馬鹿に付ける薬 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》
018:ヒュドラを討つ・3『アンデッド』
ゾワ……のゾ!
背後に気配の『ゾ』を感じて三人ともに振り返った。
ジャキン!
気配がアンデッドのそれだと分かって『ゾワ』っと届ききった時には二人を飛び越えてアンデッドどもの前で大剣を構えているプル-ト!
「アンデッドの気配なんかしなかったぞ!」
遅れて弓を構えたアルテミスは盗塁を許してしまったピッチャーのように唇を尖らせるが、さすがに矢をつがえている。ベロナは三人の前に防御シールドを張った!
グワ!
先頭のアンデッドが闇のような口を開けて飛びかかって来る! その跳躍が放物線の頂点にかかった時にはアルテミスの矢がアンデッドの額を貫いて瞬時に四散させた!
シュシュシュシュシュ! シュシュシュシュシュ!
四散した腐肉や骨片が魔素となって蒸発する前に、アルテミスは五連の矢を二斉射して背後の十体のアンデッドを射殺す! プルートは風車のように大剣を振るってアンデッドの群れの中を突き抜ける!
ジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュジュ!
アンデッドどもは、斬撃粉砕の音を立てる間もなく蒸発するように消し飛んでいく。
グワワワ!
シールドは十分な広がりを持っていたが、巨大な雪の結晶のように外縁部に隙間があって、そこから数体のアンデッドが侵入。
アルテミスは弓を剣に変換して越境してきたアンデッドをたちまちのうちに両断する!
ズサ!
しかし、その剣をも掻いくぐって襲い掛かる一体のアンデッド!
キャ!
ベロナが悲鳴を上げる! 悲鳴は銀色の呼気となって、そいつを瞬間で霧消させ、数秒残った呼気には『ホーリーブレス・レベル1』と出ていた。
そして、プルートがUターンし、群れの背後を取った時には残ったアンデッド共は森の中に逃げ散っていた。
「ベロナ、シールドを平面にしたのはいいが、それでは中華鍋をプレスしたようなものだ」
さっそくプルートのダメが入る。
「あ、そうですね。縁に綻びが出てしまったわ(^_^;)」
「しかし、トドメのあれはホーリーブレスだ。咄嗟に出たんだろうが、いい武器になる。シールドと合わせて鍛えておくといい」
「はい」
「見ろ、いまの奴ら、さっきの冒険者のかけらどもだ……」
アルテミスが指し示した薮や獣道には蒸発しきれなかったカケラが残っていたが、それは、さっき森の入り口辺りで見たものと同じであった。
「支配魔法の痕跡があるわ」
「誰かが操っていたんだな……こういうのは好きじゃない」
「好き嫌いで旅は乗り越えられ……」
「?」
「どうかしました、プルート?」
「ゆっくり振り返ろ、操っていた奴が来ている」
振り返ると、三頭魔犬のケルベロスが四股を踏んだ横綱のように蟠っていた。
☆彡 主な登場人物とあれこれ
- アルテミス アーチャー 月の女神(レベル10)
- ベロナ メイジ 火星の女神 生徒会長(レベル8)
- プルート ソードマン 冥王星のスピリット カロンなど五つの衛星がある
- カロン 野生児のような少女 冥王星の衛星
- 魔物たち スライム ヒュドラ ケルベロス
- カグヤ アルテミスの姉
- マルス ベロナの兄 軍神 農耕神
- アマテラス 理事長
- 宮沢賢治 昴学院校長
- ジョバンニ 教頭