馬鹿に付ける薬 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》
015:カロンと晩ご飯
「おめえら、こんなもの食ってんのか!?」
お湯で温めただけのレトルトシチューをコッフェルに入れてやると目を丸くするカロン。
「悪いな、いちいち調理なんかしてられねえ『ダンジョン飯』じゃないんだからな」
「ああ、あれはすごいわね。ドワーフが調理のベテランで、どんな素材からでもご馳走を作ってしまうのよね。あ、でも、旅は始まったばかりだから、パンは、まだ新鮮よ。はい、どうぞ」
「グ、グググ……」
「なんだ、まだなんか文句あるのか!」
「ち、ちげーよ。有機物の……それも白いパンなんて初めて食うぜ……」
カロンがビックリしているのは、レトルトとかの安直さではない。旅の簡易な食事なのだが、カロンには、とんでもないご馳走に思えるのだ。
「う、うめぇ!」
「カロン、普段はどんなもの食ってるんだぁ?」
「アルテミス、失礼よ」
「別にかまわねえよ。オレたち、太陽系のいちばん外れだし、オヤジが惑星のカテゴリーから外されてからは、そこらへんの星くずとかデブリとかを分子変換して食ってる、ムシャムシャ」
「そ、そうなのか(;'∀')」
「たまに、迷い込んだUFOとかも、ズルズル」
「UFO食うのか!?」
「ああ、中に食料とか積んでるのがあるし、宇宙人て基本有機物だから変換したら、ムシャムシャ……けっこうなご馳走だ」
「「…………」」
「あ、むろん生きてるやつは食わねえぞ。生命だからな。くたばってる奴をいただくんだ。ムシャムシャ」
「そ、そうなのか」
「オヤジはよ、248年かかって太陽の周りを周ってるんだけどよ、人類が発見してからまだ日が浅くって、公転の様子は、まだ半分以上分かってねえ」
「ああ、言語化するには人類の知性を経由しなくちゃならないからな」
「だから、オヤジにはがんばってもらわなくちゃ……オレもがんばるしな。ムシャムシャムシャ……」
それから、ひとしきり晩ご飯を食べると、空になったコッフェルに手を合わせ、あっという間に消えてしまった。
「いまのアレ、ごちそうさまだよな?」
「意外と礼儀正しい……」
それから、自分たちはほとんど食べていないことに気づき、それぞれカロンの半分ほどの晩ご飯を食べた。
プルートは、深夜になって戻ってきたが、しっかり寝ていた二人は朝まで気づくことが無かった。
☆彡 主な登場人物とあれこれ
- アルテミス アーチャー 月の女神
- ベロナ メイジ 火星の女神 生徒会長
- プルート ソードマン 冥王星のスピリット カロンなど五つの衛星がある
- カロン 野生児のような少女 冥王星の衛星
- カグヤ アルテミスの姉
- マルス ベロナの兄 軍神 農耕神
- アマテラス 理事長
- 宮沢賢治 昴学院校長
- ジョバンニ 教頭