大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・245『ハナの皮膚を張り替える』

2024-09-03 15:10:47 | 小説4
・245

『ハナの皮膚を張り替える』 メグミ




「新造した方が早いんだけどねえ……」

「フフ、メグさん、三回目だぞ」

「あ……でもねえ」

 つい言ってしまう。

 胸の皮膚を張り替えてやりながら、つい口に出てしまう。

 ハナの義体は世代も型番も違う寄せ集めで出来ている。そのために、全身を同じ規格の表皮で覆うことができない。当然色合いも質感も異なり、見た目にはほとんどフランケンシュタインだ。
 
 西之島戦争では全損といっていいダメージを受けたハナだけど、コアブレインが無事だったので奇跡的に復元してやることができた。
 思えば、あの時に新造ボディーにしてやれば良かったんだけど、早く現場に戻りたがったし、正直ハナ一人に十分な時間や資材をかけてやる余裕も無かった。本人も全然平気にしていたしね。取りあえずは首から上と肩から先の見てくれだけを整えてやった。

「着替えの度にバイトの子が卒倒するようじゃなあ」

「あ、まあ、それもそうだけどな」

「とりあえずは、腕と胸から上だけはやっておこう」

「何分ぐらいかかる?」

「まあ、半日だね」

「半日もジッとしてんのかよ!?」

「辛抱しろ、いちおう外国に行くんだ人をビビらすことのないようにしとかなくちゃな」

「あ、ああ、分かったよ。でもさ、半日黙ってたら死んじまうからよ、なにか話してくれよ」

「そうだな、こんな機会もそうそう無いだろうしな」

 昨日の『KMミリタリー』を見てマイ(児玉元帥)さんが現地に行くと言い出した。

 青銅の騎士がひっかかったんだ。

 青銅の騎士はロシアが作ったロボット騎士。個体によっては人の脳を使っているという情報もあって、それを信じるならハナと同様、義体化が進んだ人間ということになるが、詳細は秘匿されているのでロボットにカテゴライズされている。

 製造にあたってはパルス動力の工作機械を騎士一機の製造に一台摺りつぶすほどに使われており、特に骨格と外殻は並のパルス特殊鋼の数倍の強さがあると言われ、運動性能と抗堪性(こうたんせい) は世界一だと言われている。
 それに、動力はパルス機関ではなくボディーに収められた超小型核融合炉なので、AP機の影響を受けないし、道義的責任を問われることもない。

 マイさんや王春華のスペックなら倒せないことも無いだろうが、重装甲の戦闘艦を撃破するくらいの手間と時間がかかる。まして、青銅の騎士は人の形と大きさ。数はそれほど多くは無いだろうが、連携してかかって来られたら攻撃できる時間も限られる。

 まあ、それもこれも含めて現物を見て、対策を考えようというのがマイさんの狙いなんだろう。

 阻止しなければならないのは、ロシア軍の漢明への侵入だ。侵入したとしても数個騎兵旅団でどうこうできるほど漢明は甘くない。せいぜい、数時間か数日か侵入した事実を残せるだけだ。
 しかし、ほんの数日でも居座られては漢明の威信が揺らぐ。威信が揺らげば、周辺国は漢明を侮り、国内的にも安定を欠くことになる。せっかくPIに成功して順調に内政を立て直しつつある劉宏政権の土台を揺るがすことになる。

 今の劉宏政権なら日本や西之島との平和的共存の道を探っていくに違いない。漢明が再び武断的政策をとるようになれば、漢明自身にも大きな損失、後退になるだろうし、世界の恒久的平和も絵に描いた餅になり果ててしまうだろう。

 地球が乱れれば月や火星も不安定化し、宇宙規模で言えばようやく緒に就いたばかりの太陽系の開拓、銀河宇宙への進出にも望ましくない影響が出るに違いない。

「なあ、一人で自分の世界に入られたら、退屈で仕方ねえんだけど」

「え、ああ、ごめんごめん(^_^;)。ハナはさ、将来の夢とかあるのか?」

「夢? 夢なら、もう叶ってるぞ」

「そうなのか?」

「うん、食うに困らなくってよ、なんでも言える仲間がいてよ、仕事もあってよ。食堂と神社と鉱山。一人で三つもこなせてよ、シゲジイもお岩さんも口は悪いけどよ、なんか、お袋と親父みたいでよ。メグさんは姉ちゃんみたいだし、バイトの連中は近所の手下って感じで。ハナ的には言うことねえ」

「そうか、そうなんだ」

「ああ、そうさ。だからよ、この島守ることなら、なんだってしてやる」

「それは心強いな」

「おお、任せとけ」

「でもさ、ハナはまだまだ若いじゃないか」

「お、おう。永遠の十七歳ってやつだ」

「ハハ、なんか似合わねえ」

「うっせー!」

「お姉ちゃんだからな」

「くそ、余計なこと言っちまった(;'∀')」

「旅行したいとか思わないのか?」

「え、ああ……」

「どうしたぁ?」

「西之島以外じゃ、その……いいこと無かったしな」

「ハナが見た世界なんて、ほんのハナクソみたいなもんだぞ」

「あはは、ハナクソかぁ……うん、クソにはちげえねえよ」

「いつか世界が平和になったら、お姉ちゃんと世界旅行に行こう!」

「世界旅行? メグさんとかあ?」

「いやか?」

「あ……それもいいけど、島のみんなで行くのもいいなあ」

「団体旅行かぁ……」

「それと……」

「それと?」

「え、あ……なんでもねえ」

 それから、ずっとあれこれ脈絡もなくお喋りして、最後に皮膚の定着をし終わった時、この妹分は静かに寝息を立てていた。


 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵             天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任 じつは山野勘十郎 月で死亡
  • 扶桑 道隆              扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)     将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)          地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)           児玉元帥の友人 乳母の老婆婆の小鈴に頭が上がらない JR東と西のオーナー 
  • テムジン              モンゴル草原の英雄、孫大人の古い友人      
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)          西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)          西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)           西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)    今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書 JR西のボディー 劉宏にPI
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
  • 朱 元尚 大佐           ホトケノザ採掘基地の責任者 胡盛徳大佐の部下だった
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

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REオフステージ(惣堀高校演劇部)140・九回の裏!

2024-09-03 07:26:54 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
140・九回の裏! 小山内啓介 




 日曜日のグラウンド。

 迷走台風が有りったけの雨を降らせたあとは、どこにしまい込んでたんやと思うくらいの真っ青な青空が広がって、上空にはなにかの取材のためにヘリコプターがのんびりと飛んでいる。その秋空の下、空堀と京橋二校の練習試合が行われている。


 そして……八回の裏になろうと言うのに双方一点も得点が無い。


 甲子園やったら――実力伯仲! 双方攻守ともに優れたプレーが続く! 互いに得点を許しません!――てな感じで朝日放送の実況が入って、選手も応援団も熱が入るんやろうけど、この試合はあかん。

 書くことも憚られる凡ミスばっかりで、互いにランナーを出して得点につなげることがでけへん。

 力んでないと言えば多少マシなんかもしれへんけど、とにかく覇気が無い。

「よぉし」とか「おお」とか「かっとばせえ」とか「どんまい」とかの掛け声が散発的に起こるんやけど続かへん。

「くわっとばせえ!」

 カン

 五回の裏で三塁打をかました俺が叫んで、なんとかヒット。

 バッターは一塁ベースを踏むんやけど、どうせ得点には結びつかへんいう気持ちがアリアリと出てて、川島さんが手をメガホンにして「よし!」とガッツポーズしても――まあまあ――ちゅう感じで手を挙げよるだけ。

 次のバッターは易々と三振に取られて――残念!――という感じと違って――やっぱりなあ――になる。

「くっそお!」

 そんな中で、田淵一人が熱い。

 さすがはエース……と思うんやけど、頭だけカッカして、余計にミスが増えるばっかし。

 マネージャーの川島さんはスコアをつけるほかは、さっき「かっとばせえ!」と檄を飛ばした以外は学食で会った時と同じ笑顔で座ってる。

 しかし、腹の中は煮えくり返ってるのが、ついさっき分かった。

 田淵がツーアウト一二塁、ひょっとしたらという局面であっさり三振に終わった時。

 ボキッ!!

 笑顔のまま、鉛筆を握りつぶしてしもた(^_^;)

 え? 鉛筆の折れを握った手ぇから血が滴り落ちてる……。

――ごめんね、小山内君――

 口の形だけで謝る川島さん。

 俺を代打に使ってたらという思いやねんやろなあ。笑顔を返すんやけど、ちょっと引きつってたかもしれへん。

 ちなみに、惣堀に監督は居てない。

 顧問兼監督が春に転勤して以来、顧問は茶道部の女先生。実質的に野球部を引っ張ってるんは川島さんと田淵や。

 ネット脇には演劇部の三人が見に来てくれてる。

 積極的に知らせたわけやないけど、食堂でのイザコザはけっこう話題になって三人の知るとこになってしもたんや。

 ビジュアル的には三人とも目立つ。

 須磨先輩は六回目の三年生で、もう大人の魅力。千歳は車いすにチンマリと収まって可愛らしく、ミリーは掛け値なしの金髪碧眼の美少女。

 三人を見慣れた惣堀の生徒はともかく、京橋の生徒はアニメの中から出てきたヒロインみたく眩しい三人に半分以上は気持ちを取られてる。京橋もあんまり試合に熱は無い。

 三人は野球部の応援のために来てるのではない。

 グータラ部長の俺が昔取った杵柄っちゅうか、川島マネージャーの色香に迷って中学以来のバッターボックスに立ついうので、ただただ珍しいもの見たさで来てる。

 せやから、俺がバッターボックスに立つ以外には興味がないんやと思う。

 この三人がキャーキャー言うてくれたら、京橋の連中、気をとられて隙ができるかも。

 言うてるうちに九回の裏。気持ちが抜けた惣堀は九回の表で京橋に二点を許した。

 そして九回の裏、惣堀は再びツーアウトランナー一二塁。

 と、川島さんの手が上がった。

「バッター交代、小山内君!」

 ゲ、ここでか!?

「小山内君、お願い、ホームラン打って!」

 バッター交代を宣言した足で俺の前に立って手を合わせた。

 小山内ガンバレエエエエエエエ!

 演劇部の三人娘も黄色い声をあげて敵味方の注目を集める。

 ち、気楽に言ってくれるぜえ!

 俺は、バットを二回スィングさせて、闘志をフルチャージ!

 バッターボックスに向かうと、絶好のシャッターチャンスと思ったのか、上空で取材中のヘリコプターの爆音が大きくなってきた。

 バラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラバラ!!

 え、ちょっと近過ぎひんか?


 え? え!? 


 グラウンドに居る者みんながビックリしていると、すごいボリュームで校内放送が流れた。

『ヘリコプターが緊急着陸します! 緊急着陸します! グラウンドに居る人は、ただちに校舎内に避難、ただちに避難! 避難してくださいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい(>▢<)!!』

 俺は、バットを持ったまま呆然とする。

 二秒ほど間があって、京橋も空堀も、一目散に校舎に駆けだす。

 俺も逃げよう……と思ったら、演劇部の三人に目がとまった。


 え!?


 千歳の車いすがトラブって、三人とも身動きが取れなくなってるやないか!

 俺は、バットを振り捨てて、三人の所へ駆けだした!


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  
  • 沢村留美        千歳の姉
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生 甲府の旧家にルーツがある
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • シンディ―       サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉美乃梨(須磨の元同級生) 大久保(生指部長)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)

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