大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

馬鹿に付ける薬 016・ヒュドラを討つ・1『プルートの話し』

2024-09-18 14:54:15 | ノベル2
鹿ける 《気まぐれアルテミスとのんびりベロナの異世界修業》
016:ヒュドラを討つ・1『プルートの話し』 




 プルートは夜遅くになって帰ってきた。


「あら、いつの間に帰ってきたんですか?」

 自分たちのために森に行ってくれたんだと思って、ベロナは火の番をしながら起きていたのだが、つい睡魔に勝てずにまどろんでしまった。アルテミスはかまわずにブランケットにくるまって寝てしまっている。

「なにを言ってる、もう行くぞ」

「え?」

 帰って来るなり「行くぞ」と言われては混乱する。

「儂も三時間寝た十分だ」

「え、あ、じゃあアルテミスを起こして朝ごはんにしなきゃ」

「それは果樹園の用事が済んでからだ」

「え、あ、ちょっ……」

 熟睡中のアルテミスを起こすと、すでに峠の中ほどまで下ったプルートを追いかけてベロナは坂を下った。まだ東の空に明けの明星が煌々と輝き、目標の森は夜の底に黒々と蟠って空との境目が定かではない。

「森にはヒュドラという蛇の化物がいてな……」

「ヒュドラ!」

 ベロナは思わず立ち止まってしまった。

「ヒュドラ……だってぇ!?」

 寝ぼけ眼のアルテミスも瞬間で目が覚めた。

「知っている様子だな。じゃあ、説明はいらんだろ、行くぞ」

「ちょっと待てよプルート、ヒュドラなんてオレ……あたしでも知ってる100個も頭のある蛇の化物だ、レベルは、ほとんど100だぞ」

「さっき、いえ、夕方にカロンが認定書を持ってきてくれましたけど、わたしのレベルは8でした」

「あたしは10だ」

「とても、レベル100の魔物なんか無理です」

「普通にやればな」

「ヒュドラは眠る時でも一つだけは起きてる。寝込みを襲っても、その起きている一つが、たちまち、残りの99を起こしてしまうから、駆け出しの冒険者じゃ返り討ちになるだけだ」

「年にニ三回は100の頭が全て眠る。それが、今朝の明け方の一時間ほどだ」

「どうして分かるんですかぁ(^_^;)」

 穏やかだが、眉をひきつらせてベロナが聞く。

「ヒュドラの奴が相談しているのを聞いた」

「ヒュドラの相談相手って……」

「100の頭が相談するんだ。前の記録から言って、今夜あたりだろうと、息を殺して聞いていたのさ」

「じゃあ、その一時間の間なら、簡単にやっつけられるというわけなのか?」

「ああ、無防備になるからな」

「おし、それなら勝てるかもしれないな」

「でも、アルテミス。わたしたち曙の谷でチュートリアルみたいな戦いしかしたことないのよ」

「寝てる間は、臨時の魔物が入る。なに、ヒュドラに比べればなんでもない」

「その臨時の魔物って?」

「なんなんだ?」

「たかのしれたケルベロスさ」

「「ケルベロス!?」」

 ケルベロスでも十分すぎる脅威だ。

 プルートに付いていく足どりが目に見えて落ちてくる二人だった。

 
☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • アルテミス          アーチャー 月の女神(レベル10)
  • ベロナ            メイジ 火星の女神 生徒会長(レベル8)
  • プルート           ソードマン 冥王星のスピリット カロンなど五つの衛星がある
  • カロン            野生児のような少女  冥王星の衛星
  • 魔物たち           スライム ヒュドラ ケルベロス
  • カグヤ            アルテミスの姉
  • マルス            ベロナの兄 軍神 農耕神
  • アマテラス          理事長
  • 宮沢賢治           昴学院校長
  • ジョバンニ          教頭

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REオフステージ(惣堀高校演劇部)155・伝達表彰式

2024-09-18 09:39:46 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
155・伝達表彰式  瀬戸内美晴 




 生徒会の任務は多岐にわたるけど、地味に重要な任務がある。

 全生徒のモチベーションを高いポテンシャルで維持すること――惣堀生でよかった!――という気持ちにさせることよ。

 文化祭や体育祭だけじゃなく、学校行事や学校生活に規制があるのは当たり前。集団生活にはルールが付き物。たとえば、定足数に満たない部活を同窓会に降格させたり、部室棟と呼ばれる旧校舎の建て替えに向けて演劇部とかのクラブを追い出すこととかね。

 時には強権発動的なこともしなくちゃならないんだけど、そのためには、生徒会は、部活が優秀な成績を残したとか、生徒がいいことをしたとかのチャンスを捉えては、イッチョカミするわけよ。

 ふつう、そういういいことがあったら、伝達表彰って言うんだけど、校長先生がステージで代読しておしまい。校長って地味がスーツ着てるようなものだから、全校集会の挨拶とか講話のついでにやられたら誰も聞いてない。

 そこで、そういう表彰めいたことは、生徒会がプロディュースする。

 放送部でアナウンスコンクールで入賞経験のある女子にMCをやってもらって、吹部や軽音にBGMやら、表彰状を渡す瞬間にはドラムロールとかをやってもらって、時にはくす玉を仕込んで『祝 〇〇部~優勝!』とかの横断幕をステージの上に出す。時には、生徒会長がお祝いのスピーチをやるんだけど、この一年は不肖、副会長の瀬戸内美晴の独壇場。

 まあ、才能的にもビジュアル的にも当然なんだけどね。

 で、今日は演劇部の小山内啓介の表彰なのよ!

 先月、南河内温泉で人命救助をやった。その感謝状と表彰状が学校に届いた。

 普通なら、ミス放送部のMCと吹部のBGMで伝達表彰という段取りなんだけど、ちょっとした仕掛けをした。

「校長先生から、南河内消防本部からの伝達表彰をしていただきました。続きまして、小山内啓介君に蘇生措置をしてもらって一命をとりとめた藤堂佐和子さんからの感謝の言葉です。佐和子さんは、まだご療養中ですのでお孫さんである、本校一年生の伊藤香里菜さんに代わって述べていただきます。伊藤さんどうぞ!」

 吹部が結婚式の披露宴かというような、聞いているだけで感謝や幸福を予感させるBCMを奏でる中、伊藤香里菜が頬を染めてステージに上がった。


「お婆ちゃんが心肺停止の状態で病院に運ばれたと聞いた時は、目の前が真っ暗になり、地球がグズグズに崩れていくような気がしました。仕事で忙しい両親に代わって保育所の送り迎えや、病気をした時には、それこそ寝ずの看病をしてくれたお婆ちゃんです。そのお婆ちゃんが仲間といっしょに南河内温泉にいって倒れてしまいました。たまたま、隣の男湯に入っていた小山内先輩は、女湯のただならぬ気配に気づいて、すぐに駆け付けて人工呼吸と心肺蘇生措置を施してくださいました。「初期対応が適切だった」とお医者さんに告げられ、それが、自分もかつてやっていた演劇部の部長だと聞いて、お婆ちゃんはとても感激していました。そして、その救助をしてくださったのが、わたしの通う惣堀高校演劇部の小山内先輩だと聞いて、今度はわたしがビックリしました。先輩と演劇部のみなさんの姿は文化祭の舞台でも拝見し、とても素敵だと思っていました……小山内先輩、ほんとうにありがとうございました! そして、こうやって皆さんの前で感謝の言葉を述べる機会を与えてくださった、学校と、運命の神さまに感謝です! ほんとうにほんとうに、ありが……とう……ございましたあ(˚ ˃̣̣̥⌓˂̣̣̥ ) 」

 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチパチ……!!

 全生徒と教職員と入り口のところに来ていたA新聞の人たちから感動の拍手が巻き起こる。

 そして、一年生の列には車いすの沢村千歳が複雑な顔で、それでも拍手している。

 フフフ

 我ながら、意味深な愉悦が沸き起こるのを押えられなかった。はた目にはサキュバスみたいな表情だったかもしれないけど、大丈夫、舞台袖から見ているのはわたし一人なんだから。

「罪なことをやったものね、瀬戸内美晴」

 ゲ!?

 声に振り返ると袖幕から半身を覗かせた松井須磨がジト目で立っていた。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口 織田信中 伊藤香里菜
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)  藤岡(養護教諭)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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