大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・072『みんな来てくれた!』

2024-09-17 14:20:16 | カントリーロード
くもやかし物語 2
072『みんな来てくれた!』 




 しばらく行くと草原は胸の高さに迫ってきた。

『やっぱり、半魚人の水のせいだろうね、伸びているだけではなくてツヤツヤとしているわ』

「感心してないで、しっかり前を見てよね。方角見失ったら元も子もないんだからね」

『分かってるわよ、だいたい合ってる。ずっとホバリングしていたから』

「たのむわよ」

 御息所の言葉が微妙に元に戻ってる。

 お局言葉っていうんだろうか、むかしの貴族女性みたいな言葉の時はアグレッシブで、率先して戦ってくれてる感じ。
 それが、ふつうの言葉遣いになると、ズボラになってくる。ふつうといっても、ちょっとわがままな感じなんだけどね。

 いまは、その『ちょっとわがままモード』なんだ。

 日本にいたころからの付き合いだから、こういう時は放っておく。

「しかたない!」

 シャラン

 左肩に掛けた近衛の剣を抜く。

 セイ! ヤー! トォー!

 恰好をつけて、佐々木小次郎みたいにぶん回す。

 バサバサと鳥が飛びたつような音がして目の前の草原が開けて、ちょっとだけ気持ちよくなる。

『その意気その意気、方角もだいたい合ってるでしょうから、がんばってね』

「んもー、時どきは確認してよね、道が合ってるかどうか」

『ん、いまさっき『こういう時は放っておく』とか思わなかったぁ?」

 チ、付き合いが長いのも考えものだよね。

 半魚人と戦った丘の位置を確認しながらでないと、ぜんぜん別の方角に向かってしまいそう。

 セイ! ヤー!  ヤー! トォー!  ヤー!  トォー! ヤー! トォー!ヤー! トォー! ヤー! トォー! ヤー! トォー!

 え、わたし以外にも声がする!?

 ちょっと数が多い、一人や二人じゃない。

 魔物とかだったらばんじきゅうす!

「ここで戦闘になったらたちうちできないよぉ(;゚Д゚)」

『しかたないわねぇ』

 ポケットから飛び出すと、頭の上でホバリングする御息所。

『……あ、学校のみんなよ! ヒイ フウ ミイ……女4人に男6人』

「ええ?」

 ここへは一度に一人しか来れないはずだよ。さっきは変換魔法でハンターがオリビアに付いてきたけど、やっぱり無理があって、すぐに消えてしまって、あらためて来たと思ったら近衛の剣だけ残してしゅんかんで戻ってしまったし。いったい何が?

「おーーい、こっちだよ、みんなあ!」

『こっちこっちぃ!』

 御息所と二人で声を張り上げると、ワサワサと草をかき分けながらみんなが集まってきた。

「みんな、どうしたの?」

 息を切らしながらも、ロージー・エドワーズが説明してくれる。

「いやあ、一人ずつ来ても、ラチ開かないでしょ。それで、ダメもとでね、みんなでジャンプしたのよ」

「よく来れたわねぇ」

「力を合わせたのよ。メイソン・ヒルが変換魔法、ヒトビッチ・アルカードが補助魔法……」

「補助魔法?」

「ああ、それはね……」

 ロージーが説明しようとするとヒトビッチ・アルカード自身が前に出てきた。

「うん、先祖から受け継いだ魔法なんだけどね、ダメもとでやってみたら意外と効果があった」

「ヒトビッチの七代前は吸血鬼だったのよ」

「え、吸血鬼( ゚Д゚)!?」

「ああ、伝説だよ伝説(^▭^;)」

「でも、ちゃんと魔力はあったじゃない!」

「ま、まあね(^_^;)」

「先祖はなんだっていいのよ、力を合わせて、それで効果があるなら。あとはタイミングね。大三角の真ん中目指して、みんなが息を合わすのはタイミングが大事」

「それについては、ヒューゴ・プライスの功績さ」

 メイソンがヒューゴの背中を叩いた。

「うちは株屋っていうか、相場師だからね。魔法のタイミングまで計れるかどうか、分からなかったけど、やったらできた。でも、みんなを引っ張ってきたのはメイソン・ヒルと」

「「「ロージー・エドワーズよ!」」」

 声をそろえたのはベラ・グリフィスとアイネ・シュタインベルグとアンナ・ハーマスティン。

「ああ、ロージーはゴッドファーザーの孫娘なんだ」

 ヒューゴがすごいことを言う。

「あ、それはお婆ちゃんの家系で、今は、みんな堅気の市民だからね(#^_^#)」

 喋っているうちにロージーとメイソンが中心になっている。

 二人がリーダーになって、みんなを引っ張って来てくれたのは事実のようだ。

 わたしって、日ごろはネルとハイジ以外とはあまり親しくしてなかったから、ちょっと感動だよ。

 ……て……あれ、ハイジはどうしたんだろう?

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド  メイソン・ヒル  オリビア・トンプソン  ロージー・エドワーズ  ヒトビッチ・アルカード  ヒューゴ・プライス  ベラ・グリフィス  アイネ・シュタインベルグ  アンナ・ハーマスティン
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精) プロセス(プロセスティック=義手・義足の妖) 額田王 織姫 間人皇女 マーフォーク(半魚人

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REオフステージ(惣堀高校演劇部)154・音楽の授業を遅刻した理由

2024-09-17 08:28:39 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
154・音楽の授業を遅刻した理由 千歳 




 惣堀はバリアフリーのモデル校で、車いすのわたしでも移動に不便を感じることは少ない。

 でも、ときどき不便なことがある。

 それが芸術の時間。

 音・美・書の特別教室は、惣堀がモデル校になる前に建てられた芸術棟なので、いったん玄関を出て、芸術棟に行ってエレベーターに乗りなおさなきゃならない。

 エレベーターに通じる吹き抜け廊下にさしかかったとき、下の玄関ホールから織田先輩が友だちと話してる声が聞こえてきた。

『織田も、来年は移動が楽になりそうだな』

『ああ、芸術は二度もエレベーターに乗らなきゃならんものなあ』

 あ、織田先輩も芸術(たしか美術)だったんだ。

『手術、うまくいくといいな』

『ありがとう、大丈夫さ』
『ジイもやっと肩の荷が下りまする』

『だってさ』

『織田の腹話術も聞き納めかぁ』

『いやいや、足が治っても平手のジイは、永遠の守り役じゃぞ』
『ま、まことでござるか!?』 
『ああ、足が治れば本格的に腹話術をやるぞ』

『吉本でもいくんかい(^_^;)』

『ああ、織田信中の戦国腹話術! ウケると思わねえか?』
『お濃も楽しみにしております(^▽^)/』
『だってさ』
『市も応援してますわぁ』
『おうおう、愛い奴じゃ(^▭^)』
『兄上ぇ(^^♪』
『よしよし』

『あ、それは気持ちが悪いかも(^〇^;)』

 チーン

『お、エレベーター来たぞ』

 
 あ、ヤバイ。


 エレベーターの前を離れる。ここで出くわすのは、ちょっと気まずい。

 先輩たちをやり過ごしてからエレベーターに乗る。

 おかげで、音楽の授業は遅刻してしまった。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口 織田信中 伊藤香里菜
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)  藤岡(養護教諭)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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