大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・074『メイソンが一番の男友達になる』

2024-09-30 12:29:50 | カントリーロード
くもやかし物語 2
074『メイソンが一番の男友達になる』 



 

 黒雲はみるみるうちに広がって、見上げる空のほとんどを覆いつくしていく!

 覆いつくすにしたがって伸びていくためか、厚みが薄くなって、微妙に血の色を含んだ灰色に変わっていく。端っこの方は山や草原の彼方で見えないんだけど、大地そのものを覆うところまではいかないみたい。四方の空の底からは光が入って来て、チョー巨大なドーム球場の中にいるみたい。

「サーカスのテント小屋みたいだ」「夕焼け空を映したプラネタリウム」「巨大なクラゲの下に潜ったみたい」「火星の空みたいだ」

 みんな口々に感想を言う。出身がバラバラだから、みんなイメージが違うんだけどね。

 ギャーギャー ギャーギャー ギャーギャー

 どこに居たのか鳥たちが怯えて、てんでに飛び始める。

 ピシ ピシ ピシピシ ピシ ピシピシ

 高く飛んだ鳥たちが雲の底まで来ると、電気みたいなのに撃たれ、しゅんかん光を放って消えていく。

 ピシ ピシ ピシピシ ピシ ピシピシ ピシ ピシ ピシピシ ピシ 

 それでも鳥たちは、パニックみたいになって電撃を喰らっては蒸発していく!

「ちょっと、下がって来ていないか?」

 ヒューゴが指摘して、みんな空を見渡す。

「うん」「やっぱり下がって来てる」

 ベラ・グリフィスとアイネ・シュタインベルグが怯えた声を上げ、アンナ・ハーマスティンは口に手を当てたまま声も出せない。

「あれが下りきったら、ちょっとまずいかもね」

 ロージーは冷静だけど、ではどうするかというところまでは言えないみたい。メイソンとヒューゴは叶わぬまでも、近衛の剣を抜いて空に突きつけている。

『みなのもの! 空の端っこで雲の裾を掴んで引っ張ってる魔物がいるぞよ!』

 御息所がお局言葉で状況を報告というか叫ぶ!

『ひい ふう みい よぉ……全部で八匹! やつらをやっつけたら、この怪しの雲は消えていきそうじゃぞ! みんなレベル30のゴブリン程度じゃ! わらわが指し示す、みなで退治せよ!』

「よし、じっとしていても始まらない。みんなでやっつけよう!」

 おお!!

 ロージーが声を上げると、全員が雄たけびを上げ、近衛の剣を振るって、四方に散っていった。むろん、御息所も飛んで行ったよ。

 だ、だいじょうぶかなあ。

 ひとり心配になっていると、横の薮がガサッと音がして、メイソンが戻ってきた。

「メイソン!?」

「八人で間に合うからね。ぼくたちは十人。ヒューゴはアンナのサポートに回って、このメイソン・ヒルはヤクモのガードにまわることにした」

「あ、ありがとう。でも大丈夫?」

「ああ、キミの使い魔が力を貸してくれている。きっと大丈夫さ」

 ああ、まだキチンと紹介してないから、御息所は使い魔の認識なんだ(^_^;)

 ゾワゾワゾワ……

 気配に振り仰ぐと、雲はさらに下がって来て、鳥たちが焼き殺される音は間遠になってきた。

「鳥たちは、ほとんどやっつけられたみたいね」

「だいじょうぶ、きっと間に合うさ」

「う、うん」

「ぼくの先祖はアーサー王に仕えていたんだ」

「あ、それでナイトの称号を」

「アーサー王の城の補修をする石工だったんだ。メイソンというのは元来石工という意味だからね」

「そうなんだ」

「ある日、騎士たちの大半が戦に出ていた時、城の隙をついて攻めて来た敵を留守番の騎士たちといっしょにやっつけて、その功績でナイトに叙せられたんだ」

「あ、わたしをガードしてもあげられる称号がないわ」

「きみの第一の友だちの称号でいいさ」

「あ、その席にはネルとハイジが……」

 あ、わたしって、なんて気の利かないことを言うんだ(;'∀')。

「残念」

「あ、いや、それはちがくて……」

「なら、一番の男友達の称号だ!」

「あ、それなら」

「よかった」

 え、あ、一番の男友達ってぇ(#'∀'#)!?


 プッツン!!


 その時、四方でブチギレる音がしたかと思うと血灰色の雲はみるみる縮んでいって、ほとんど真上で広げた傘ほどに縮んでしまった。

「「やったあ!」」

 傘は、あちこち穴が開いている。能力いっぱいに広げたんで支えを失って綻びが出てしまったんだ。

「「あれ?」」

 ゆっくり傘が下りてくると、傘の真ん中から二本の脚が生えてきて、地面に近くなって表の方も見えてくると胴体が付いている。

 胴体の上には首と腕も生えてきて、地上二メートルぐらいの高さにおりてくると、ひどく憎そげなお姫さまになった!

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド  メイソン・ヒル  オリビア・トンプソン  ロージー・エドワーズ  ヒトビッチ・アルカード  ヒューゴ・プライス  ベラ・グリフィス  アイネ・シュタインベルグ  アンナ・ハーマスティン
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人) 魔王子 魔王女
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!16『知井子の悩み・6』

2024-09-30 07:31:03 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧▢≦)!
16『知井子の悩み・6』 


 

 オーディションはHIKARIシアターで行われたぜ。


 HIKARIプロの常設劇場なんだけどよ、午後は、そのアイドルユニットの公演がおこなわれるんで、午前八時という異例に早い開始時間なんだぜ。

 歌うにしろ踊るにしろ、きちんと体調、声の調子を合わせにくい時間帯だ。

 マユは思った。わざと、そういう時間帯を選び、オーディション受けるやつらの本当の適性とやる気を見定めるつもりなんだ。黒羽ディレクターの意地悪にも見える本気度がよくわかったぜ。
 
 知井子と駅で待ち合わせして、会場へ行ったぜ。

 そこで、また驚くことがあった。

 会場には三十分前に着いたんだけどよ。もう、ほとんどの奴が来てやがる。

――あと、一人だな――

 会場整理のおっさんが、そう思ったことでわかったぜ。

 そして、このおっさんが、ただの会場整理でないこともな……。

 二三分して最後のやつがやってきて、全員がそろったんだけどよ、時間までは会場には入れねえみてえだ。

 そうやって外で待たせている間にも、おっさんやスタッフ、そして監視カメラなんかが、みんなの様子を観察してやがる。

 もう、すでにオーディションは始まっていることをマユは理解したぜ。

「さあ、時間です。受付を済ませた人は、指示された控え室に入って」

 偉そうなスタッフが、ハンドマイクで穏やかに誘導しやがる。

 受付もなにも、ここに着いた時に胸に付けるように配られたバッジにチップが組み込まれていて、カメラや、スタッフの特殊なメガネを通して個人は特定できるようにしてあるんだけどな。


 受付をすませて、マユは驚いたぞ。


「これって、最終選考だぜ……新ユニットの」

「マユ、気がついていなかったの?」

 知井子が不思議そうな顔をする。

 マユは、やっぱり自分をオチコボレの小悪魔だと思い知った。人間が目につかないことばかり見て、会場の正面に貼り出されていた看板を見落としていたんだぜ。

――HIKARI新ユニット最終選考会――

 受付から先は本人しか入れねえ。母親といっしょに来ているやつも半分近くいてよ、まるで、長期留学の見送りみてえだ。

 試しに心を読んでみると、その親子は、はるばる北海道から来てやがる。他にも、九州や四国から来てるのもいやがる!

 そして、すごいことを読み取っちまった。

「なあ、知井子。このオーディション2400人も受けてたんだぞ!」

「そうだよ、一次で400、二次で、46人まで絞られてたんだよ」

 平然と言う知井子に驚いたぜ。そして、そんなオーディションの最終選考に二人を横滑りのように入れた黒羽のおっさんにもな。


 準備室に入って、また驚いたぜ!


 みんな真剣に、でも静かに着替えてやがる。着替え終わると声も出さずに歌ってるやつ、壁に背中をあずけて姿勢をを整えるやつ、ストレッチをやるやつ。マユみてえにキョロキョロしてるやつは居ねえ(^_^;)

「なあ、知井子……え?」

 横を向くと、知井子も、他のみんなと同じような闘志をみなぎらせ、口パクしながら振りの確認に余念がなかったぜ。

 こっちに補習に来させられてよ、学校や街で若いやつらを見たり混じったりして分かったつもりでいたけどよ、ちょっと認識を改めたかもな。

 そんで、そのエモーションみてえなのにあてられて……いつもなら見落とさねえ気配に気づかねえマユだったぜ。


☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • 黒羽 英二    HIKARIプロのプロデューサー
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  
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