ゴロゴロの岩を用意しておく。人がそれに気づき、木を大きく育て橋を造ったり、岩を川に投げ入れ足場を作って、自分の力で解決するのを待つんだ。時に、それは人間の時間で何世代もかかることもあるんだぜ。

 この試練と救済をめぐって、大昔、サタンという天使は神と争った。そして天界を追われ、悪魔の烙印を押されちまった。オチコボレ小悪魔のマユはよ、そのへんの機微が分かってないらしいんで、人間界に落とされて修行中の身なんだ。

 オチコボレ天使の雅部利恵(みやびりえ 天使名・ガブリエ)も、救済のなんたるかや、タイミングが分かっていねえんで、この人間界に落とされ、偶然……実は、神さまと悪魔、それぞれの名誉をかけて同じ学校の女子高生として送られてきたってわけよ。

 で、無気力教師の片岡先生の閉ざされた心の奥を、互いに覗き込んじまって、利恵の早とちりで、今回の不幸が起こっちまった。

 なんとかしなきゃ……このままでは、片岡先生は次の電車に飛び込んじまう!

「先生、横に座っていい?」

 マユは、なんの思惑もなく、声をかけちまったぜ。

「あ、ああ……」

 片岡先生は、力無く答えた。取りあえず先生の飛び込みは阻止……けどよ、後が続かねえ(-_-;)。

――先生の記憶を無くしちゃえばいいのよ――

 閉まった各停のドアから、利恵の思念が、お気楽に飛び込んできやがった。

――んなの解決にならねえ(◎▢◎)!――

 思い切りガンと思念をとばしてやった!

 ……と言って、簡単に道は見つからねえ。
 
 堪えねえ落ちこぼれ天使の薄ら笑いとともに各停は出発し、マユのこめかみから、一筋の汗が流れ落ちてきやがったぜ……。



☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  
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