RE・かの世界この世界
上昇気流に乗って尾根を越え、勢いのまま雲を突き抜けるとシリンダーの群れが居た。
ポチはシリンダーの幼生であるけど、ごく小さいころからロキたちヴァィゼンハオスの子たちと暮らしてきたので、大人のシリンダーを見ても親近感などは湧かない。
ヤ、ヤバイところに出てきてしまった!
とっさに思ったのは、このままUターンして尾根一つ戻ったところを上って来る四号に戻ることだ。
しかし、軽い体を思いっきり強い上昇気流に吹き上げられているので容易には速度が落ちない。
プニョ~ン プニョ~ン
大人のシリンダーに二度ばかりぶつかって、やっと群れのど真ん中で停まった。
「おや、お母さんとはぐれてしまったのか?」
「保育所のお散歩の途中かい?」
「ここらじゃ見ない顔だね」
人間とは違う言葉で話しかけられるが意味は分かる。どうやらポチを迷子かなんかと思っているようだ。
人間の話を聞いたり、戦闘中なのを遠くからしか見たことがないのだけど、同じシリンダーなので分かってしまう。
「え……えと……えと……(;゚Д゚)」
初めて間近に出会ったシリンダー、それも、何千何万もうじゃうじゃと囲まれて、とっさに言葉も出てこない。
それに、尾根の向こうからは四号戦車のみんながやってくる。
このままでは、こいつらに出くわしてしまう。みんなに知らせてやらなきゃ!
そう思うと、ポチはクルンと方向転換して眼下の雲海にダイブした。
早く知らせなきゃ!
がむしゃらに雲海を突き抜けていると、弾力のある雲にぶつかってしまった。
プニョ~~~~~~~~ン!
弾き飛ばされながら横目で見ると、それは、雲に擬態したシリンダーの融合体だ!
さっきの群れにも驚いたが、融合体からは猛烈な邪悪な思念が放射されていて、さっきの百倍も恐ろしい!
ヒヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!
人間の女の子のような悲鳴を上げて一気に十キロほども逃げてしまった。
―― フレアがフレイの背中にブリ虫を入れて、びっくりしたフレイがヴァィゼンハオス中に響き渡る悲鳴を上げた時のようだなあ ――
逃げながらも、そんな呑気なことを思うポチだ。
―― 女の子にイタズラされて、女の子みたいな悲鳴をあげるんじゃないわよ ――
フリッグ先生に呆れられていたっけ……いけない、そろそろ止まらなきゃとんでもないところまで行ってしまう!
ポチは、ボールのようにまんまるい体なので空気抵抗がない。
意に反して勢いの付いた体は、なかなか止まらない。
ヤバイ!
こんな時、ロキたちはどうしていたっけ?
ムヘン川の土手を滑り降りて、そのままの勢いだと川に飛び込んでしまいそう……そうだ!
子どもたちは、土手の草に手を伸ばして、草をむしってブレーキにしていたっけ!
そう思うと、まん丸の体から可愛らしい突起が伸びてくる。
突起は四本が二センチくらいで、一本が一センチほど。
ああ、土手を滑り降りるフレイアのイメージだ。
フレイもロキもいっしょだったのに、なんで女の子のフレイアのイメージなんだろう?
あ、フレイアが一番運動神経発達してたもんな!
ザザザザーーーー
ポチは、フレイアのイメージで足元を流れていく草や木の葉っぱに突起を触れさせてブレーキをかけていった。
☆ ステータス
HP:6000 MP:3000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
持ち物:ポーション・50 マップ:5 金の針:0 所持金:800ギル(リポ払い残高35000ギル)
装備:剣士の装備レベル20(トールソード) 弓兵の装備レベル20(トールボウ)
憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
ケイト(小山内健人) 小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
タングリス トール元帥の副官 ブリの世話係
タングニョースト トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属
ロキ ヴァイゼンハオスの孤児
ポチ ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体
―― この世界 ――
二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長