高校ライトノベル・時空戦艦カワチ・013
『兵員食堂の八宝菜ランチ』

サクラとテルミはしげしげとランチを見つめている。
時空戦艦カワチは海自や旧海軍同様に八時間ずつの三直制だ。
深夜から午前の三直を終え、二直で自由時間のテルミと兵員食堂にやってきたサクラだ。
昨日からレプリケーターが休止になり、烹炊所で作られるアナログ飯に切り替わったのだ。
新任の航海長が烹炊長を兼務し、補給科の乗員を使って日に五食の艦内食を作っている。
「すごいわよ、きくらげの厚みが微妙に違う」
「うん、ご飯粒が最大で15粒も違いがある」
「なると巻きの斜め切りも最大1・5度の違いを付けてある」
「なんか、ワクワクするわね」
300名の乗員はガイノイドであるが、皮膚や脂肪層は生体組織でできており、人間同様に食事で栄養補給しなければ衰えてしまう。
勤務に合わせて日に五回の食事が出されるが、レプリケーターが合成したもので、同じメニューであればコピ-した写真のように同じであった。
だから、同じ八宝菜ランチでも一つ一つ異なっている。
「ん、これなんだろ?」
しゃくったレンゲの中に柔らかいグミのようなのが入っていた。
「……半溶状態の片栗粉の固まり」
サクラが成分分析すると、テルミは感動してしまった。
「……すごい、食感と味加減が違って、なんだか得した気分になる!」
「豚肉の脂が多いとこって濃厚な旨味ねえ!」
一口、一すくいずつ感動する二人である。
いや、食堂のあちこちで感動やら感嘆の小声が上がっている。
「さっさと食べなさいよ! 冷めてから食べたら不味くなるでしょーが!」
田中航海長が烹炊長の前掛けをして怒った。
「でも、航海長、出てくる糧食がみんな微妙に違うので、とっても新鮮なんです!」
「夕べのすき焼き定食も並列化の意味がないくらい違いがあって、とても興味深いです!」
「それが食事というものさ。三百人いたら、三百通りの味わいがあっていいものよ。単なるエネルギー補給じゃないからね」
「長い航海、変化がなくちゃ続かないよ……あんたたち、微妙に顔が違うね」
乗員のガイノイドたちは同一のロットなので、スペックも外見もみんな同じなのだ。
「艦長付き従員になったので、ヘッドだけ換装したんです。生身の艦長のお世話のため個性化です」
「千早副長の指示ね」
「はい」
「これから、他の乗員もゆっくり個性が出てくるわよ。糧食も同じように作って微妙に違うようにね、一昨日まで居た学食じゃ違いが出ないように苦労したけどね、カレーなんか肉は別にのっけて数を合わせたりね。でも肉も一個一個違うから、高校生らしく小さいとか固いとかの不満が出てたけどね」
「まだ、地球の周回軌道からは出ないんですね」
「あ、うん。おかげで航海科はほっといて烹炊に専念できるからありがたいけどね」
航海長はモニターに映る地球を見ながら腕組みをした。
男っぽい姿勢だけど、これが航海長のリラックスした時の姿勢だとサクラは思う。
二重顎で、バストウェストヒップの差が5センチもないオバサン体形だけど、アナライズすると若いころはとてもキュートな女性だったと知れたテルミ。
――その情報は並列化しないほうがいいわよ――
サクラから思念が届く。
――オッケー、了解――
あ、わたしたちって並列化をオフにできるんだ。
八宝菜とは別の感動をしたテルミであった……。