大橋むつおのブログ

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巷説志忠屋繁盛記・10『写真集を出窓に』

2020-01-18 06:42:15 | 志忠屋繁盛記
巷説志忠屋繁盛記・10
『写真集を出窓に』    
 
 
 
 面白いことはみんなで楽しもう!
 
 トモちゃんのモットーだ。
 お客さんにも楽しんでもらおうと、写真集を志忠屋の出窓にオキッパにした。   
「こんなとこ置いたら陽に焼けるで……」
 大の読書家であるタキさんは山賊の親玉みたいな顔をしているが、本の扱いは女学生のように丁寧で優しい。
 去年、南森町の交番にゴブラン織りのブックカバーが付いた新刊本が落とし物として届けられた。
 ゴブラン織りは花柄にムーミンのキャラが散りばめてあり、新刊本は少女漫画の表紙や挿絵の豪華本であった。
「これは、三十代くらいの女性の落とし物やなあ」
 交番の大滝巡査部長は頷いた。
「自分は女学生……ひょっとしたら女子高生だと思量します」
 秋元巡査は真面目な顔で異を唱える。
「こんなに豪華な本ではありませんが、妹が同じようなものを持っておりました。それに……クンカクンカ……そこはかとなく良い匂いがいたします」
 数時間後、青い顔をして「本の落とし物……」とやってきたのがタキさんであった。
「え、マスターの落とし物でしたんか!?」
「え、クンカクンカしてしまった……」
 タキさんは、表紙に指紋が付くのを嫌って、あらかじめ文具売り場で見つけた特製ブックカバーを購入直後に付けたのだ。
 南森町の改札を出たところで、常連客のモデルの女の子たちに出くわした。一人の女の子タキさんの本に目を留めて「かっわいいーー、ちょっと見せてもらえます?」
 改札を出たところで十分ほど愉快に立ち話、そこへ列車がやって来たので慌てて別れた。
 別れ間際の数秒間でも山賊ギャグをかまし、メアドを交換したり……しているうちに、定期券売り場のライティングテーブルの上に置かれた豪華本を置き忘れてしまった。
「ほんなら、この香りは……?」
「モデルの子ぉが読んでたからなあ」
「あ、そ、そでありますか」
 
 タキさんはアイドルタイムの間、伝票整理も忘れて写真本に見入った。
 八尾・柏原の昭和を記録した写真ばかりである、八尾のネイティブとしては懐かしいに違いない。
 そんなマスターを微笑ましく見ていたKチーフだが、ぽつり零したタキさんの一言にむせ返った。
 
「どこも殺し合いしたとこばっかりやなあ……」
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