大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・247『朱元尚 大統領と写真を撮る』

2024-09-13 14:36:24 | 小説4
・247

『朱元尚 大統領と写真を撮る』 朱元尚



 大統領の権限は大きく且つ広範囲に及ぶ。


 この朱元尚を資源開発公司の管理職のまま現職に戻し、准将にした。

 選鉱機の情報を獲得しホトケノザの試掘事業にも目鼻を付けたのだから、少将に進級して、中央の軍政職に就けるかと思った。軍務局長か作戦部次長、あるいは軍需局長。

 それが准将という半端な階級で中央軍の広報部長という役職だ。

 補任にあたっては異例なことに劉宏大統領自らが官邸に呼び出して行われた。

 大統領は陸軍元帥の軍服姿で現れた。

「いやあ、一昨日陸軍長官を罷免した後、後継が決まらなくて、暫定的にわたしが陸軍長官を兼務してるの。本来なら陸軍省の長官室で行わなければならないんだけど、仕事が立て込んでいて呼びつけることになってしまった。ごめんなさいね」

 王春華のボディーにPIしてからは言葉遣いを改めている。わたしもTPOを考える方だが、大統領の立ち振る舞いはリラックスしていてとても自然だ。

「いえ、准将クラスの補任は書類で済ますことが多くありますので、かえって恐縮しております」

 そう、准将クラスの補任は少将以上の補任がある場合についでに行われる。昔の王朝時代の言葉で言えば、少将以上が上から二番目の勅任官。准将は将の字がついてはいるが三番目の奏任官。奏任官なら、直属上司である長官から辞令を交付されるだけ。大統領から直接辞令をもらうことは、少将以上のついでがない限り行われない。厚遇であることに違いは無い。

「広報は、軍の内外、身軽に飛び回れて短期に見聞を広められるわ。人はどういうか分からないけれど、近い将来に軍の、あるいは軍関連機関の枢要に立つ人には適任のポジションだと思うわ」

「はい、この朱元尚、粉骨砕身任務に励みます」


 それから辞令が交付され、これでお仕舞と思ったら、大統領が意外の提案をしてきた。


「せっかくだから記念写真を撮りましょう」

「き、記念写真ですか!?」

 思わず声が上ずってしまった。補任のおりに記念写真を撮るのは親任官たる上将に限られ、准将単独ではあり得ない。

 これは軍広報のトップに『新任広報部長補任式』と大々的に載せられる。

 少なくとも「えぇ、准将なのぉ」と不足顔だったカミさんには喜んでもらえる。

「じゃあ、記念写真撮るから、お願い」

 大統領がインタホンに呼びかけると、すでに待機していたんだろう広報係りが三脚付きのカメラを持って次室から現れた。

「失礼します」

「え?」

「ごめん、驚かせたかなあ。君が粉を振っていたのを聞いてね、大佐、いや准将の人事と同時に発令しておいたの(๑´ڤ`๑) 」

「よろしくお願いします、准将(''◇'')ゞ」

「あ、ああ、よろしくな胡盛媛中尉」

「じゃ、その国旗の前にしましょうか」

「ハ!」

 勇んで国旗の前に行く……と、大統領が横に並んだ!

「え、あの、ごいっしょされるんですか?」

「はい」

 普通補任の記念写真は国旗の前で起立の姿勢で撮る。任命者が横に並んで撮ることなどあり得ない。

 すごい厚遇!

「視察の時なんか、よく現場の人といっしょに写真撮りますからねえ(^▭^)」

 そうだ、大統領は視察どころか、どうかすると官邸の庭掃除をやっているオバサンなどとも気楽に写真を撮っている。

 ということは、ただのスナップ写真?

「あ、えと……大統領」

「なあに、フーちゃん?」

 フ、フーちゃん? 

 あ、そうか、以前プライベートで西之島に行った大統領と胡盛媛中尉は既知の仲なんだった。

「あのう……軍服の写り具合が、生地の質感が違うので……」

「ああ、わたしのは、間に合わせのお仕着せだものねぇ」

「はい、准将のは上海縫製公司のオーダーメイドの英国製の生地で、レンズを通すと……補正はできますが」

 そうだ、西之島で以前のはダメにしてしまったが、帰国するとカミさんが新たに注文して、そのおろしたてをを着てきたんだ。

「軍服なんて、しばらく着てなかったからねえ……まあ、このままでいいわ。今日は准将が主役なんだし」

「承知しました」

「じゃ、お願いね」

「では、撮りまーす」

 パシャパシャ パシャ パシャパシャ パシャ

 十数枚の写真を撮って、そのうちの三枚が、その日のうちに大統領のSNSと軍の広報に載った。

 写真は無修正で、明らかにわたしの方が軍服もきれいでキマッテいるのだが、大統領のフランクさと可愛らしさが勝っている。

 大統領のSNSのは、三枚の写真――どれがいいか分からないので三枚とも出しました(^_^;)――と手書きのキャプションが付いている。

 いちばんイイネが付いたのは、セルフタイマーにして中尉も入って三人揃ってピースを決めた一枚だった(-_-;)。上海縫製公司のオーダーメイドでキメタわたしは、そのぎこちない笑顔ともども「悪党のボスみたい」「なにか企んでるみたいな?」「大人の七五三!」などとさんざんだった。


 その准将補任式から十日、わたしは騎兵三個旅団を率いてモン漢国境沿いに出師された大統領の簡易幕舎の横、広報部20名を引き連れて待機している。

 大統領の幕舎には元帥であることを現す『師』の旗、わたしのそれには『広』の旗が草原の風にはためいている。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)150・タナカさんのお婆ちゃん

2024-09-13 09:20:10 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
150・タナカさんのお婆ちゃん ミリー 



 そのあと、ミチコさんが「ママ、ミリーがもどってきたわよ」と手をさすりながら呼びかけていると、意識が戻って、少しだけならとお婆ちゃんのベッドの横に座った。

「……あれぇ、ミリーやんか。冬休みにはまだ間があるやろぉ?」

 頭はしっかりしている、わたしのことも、今の季節のことも分かってるみたい。

「あ、うん、ええとね……」

「そうか、だれかがミリーに教えたんやねぇ」

「え、あ、まあ……」

「いやあ、しばらく見んうちに女らしなってからに……嫁に来たころのソフィー(わたしのお母さん)にソックリや」

「え、あはは、そうかなあ(^_^;)」

「うん、そうやって恥ずかしがったら、眉毛が垂れるとこなんか、そのまんまや。怒ったら、逆に閻魔さんみたいに逆さになるんや、ようクラークがおちょくとった」

「うん、さっきリビングで会った。いっちょまえに司祭服とか着てて、笑えたわぁ」

「フフフ、クラークなあ、彼女がでけたんやで」

「え、ほんまぁ!?」

「うん、いっこ年上やけどなあハイスクールの同級生やったんや」

「へえ、姉さん女房なんや……て、ちょっと気が早いか」

「ううん、一回だけカノジョ連れてきよったけど、感じのええ子やった。ミチコも気に入って、カレッジ出たらうちの会社に入れよて言うてる」

「うんうん、ミチコさんも、ますます元気そうで」

「うん、ミチコは父親似やねんけど、うちに似たんか、あんまり太らへん体質でなあ、おかげでゴードンミルズ(お婆ちゃんの会社)の小麦粉で作ったパンやらケーキは食べても太らへんいう評判なんや。お金のかからん広告塔や」

「フフ、そうなんや」

「……懐かしいなあ、あんたの大阪弁」

「あはは、ついさっきまでは英語に戻ってしもてたんやけどね」

「……ミリーの花嫁姿見たかったわあ」

「ええ、まだ十七やでぇ、あたし」

「だれか、ええ人はおらんのんかいな」

「え、あ、それは……」

「友だちは居てんのんか?」

「あ、それはもちろん!」

 スマホを出して、下宿先の渡辺さんの家族、演劇部のみんなや学校の仲間の写真を見せてあげる。

「あ……このニイチャンええなあ」

「え、あ……」

 ええも悪いも無い、写真に写ってる男は、文化祭の時の以外は写ってるのは啓介ひとり。

「うちの演劇部、男子は一人だけやしなあ。けど、そんなええとこあるぅ?」

「パソコン前にして、なんや真剣に仕事してて、できる男いう感じやんか」

「あ、こいつがやっとおるのはエロゲ!」

「エロゲ?」

「あ、スケベエなゲーム」

「あはは、男はスケベエなくらいがええねん。男がみんな聖人君主みたいになってしもたら、人類は滅亡するでぇ……いやぁ……ほたえてる(ふざけてる)写真もあるやんかぁ……青春やなあ……この子の名前は?」

「あ、啓介。小山内啓介」

「小山内言うたら、小山内薫といっしょやなあ」

「オサナイカオル?」

「築地小劇場や、日本の新劇の父と言われた人や」

「え、そうなん?」

「名前は啓介……啓介は漫才師でおったなあ」

「プ、漫才師か」

「漫才バカにしたらあかんでえ、英語ではスタンダップコメディー云うて、高等な芸術やでえ」

「いやいや、バカになんかしてへんよ。啓介もそういうギャップがあって面白いところはあるんやけどね」

「あ、いつかミリーの髪の毛『冷やし中華』言うてたのん……」

「そう、この啓介なんやけどもね……」

 それから、千歳の奮闘ぶりに感心し、須磨先輩はこれまた往年の新劇大女優と同じと同じ名前で、これで演劇をしないのはもったいないと面白がられ、ミッキーのことでも、意外なほど大きな声でケラケラ笑ったり。

 ひょっとしたら、お婆ちゃんは、わたしを呼ぶためにひと芝居うったんちゃうかいうくらい元気やった。


 けども、明くる朝、ミチコさんに手を握られ、みんなに見守られながら、お婆ちゃんは神に召されていってしまいました。


 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口 織田信中 伊藤香里菜
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)





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