大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・128『大谷の快挙と巡の粋狂』

2024-09-22 10:18:56 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
128『大谷の快挙と巡の粋狂』   




 50-50(フィフティーフィフティー)というのはお相子、勝負無し、お互いさま、可もなく不可もなく、五分五分、半々……そんな意味だと思う。

 だからピンとこなかった。

 お祖母ちゃんが時計代わりに点けているテレビが『大谷翔平の50-50』を盛大に褒め称えている。

 野球に興味のないわたしは――そんな大騒ぎするようなことなの?――だ。

「昨日の夕刊に載ってただろ?」

 お婆ちゃんは言う。

「新聞なんて……あ、読んだっけ」

 夕べ「巡(めぐり)、こんなコラムが出てるよ」と、お祖母ちゃんは夕刊を見せた。

「……ああ、これは意義深いねえ」

 内容はこうだ。

 コラム氏が友人から転居のお知らせ葉書を受け取った。

 読んだコラム氏はビックリした。その友人は念願の引っ越をしたんだけど、それが鹿児島の離島。特に定年後の一念発起というのじゃないらしい。葉書は印刷じゃなくてキッチリと肉筆で書かれていて思いのたけが偲ばれる。なんだか、ぶっ飛んだ人、粋狂な人だ。

 うちの家系は、こういう粋狂が好きだ。

 定年後も、いろいろ魔法少女のコボレ仕事を引き受けているらしいお祖母ちゃん。火星に行くんだとNASAで訓練中のお母さん。制服が気に入らないからという理由で、毎日昭和の高校に通っているわたし。

 そういう粋狂のアンテナは、世間的にも、限りなく相似形のお婆ちゃんと比較しても微妙な違いがあるみたい。

 あらためて見た夕刊一面のトップニュースに、この大谷選手の50-50達成のことが載っている。扱いは、どこかの県議会で知事の不信任だったか辞職勧告だったかの決議を満場一致でしたのよりも大きかった。

 でも、その大谷選手の50-50は、わたしの脳みそにインプットされていなかった。

 ま、女子高生の興味や関心はこんなもんだ。

 盗塁50、まあ、一軍の野球選手ならあるだろ。ホームラン50、これもあるだろう。よう知らんけど、イチローとか松井とかは、もっとすごかったと思うよ。 まあ、一回の試合で両方達成したというのがすごいのかもしれないけどさ。

 わたしなんか、一学期末の英数国はそろって50点。大谷のダブル50どころかトリプル50達成だよ。


 戻り橋を渡りながら、わたしの脳みそは大谷選手の快挙は起きる寸前に見てた夢みたいに儚くなって、懸案事項でいっぱいになっていた。


 実は、アルバイトでしょっちゅう行く結婚式場。そこの貸衣裳の花嫁衣裳が大量に放出されることになってるんだよ。

 一着500円とか1000円とか!

 貸衣装っていうのは、ちょっとくたびれただけでダメになる。微妙な黄ばみとかシミとかあるだけでアウト。
 むろん、手入れで取れるものは取って使っているんだけど、ほとんどおニューと変わらないものでないと、ユーザーからは敬遠される。

 1970年代というのはそういう時代なんだ。戦後四半世紀、住はともかく、衣食は足りてきて、花嫁衣裳ぐらいはピシッと決めたい時代なんだ。

 わたしはね、まあ、お遊びですよ。粋狂物のお遊び。

 気に入った一着を着てさ、メイクとかは仲良くなった式場のスタッフにやってもらえるし、撮るのは須之内写真館のスタジオでさ。

 たぶん1000円ぐらいでできるよ。

 令和だったら、ラーメンいっぱい食べられるかどうかって金額で、ちょっとした夢が叶うわけ。

 問題は、その後の花嫁衣裳。

 貸衣装の放出品だから500円とか1000円。

 いま現役で使ってるのはレンタルしたら昭和の時代でも複数の聖徳太子が要る。それが500円とか1000円。

 引き取るにしてもねぇ、花嫁衣裳って一着だけでもかさ張るんだよ。普通の古着なら普段着に使えるけど。うちの家にクロ-ゼットなんちゅうハイカラな収納は無い。ジュニア用の洋服ダンスと押し入れだよ。ウェディングドレスなんか入れたら、それだけで一杯!

 で、大谷君のことなんか1000%飛んで、悶々として学校に着いた。

 で、少しすっ飛ばして、その日のロングホームルーム。

 二年生になると、どこかズボラになって、本番まで一か月を切ろうかというこの日に文化祭の取り組みが議題に上った。

「なにか、取り組みとか出し物のアイデアないですかぁ……」

 副委員長のたみ子が――今日締め切りなんだけど――という想いを籠めて三度目に言った時、わたしは閃いた!

「ねえ、ウエディングのファッションショーとかやってみない!」

 閃いた勢いのまま提案して、あっさり決まってしまった!

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧▢≦)!9『ダークサイドストーリー・5』

2024-09-22 07:03:59 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧▢≦)!

9『ダークサイドストーリー・5』 




 片岡先生は、中庭の池を泳ぐ鯉を見ている。

 池は、五十坪ほどの中ノ島を取り巻いてドーナツ状になっている。鯉たちは前に泳いでいるつもりかもしれねえが、実際は、ドーナツ状の池をグルグル回っているだけなんだぜ。

 鯉が回遊しやすいように、ポンプで、適当な水流を作り出してあるんだ。

 鯉のやつらは上流に向かってのんびり遡っているような気になっていやがる。

 バカみてえだけど、これを作った人間に悪意はねえ。鯉が運動不足にならないようにとの気配りなんだ。

 じっさい、この学校の鯉は長生きで体格も良く元気に育ってやがる。視察にきた知事が「ぜひ一匹譲って欲しい」と申し出たぐらいだ。

 だけどよ、一匹だけ、回遊のアホらしさに気づいたのか、一カ所くぼんだとこに停まって動かない鯉がいたぜ。

「オレに似てるなあ、お前は……」

 片岡先生は、その鯉に親近感を感じていた。

 でもよ、回遊している鯉も、わだかまっている鯉も、どこへも行けないという点では同じなんだけどよ。


 パシャ


 その鯉が、何に驚いたのか、水音をたてて跳ねた。

 よく見ると、新顔の錦鯉が泳いでいる。どうやら、その新顔に驚いたみてえだ。

「知事さんが、気に入った鯉が欲しいっていうんで、交換に持ってきた新顔ですよ。ただ貰っただけじゃ、どこかの知事みたいに追及されますからね、前のより値の張るベッピンですよ」

 庭木の手入れをしていた技能員のおっちゃんが、問わず語りに解説する。

「若い雌でしてね、そのスネた鯉は、あまりのベッピンぶりにタマゲタのかもしれませんねぇ」

 片岡先生は、自分のことを言われたような気がしたぜ。

――しかし、オレは違う……だって、シンディーは、とっくに死んでしまったんだから――

 片岡先生の思念を感じて、利恵のやつは混乱し、マユは一つの結論に達したぜ。

「利恵、おまえ、頭の中スクランブルエッグだろ」

「そ、そんなこと無いわよ!」

 渡り廊下の窓から、中庭の片岡先生を見ながら、二人のオチコボレは声を交わしたぜ。

 こっちは悪魔語り、利絵は天使のささやきで、志向した相手にしか聞こえねえ喋り方なんだけどな。思念よりも気持ちが通じる。

「アミダラ女王から、メリッサ先生を検索したのは大したものだったよ。さすがガブリエルの姪っこだぜ」

「だって、片岡先生の心には、メリッサ先生が住んでいた。だから二人が出会えるようにしたのに……」

 パチャン

 また鯉が跳ねた。

「片岡先生は、メリッサ先生を見て、シンディーって呼んだんだ……ほら、今でも心の中でシンディーを呼んでるぞ」

「だって、DNAまで調べたんだよ」

「天国のスパコン使ってなぁ」

「うるさい! 悪魔みたいにアナログじゃないのよ。たえずイノベーションしてんのよ!」

 中庭に面した、英語科の準備室からメリッサ先生が、当惑したような顔で中庭の片岡先生を見てやがる。

「メリッサ先生もとまどってるぞ」

「おかしいなあ……」

 そのとき、知井子が声をかけにきやがった。

「ねえ、マユ、お昼いこうよ。みんな待ってるよ」

「あ、ごめん。すぐに行くから。ランチの食券買っといて」

 マユは、財布から五百円玉を出しながら、利恵に言った。

「一卵性の双子は、DNAがいっしょなんだよ」

「え……双子!?」

 思わず声になってしまい、近くにいた生徒たちが驚いた。


 そう、利恵とマユは、渡り廊下の二階と三階にいて、話し合っていたんだ。


――天使の親切、大きなお世話ってな――

――そんな――

――片岡先生は、シンディーの名前さえ封印して、記憶の底に鍵をかけていたんだよ。もう、片岡先生、立ち直れないぞ。おめえが撒いた種だから、もう一度検索しなおしたらぁ。いっぱいコンピューター使って。じゃ、よろしくな――

 プツン

 マユは、利恵との思念のチャンネルも切って、食堂に向かったぜ。

 利恵は、混乱しながらも、天国のスパコンにアクセスしてメリッサの情報を検索しなおしやがった。

 答えが出てこない……。

 天国のスパコンでは間に合わないので、人間界の何十億ものパソコンにアクセスするように命じた。天国のスパコンはプライドが高いので、最初は拒否したが、バグの報告をすると言うと、しぶしぶアクセスした。

 それは、数年前のフェイスブックから出てきた。

〈ジョンソン・オブライエン:娘のシンディー・オブライエンは、交通事故で、今日、神に召されました。でもシンディーにはシロ-・カタオカという恋人がいて、神に召されるまで彼女を見守ってくれました。シンディーは幸せに旅立っていきました。そちらのメリッサにはご内密に〉

 シンディーとメリッサは、双子の姉妹で、赤ん坊のころにシングルマザーが亡くなったので、それぞれ違う里親に預けられたんだ。里親同士は、SNSで知り合い、情報を交換していた。

 それを利恵は気づかなかった。

――くそ、憶えてろぉ……落第小悪魔め!――

 利恵は、見当違いの憎まれ口をたたきやがった。たとえ小悪魔相手とは言え、天使が憎まれ口をたたいちゃいけねえんだけどな。

 こういう利絵は、ちょっと可愛くてよ、悪くねえと思うぜ。

 さあ、ご飯食べに行こ!


☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
  • 雅部 利恵    落ちこぼれ天使 
  • 片岡先生     マユたちの英語の先生  


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