大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・125『エアコンはないんだけども』

2024-09-05 10:58:06 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
125『エアコンはないんだけども』   




 令和の学校は8月の25日ぐらいから学校が始まっている。

 冷房の効いた家の窓から、まだまだ真夏の学校に通う令和の子たちを見ているのは、ちょっと気持ちよかった。

 でもね、令和の学校にはエアコンがある!

 昭和の学校にはエアコンどころか扇風機も無い!


 ニチャ……


 これが終わったら三時間目の終りで、短縮授業期間だから学校そのものがおしまいという現国の時間。課題のプリントを書き終えて顔を上げると、いっしょに上げた腕が机に貼り付いて、不潔な音がする。

 これがパリっていう乾いた音ならそれほどじゃないんだろうけど、ニチャ……はいけない。汗と空気中の水分と机と腕の間に繁殖した細菌とかばい菌がスクラム組んでいるようで、めちゃくちゃ不潔で不快な音だ。

 机の上には腕の形に汗が付いていて、乾くと塩が吹いていたりする。

 気を付けていたけど、腕の端っこがプリントを踏んでいて、踏んだところがビチャビチャ。

 ペタペタペタ

 この人特有の軽いサンダルの音をさせて杉野先生が戻って来る。

「じゃあ、これで終わるから、後ろから集めて」

 七列ある席の後ろの子がプリントを回収して教卓に持っていく。

 ほんの十秒ほどで回収し終えると、そのまま先生は教室から出て行っておしまい。

 二時間目の数学もプリントで、ちゃんと授業があったのは一時間目の物理だけ。

「杉野が前に立ったらひんやりしてたよ」

 教卓の前に座っているたみ子が汗を拭きながら言う。

「ああ、ずっと職員室のクーラーの前に居たんだよ、先生」

「いいですよねえ先生は、教室にもクーラーを付けるべきです」

 真知子やロコからもグチが出る。

「図書室にでも行こうか」

 たみ子が下敷きをパタパタ言わせながら提案。

「そうね、お喋りはできないけど」

 フローラルな香りの扇子をヒラヒラさせて真知子が決定。

 
 本日休館


「「「「ええ……」」」」

 図書室のドアには無常の張り紙がしてあった。

「昨日も休館だった」

「短縮中は開かないんですかねえ」

 校内で唯一生徒が利用できるエアコンスペースである図書室の前、しばらくは立ち去れない四人組。


「よかったら、ウチくる?」


 振り返ると演劇部の牧内千秋さんが体操服で立っている。

「うちの部室は一階だしね、秘密兵器があるんだよ~」

 去年のクリスマス以来の部室。

 あ、正式には倉庫。

 生徒会と交渉して別に部室を獲得したんだけど、それは階段の下、ハリーポッターのねぐらみたいなとこ。それで、普段の部活はやっぱり倉庫なんだそうだ。

「ええ、なんですか、これ!?」

 ロコが発見したのは、ちょっと変わった扇風機。

 扇風機の後ろに水彩絵の具用のバケツが固定してあって、バケツの中には掃除機の狭いところ用のノズルが立ててある。

「ちょっとした発明でねぇ……」

 ヤカンの水をバケツに注いでスイッチを入れる牧内さん。

 ブィ~~~ン

 中の勢いで扇風機が首を振りはじめる。

 ……え!?

「めちゃくちゃ涼しい」「なんで?」

 たみ子と真知子が扇子と下敷きを停め、ロコが扇風機の後ろに周る。

「あ、これはスゴイです!」

 ええ? なになに?

「気化熱を利用して冷風にしてるんですよ!」

「え、あ……」

「なるほどぉ!」

「エアコンと同じ原理だ……」

「アハハ、苦肉の策なんだけどねぇ(^_^;)」

「いえいえ、立派なもんですよ!」

「そうねえ、クリスマスのかがり火といい、この扇風機といい……」

「牧内さん、天才だ!」

「へへ、そんないいもんじゃないわよ。正式な部活は短縮が終わってからだしね」

 うん、少しは分かるよ。

 牧内さんが工夫してるのは部活のためなんだ。

 わたしたちがお邪魔してるってことは、他の部員は来ないんだ。

 やっぱり短縮授業中、マイナーな部活はね、テンションやらモチベーションの維持が難しい。短縮中に部活をしてはいけないなんて決まりはない。部員が付いてこないだけなんだ。連盟の副会長まで引き受けている牧内さんだけど、自分の部活は楽じゃないんだね。

 いーちにーいちにさんし イチ!(ソーレ) ニ!(ソーレ) サン!(ソーレ)……

 開け放した窓から元気な掛け声、佳奈子が後輩たちを追い上げてランニングをやっている。

 空にはまだまだ夏の入道雲、思い出したように蝉が鳴く。

 ツクツクボーシ、ツクツクボーシ… 

 やっぱり、微妙に季節は移ろっていっているようだ。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
   
 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)142・学食の自販機前にて

2024-09-05 07:20:26 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
142・学食の自販機前にて 千歳 





 昇降口を横目に殺して廊下を進むと学食に通じるスロープになる。開け放ったドアから自販機のサンプルをチラ見。よし、午後の紅茶無糖は残っている。

 スロープは健常者用の四段の階段に対し直角に付けられている。

 二段分下りたところでクニっと360度折り返して、さらに二段分下りて学食の前に着く。

 折り返しのところは生け垣のスペースと被って、学食の入り口からは死角になって見えなくなる。

 その折り返しの所で止まってしまった。

 自販機の前に啓介先輩が立ってしまったのだ。

 ちょっと気まずい。昨日のヘリコプター不時着事件で先輩にお姫様抱っこされて、その時のドキドキがまだ残ってるから。


 先輩が行ってしまうまで待とう。


 ゴトン……カチャ カチャ スタスタスタ…………

 ペットボトルを取り出す気配がして足音が遠ざかる。

 よし。

 車いすを超真地旋回(ガルパンで憶えた言葉)させて、下りの勢いのまま自販機へ。

 百円玉二個を握って……固まってしまった。

 ウソ……午後の紅茶無糖は無情の売り切れ赤ランプ。

 啓介先輩が最後の一個を買ってしまった……。

 ショック…………ついさっきまで買えると思っていた午後の紅茶無糖が売り切れてしまったこと。そして、最後の一個を買ったのが啓介先輩だったこと。

 なんだかドキドキしてきた。

 悲しいから? お目当ての午後の紅茶無糖が無くなったから? それとも?

 え……なんで涙が?

「あ、これ欲しかったのか?」

 声が降ってきたので二度ビックリ! 見上げると啓介先輩。

「え!?」

「あ、ボンヤリしてて、もう一つ買うの忘れてて……俺は、どれでもええから、ほれ、これは千歳にやるわ」

「あ、いや(#'∀'#)」

「俺は、これ……っと……」

 先輩は缶コーヒーを二つ買って「んじゃ」と顔も見ないで行ってしまった。

 
 数秒、ボーっとして気づいた……お金渡してない。


 車いすを超真地旋回させて校舎に戻る。

 先輩が向かったのは三年生のブロックだ。

 エレベーターに乗って、三年のフロアを進む。

 二つ目の教室で発見。

 声をかけようと思ったら、先輩の他にもう一人。

 え……須磨先輩。


 さっきよりもドキドキしてきた……。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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