福井さんは、上野の美校の出身であります。以前、あの学校では奇妙な趣向を持った生徒がいました。福井さんもその一人で、初めは彫金科で、後には油絵を描いておりました。いつかその説明をきいたのですが、忘れていました。現在は、風景、婦人像ともしっとりとした美しい色彩で、誉高い名作が多いことになっていますが、絵の組立てとしては、強い写型にささえられているのを世の人は忘れがちであります。
彫金科で得た、堅いものを対手とする、いのりこむような腕力と、それを動かす眼力、心の型を造るまわり道がよい作用をしているらしく思います。あの学校では、遠いまわり道が最後に役立っているような、偉い人が先輩にもいるのです。
福井さんは忘れたころ、彼の親友と必ず二人で現れる。私のことを居酒屋と思っているらしいのです。また、お酒が入ると、その人と二人だけで議論する。だんだん美学、哲学のようなことで大見得を切口上でやり合う。先日も理論よりからだで技術だなどと大威張りしましたーーどうも、裸女に花に雪景色、芸者に舞妓と、やわらかな美しいものばかり描くので、詩とか人生とか哲学とか、むずかしいのが頭にこもるのかもしれません。
ずっと以前に福井さんの画のことを書けと注文されたことがあった。あの仕事は見かけは美の陶酔から来ていると見えそうだが、解剖してゆくと、たてとよこと奥の奥があって分かるように、文にすると理屈っぽくなり、とてもエカキの手に負えるようなものではないのであやまってしまったことがある
この朝井の福井評が、福井芸術の全てだと心から思えます。
今日は名古屋も本当に雪が降りました。
朝まだ暗いうちに窓から見えた雪景色が、この3週間に得た福井への知識を全て捨てさせてくれ、朝井の言葉と同じように
一挙に福井の作品への共感を深めてくれました。
今日は前をお通りの男性の皆さんが沢山作品をご覧くださいました。
とりあえずの会期を終えさせていただきますが、福井の作品は今月いっぱいはいつでもご覧いただくことができます。
やっと十号の雪景色が見えてきました。
この作品達に相応しい空間、佐橋美術店となりますよう来週からも精進して参りたく存じます。
皆さまどうぞ暖かくお過ごしください。