大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・127『MITAKA特別講演会』

2024-09-14 13:49:34 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
127『MITAKA特別講演会』   




 久しぶりのMITAKAを階段教室でやってる。


 先日の世界史の授業、ツクツクボウシが鳴きやんだことから吉村先生が脱線。

 兵隊時代の話をしてくれて、みんな印象深かったので急きょMITAKAで講演してもらうことになったのだ。

「いやあ、階段教室いうのは大学以来ですなあ。むろん、学生でそっち側で、前に立って話すのは初めてです」

 事前に「どんな話をしてもらえますか?」と真知子が聞いたんだけど「まあ、思いつくままに(^_^)」ということで、黒板には十円男が『戦争を知らない子どもたちへ』とタイトルを書いて、ロコがお花を描いて、それらしい雰囲気。

「ええとぉ……戦時中の空襲いうと原爆とか東京大空襲ですが、この宮之森や大浜市にも空襲がありましたが、当時は大阪におりましたんで、大阪大空襲の話をします」

 そう言うと、先生は、黒板にサラサラと大阪の地図を描いた。

「当時は大阪城に第四師団が置かれて、外堀の南には第八連隊がありました」

 サラサラと天守閣の南東に師団司令部。内堀と外堀を跨いで連隊本部を書き入れた。

「僕は気象班やったんで、司令部の建物に居りました。司令部は天守閣を再建するときに……当時は城の中は陸軍の用地で、天守閣を再建するときに交換条件で師団司令部を作ったんですねぇ……あ、これです」

 先生が示してくれたのは、三階建ての異世界アニメに出てきそうな西洋のお城風。

「あ、『ゴジラの逆襲』に出て来た……」

 高峰君が呟いた。

 ゴジラと言えば『シン ゴジラ』と『ゴジラ-1.0』しか知らないわたしには、アニメの2クール目みたいで新鮮な響きがある。

「そうそう『ゴジラ』の二作目ですなあ、大阪城でナンチャラいう怪獣と大暴れする奴。あれにも出てましたなあ。あそこはGHQが居らんようになって、一時は警視庁が置かれましてなあ……」

「え、大阪に警視庁があったんですか?」

 四組の男子が声を上げる。

「うん、すぐに大阪府警と改めるんですがね、あのころは自治体警察いいましてねぇ……あ、いまでも言うか。けど中身は全然違って、アメリカの警察と同じでした。大阪で犯罪が起きてパトカーで追いかけますなあ、県境を超えて京都とか兵庫に行かれると捕まえられません」

 ビックリする声と笑い声が起こる。

「『青い山脈』いう古い小説が、映画にもなってますが、吉永小百合、浜田光男なんかの青春映画の走りですな。主人公を寺沢新子いう女子高生なんですが、ラストでリンゴの密輸、終戦直後は自治体やら国の許可なしに食料を県外に移送することは違法やったんです。家のためやったか友だちの家のためやったか、新子はリンゴをトラック一杯に積んで値段の高い県外に輸送するんです。密輸の女親分ですなあ。新子は警察に見つかってパトカーに追われるんですが、県境を越えると追うてこんようになります」

 アハハハ

 笑いが起こって、わたしは『ラピュタ』でシータと空賊の女親分を思い出した。

「それで、警察の予算も自治体から出るもんやから、小さな町では警察官の給料も払えません。当然、自治体によって給料も違いますしねえ」

「なんか、アメリカの保安官みたいですねえ」

 久々に出て来た佳奈子が面白がる。

「元々、GHQの指導でできた警察ですからね、モデルはアメリカです。あ、そうそう、大阪の大空襲は5月13日やったんですが、月の初めに東京の大本営から参謀飾緒付けたエライさんが来て『五月に大空襲がある模様だから対策するように』て注意しよったんです」

「事前に分かってたんですか!? あ、すみません(;'∀')」

 たみ子が、ちょっと大きな声を出して、自分で謝る。

「そらぁ、日本の軍隊もアホやないから知ってます。重要書類やら燃料やら大事なものは避難させんとあきませんからね。兵隊は、来たるべき本土決戦のために、空襲で死なすわけにはいきませんからね」

 ええぇ……

「それで、第四師団のエライサンは『大阪府民に伝えるべき!』やと言うたんですが、大本営は『軍機に属することだから一般には伝えてはならん!』と言うんですなあ。その言い争う声が廊下まで聞こえてきましてなあ、外の車寄せから大本営が帰りよるまで殺気だってました」

 大本営の秘密主義にもビックリしたけど、大阪の第四師団も意外に府民の事を思っているのでビックリした。

「それで、第四師団はどうしたんですか?」

「いや、軍機ですからね、府民に言うわけにもいかず、防空についての指導やら教練に力を入れました。まあ、これで悟ってくれいう感じでしょうなあ」

「それで、大阪大空襲はどれほどの被害が出たんですか?」

「ううん……4000人ぐらい死者がでましたかねえ……」

 4000……という数字に二種類の反応。

 多いというのと、逆に少ないという反応。

「東京大空襲は七万人死んだと聞いてます、空襲の規模が違ったんですか?」

 10円男が数字を挙げて質問する。学園紛争やってる時に少しは勉強したのかもしれない。

「規模は同じくらいです。B29は300機前後来ましたし、爆弾やら焼夷弾は2000トンぐらい落としていきました。あ、それと東京大空襲の七万いうのはあくる日に警察が把握した数なんで、その後に分かった分を合わせたら10万はいくでしょうねえ」

 10万……広島や長崎より多いよ、たぶん……。

「まあ、ただの伍長でしたからね、細かいところはわかりませんが、そんなもんです。そうそう、僕は気象班でしたんで、毎日司令部の屋上で、風向きやら気温やら日照を調べて上の方に報告するんです。まあ、日に三回ほど、あとは大学で気象学やってた班長、大尉なんですが、この人を中心に喋ってばっかりですわ。まあ、ヒマやったんですなあ。終戦の前の年ぐらいまでですが、暑くなってくると『吉村さん、ビール買うてきてくれませんか』と頼まれる。班長は会社で言う管理職なんで、公用の外出許可を出せるんです。それで、公用の腕章つけて、堂々とビールを買いに行ったこともありました」

「戦時中にビールがあったんですか?」

「あるとこにはあります。まあ、大空襲のまえぐらいまでは」

 じっさい現場にいた人の話だから面白く、下校時間いっぱいまで先生のMITAKA特別講演は続いた。



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生 友だちにはグッチと呼ばれる
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女 時々姉の選(すぐり)になる
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 安倍晴天              陰陽師、安倍晴明の50代目
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  世界史:吉村先生  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹  
  • 妖・魔物              アキラ      
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 明智玉子(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)151・シカゴを離れる

2024-09-14 09:11:12 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
151・シカゴを離れる ミリー 



 お葬式まで居りたかったけど、前夜式の明くる朝にはシカゴを後にした。

 前夜式いうのは日本でいうお通夜。

 さすがに式を取り仕切ったのはクラークのお父さんやったけども、クラークも助祭として立派に役目を果たしてた。

 遺品の整理とかはお葬式が終わってからやねんけど、一足先に日本に帰るわたしのためにミチコさんは一つの写真をくれた。

「ああ、これ……!?」

 それは、生まれて間もないわたしを抱いて笑顔いっぱいのお婆ちゃんの写真。

「身内やご近所で赤ちゃんが生まれると抱っこさせてもらうのが楽しみだったのよ」

 フレームの下には、わたしの生まれた二日後の日付。

「病院から戻って来るのを待ち受けてね、家の前で撮ったのよ」

 お婆ちゃんとの写真は、家にもお婆ちゃんとこにもいっぱいあるけど、これを見るのは初めてや。

 
 その写真を膝に置いて飛行機に乗ってる。


 正面のモニターには遠ざかるシカゴの街、背景には子供のころから馴染んだミシガン湖が朝日を照り返して輝いてる。

 小学校のころ、お婆ちゃんは『キャンディーキャンディー』のコミックを貸してくれた。キャンディス・ホワイトいう孤児の女の子が成長していくビルドゥングスロマン。そのキャンディーがいた孤児院がミシガン湖の畔にあるという設定で、キャンディーと同じツィンテールにしてお婆ちゃんと湖の畔を歩いた。めちゃめちゃええストーリーやねんけど、日本に来て知ってる子ぉはおらへんかった。

「あ、オレ知ってるで!」

 啓介は、お母さんの愛読書やったいうのんで覚えとった。

「え、ほんま!? もっぺん読みたいわぁ、貸してもらわれへん!?」

「あ、ごめん、前のオカンのやから(^_^;)」

「え、あ、ごめん……」

 啓介の家庭事情を知った瞬間やった。

 もう、この街に戻ってくることは無い。

 うちの家も空港まで送ってくれた伯父さんもテキサスに引っ越してしまう。

 前夜式に来た人も何人かはシカゴを離れる予定やという。

 こんど戻ってくるときはテキサス。

 シカゴよりはうんと安全なんやろうけど、南部訛の母国語は大阪弁よりも遠い言葉や。

 ……もうこのまま日本に住み着こうか。

 惣堀を卒業したら留学ビザが切れてしまう。

「大学の留学も調べておくよ」

 車の中で伯父さんが言ってくれた。

 でも、大学へいっても最大四年や。

 いずれは日本で異邦人になってしまう。

 いっそ、日本に帰化する……言うほど簡単なことやない。

 なんか仕事を見つけて……わたしになにが出来んのやろかぁ?

 
――だれか、ええ人はおらんのんかいな――


 お婆ちゃんの言葉が蘇る。

――え、あ、それは……――

 あの時、頭に浮かんだのは啓介……あかんあかん、なんちゅう短絡!

 飛行機が水平飛行になって、そのまま寝てしもた。


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口 織田信中 伊藤香里菜
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
 
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