ポナの季節・51
『ヘブンリーアーティストの審査会だ!』
ポナ:みそっかすの英訳 (Person Of No Account )の頭文字をとって新子が自分で付けたあだ名
安祐美のボーカルは圧巻だった!
ヘブンリーアーティストの審査は来週の予定だったが、希望者が多く、前倒しで前半組をやることになった。その前半組に入ったので、この一週間余りの安祐美のレッスンは、幽霊とは思えない熱の入り方だった。それでポナもみなみも授業中に居眠りをして恥をかくハメになってしまった。
むろん曲はプリプリのダイアモンズ。ドラム、ギター、ベース、キーボードのアンサンブルもパンチも申し分なかった。審査員の中にもプリプリ世代は多く、あまりの完成度の高さに涙する者さえいた。
前半組の音楽部門だけで四十組が出たが、審査員は審査員室に缶詰めになって当落を審議し、二十五組を合格とした。
「半分以上合格するんなら、ここまでやらなくてもいけたんじゃない?」
ファミレスでやった祝勝会で、みなみが言った。真面目なみなみは、昨日の授業中の居眠りが悔しかった。
「合格は、とっくの昔に確信してたけどね、やるからには、いつも全力投球で悔いのないものやりたいからさ」
もうどこから見ても生きている人間にしか見えない安祐美が言う。
「うん、なんつうか。やり抜いたって達成感はいいよね」
二杯目のラーメンを食べながら、ポナが賛成と感動をいっしょに伝えた。
ファミレスというのは、メニューが多様で、本格的なコ-スものから、ランチやラーメンまであるのがいい。ポナのララランチは、ここにきてもスタイルが変わらない。ただ、ラーメンがもう一杯多いというところに、ポナの感動が現れていた。もっともラーメン二杯目は半額のクーポン券があったおかげではあるが。
「ライセンスもらえたんだからさ、まだ日も高いし、デビューとかやってみる?」
由紀が嬉しそうに言うと、奈菜ものってきたが、意外なことに安祐美が待ったをかけた。
「デビューは大事だからさ、もっときちんとやりたいの」
そう言えば、今日は審査だけだったので、楽器や機材以外はおざなりだった。服装はてんでバラバラで、ポナなんかは学校のジャージ姿だった。
「そう言えば、そうだね……」
「でも、コスって高くつくよ」
「ねえ、ネットオークションとかで、安いの手に入るかも。お父さんなんかヤフオクバリバリだし」
ポナは略して言ったが、要はお母さんの命令で要らないものを出品し、家庭園芸などお母さんが必要なものを買っている。でも娘のポナから見ればやりすぎで、こないだなんか、チイネエが着ていて、みなみにも貸し出した乃木坂の制服までオークションに出していた。もっとも売り上げはチイネエの臨時収入にはなったのだが。
「じゃ、それはポナに任せるとして、問題はユニット名」
「リトプリじゃいけないの?」
五人は、審査に出るにあたって、リトルプリプリを縮めてリトプリで出ていた。みんなは気に入っていたが、安祐美はこだわりがあるようだった。
「よし、それじゃ、ユニット名は安祐美におまかせ!」
あと、機材の保管場所や、定期的な練習場所の確保について話し合って解散した。今日の審査でお互いの距離がうんと近くなったので、みなみの家で二次会をやろうと、「遅くなるから」と連絡したみなみのお母さんから逆提案された。
「悪い、あたし疲れちゃったから」
安祐美が遠慮した。横にいたポナが見ると、指先が少し透けはじめていた。
――実体化してているのにも限界があるんだ――
そう気づいたポナだったが、みんなには言わなかった。
ポナの周辺の人たち
父 寺沢達孝(59歳) 定年間近の高校教師
母 寺沢豊子(49歳) 父の元教え子。五人の子どもを、しっかり育てた、しっかり母さん
長男 寺沢達幸(30歳) 海上自衛隊 一等海尉
次男 寺沢孝史(28歳) 元警察官、今は胡散臭い商社員だったが、乃木坂の講師になる。
長女 寺沢優奈(26歳) 横浜中央署の女性警官
次女 寺沢優里(19歳) 城南大学社会学部二年生。身長・3サイズがポナといっしょ
三女 寺沢新子(15歳) 世田谷女学院一年生。一人歳の離れたミソッカス。自称ポナ(Person Of No Account )
ポチ 寺沢家の飼い犬、ポナと同い年。死んでペンダントになった。
高畑みなみ ポナの小学校からの親友(乃木坂学院高校)
支倉奈菜 ポナが世田谷女学院に入ってからの友だち。良くも悪くも一人っ子
橋本由紀 ポナのクラスメート、元気な生徒会副会長
浜崎安祐美 世田谷女学院に住み着いている幽霊
吉岡先生 美術の常勤講師、演劇部をしたくて仕方がない。
佐伯美智 父の演劇部の部長
蟹江大輔 ポナを好きな修学院高校の生徒