REオフステージ (惣堀高校演劇部)
143・織田センパイとの出会い 千歳
話は少しさかのぼるけど、文化祭が終わって数日のころ、こんなことがあった。
ガチャン!
エレベーターを降りてすぐ、車いすの男子と衝突してしまった。
で、なんの拍子か、ハンドルだかブレーキだかが絡んで身動きが取れなくなってしまった。
「あ、ごめん!」「ごめんなさい!」
お互いのお詫びも重なった。
「え……」「あ……」
どういう絡み方をしたのか、ギシギシ動かしても離れなかった。
ギシギシやりながら、相手が二年生の車いすの人だと分かった。
学校には車いすの人が三人いる。学年に一人ずつ。
あ、ミリー先輩が足のケガで乗っていたころは四人だったけどね。
学年も違うし、共通項は車いすということだけで知り合うことも無かった。
「これは、人に来てもらわないと無理っぽいね(^_^;)」
見ると、ちょっとイケメンのその人が言う。
「ですね」
まあ、放課後とはいえ学校だ、すぐに誰か通りかかる……と思ったら、周囲には誰も居ない、通りかからない。
「先生に来てもらおう……」
そう言ってイケメンさんはスマホを出して電話する。
「……はい……はい、そういうわけなんで、よろしくお願いします。すぐに来てくれるって」
「は、はい」
アクシデントなんで仕方ないんだけど、ほんの40センチほどの距離に男の人の顔があるというのは落ち着かない。
「きみ、一年の沢村さんだろ」
「あ、はい」
「文化祭見たよ。面白かったね」
「え、あ、見てくれてたんですか!?」
「うん、新聞にも出てたしね、ネットでも動画が出てた。あ、むろん、本番も体育館で観たんだけどね」
「あ、ありがとうございます(;'∀')」
「舞台用の車いすがあるなんて初めて知ったよ、木製なんだね」
「あ、あれは室内用に作られた試作品みたいなもんで、姉が借りてきてくれて……」
「あ、そうなんだ」
ふと見ると、その人の車いすには平手正秀と名前のシールが貼ってある。
「平手さんておっしゃるんですか?」
「え、ああ……これは車いすの名前」
「え、車いすの?」
「俺は、織田信中っていうんだ」
「織田信長!?」
「織田信中、ほれ」
生徒手帳を出して見せてくれると『織田信中』とある。
「信長にあやかってね、でも、信長じゃ名前負けするだろうって、ちょっと短くして『信中』っていうわけ」
「フフ(* ´艸`)、あ、ごめんなさい」
「で、この平手正秀というのは信長の守り役の名前でね」
「あ、聞いたことあります。信長が無茶ばっかりするんで、切腹して諌めたってお爺さんですね」
「へえ、知ってるんだ!」
「お姉ちゃんが『信長の野望』とかやってたんで」
「ああ、そうなんだ」
いい人なんだ。
助けの先生がやってくるまで、気まずくならないように和ませてくれてるんだ。
『平手でござる。守り役でありながら、とんだ不調法をいたしました。申し訳もござらん、千歳殿』
え?
「ジイは黙っておれ」
あ、腹話術。
『いや、これはジイの不調法でござる。ここは、このシワ腹かっさばいてお詫びを』
「バカモン、車いすに腹を切られては、この信中、身動きがとれないではないか!」
『あ、いや、それもごもっとも』
「アハハハ」
「ハハハ、面白かった?」
「あ、はい。織田さんも(^○^)」
「それはよかった」
すまん、遅くなったぁ!
見覚えのある二年の先生がやってきて、車いすを引き離してくれる。
『では、さらばでござる』
先生がキョトンとして、織田さんは「アハハハ」と笑って行ってしまった。
それから、廊下や学食で出会ったら「やあ」とか「どうも」とか、演劇部以外で、あ、生徒会の瀬戸内さんは別にして挨拶する初めての上級生になった。
☆彡 主な登場人物とあれこれ
- 小山内啓介 演劇部部長
- 沢村千歳 車いすの一年生
- 沢村留美 千歳の姉
- ミリー 交換留学生 渡辺家に下宿
- 松井須磨 停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
- 瀬戸内美春 生徒会副会長
- ミッキー・ドナルド サンフランシスコの高校生
- シンディ― サンフランシスコの高校生
- 生徒たち セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
- 先生たち 姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)
- 惣堀商店街 ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘