大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・里奈の物語・49『美姫は元気に……』

2019-08-08 06:21:13 | 小説5
里奈の物語・49
『美姫は元気に……』 


 制服のままやってきた美姫からは日向臭い匂いがした。

「考えごとしてたら、駅通り越してしもて、勢いでここまで歩いてしもた」
 学校からアンティーク葛城まで、スタスタと美姫は歩いてきたんだ。だから染み込んだ日光も発散した十七歳女のフェロモンも、いつもの数倍で、同性のあたしでもタジロイデしまう。いや、あたしが、長期の引きこもりで、そういう外の気配に過敏になっているのかもしれない。
「それって、昨日の野暮用の続きなんでしょ?」
「うん、分かる?」
「眉間の皴が深すぎるもん」
「え、ほんま!?」
 美姫は体を捻って、机の上の鏡に顔を写し、両手で顔をゴシゴシこする。
「で、なにがあったのよさ?」
「まずは、皴を伸ばしてから!」
「ごもっとも」
 十七歳の皴なんて、気持ちを切り替えれば一瞬で消える。美姫は顔をこすりながら気持ちを切り替えているんだ。あたしはお茶を入れにいく。

「演劇部の再建話を潰してきた」

 お茶請けの海老センをボリッと齧って、美姫は切り出した。
「演劇部って、とっくに潰れてたんじゃないの?」
「それが、またぞろね……顧問が張りきってしもて……パソコン触ってもええ?」
「え、あ、うん」
 美姫は慣れた手つきで、桃子のキーボードを叩いた。K高校演劇部のページが出てきた。
「おー、ホームページとかあるんだ」
「すごい演劇部に見えるでしょ?」
「うん……ちゃんと更新してるじゃない」
「この二か月は活動してへんねんよ」
「……あ、ほかの学校のことばっかり」
「だって、活動してないんやもん。今度もね、他のクラブと兼業してるもんばっかりで……おついでみたいにやって、失敗してきてんのにね。その反省も無くおんなじやり方……顧問の見栄や」

 スクロールしていた美姫の指が停まった。

「え……演劇部飛躍の誓い?」

 今日付けの更新で「演劇部をさらに発展させようと、部員一同で誓い合いました!」と、十枚ほどの写真付きで出ている。写真はどれも二十人以上の生徒が写っている。
「これ……演劇部に関係ない生徒ばっかや」
「なになに……あ、アハハ、なるほど」
 笑ってしまった。写真の下には『演劇部を応援してくれる皆さん!』と小さく書いてある。

「……ありがと。あたしブロックされてて、このページ見られへんのよね」

「せやからね……」
 あとの言葉を飲み込み、小さくため息をついて、美姫はK高演劇部のページを閉じた。美姫からは、もう日向の匂いはしなくなっていた。
「さ、たこ焼き食べに行こうよ。今日はおごるからさ!」
「やったー! 持つべきものは里奈さまやなあ!」

 美姫は元気に胸を張って……天井を向いたまま言った。

 顔を下げたらこぼれるんだ……涙が。
 
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 高校ライトノベル・須之内写... | トップ | 高校ライトノベル・高安女子... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

小説5」カテゴリの最新記事