私たちの展覧会のお知らせも大切ですが、もっと早く奥村土牛展のお知らせをすべきだったと反省をしています。
土牛を思うとき、私は日野原重明さんの言葉を思い出します。
自伝というのは、功なり名を遂げた人ほど、隠しても自賛の気配が行間からにじみ出るもので、とくに政治家や実業家にはその横溢の量が多いようだ。
本書の執筆のため、数十名の自伝を読んだが、堂々とみずからを誇るものや、多分に遠慮がちではあっても、やはり自恃を強くあらわした筆致が見られる。
奥村土牛の「牛のあゆみ」を読んで、しんそこ感動した。
静かに丁寧に細やかに書いてゆく文章が語る誠実さ、師や同僚を描く慎ましい筆使い。
自分の経歴への控えめで正確な記述。実に清爽な読後感を味わってつづけて読み返したほどである。
「無難なことをやっていては、明日という日は訪れてこない」
この土牛の言葉も他人にいうのではない。みづからを励ますためにつぶやいている。
昭和29年のことばだから、土牛65歳である。
「描きたいと思った対象なら人物、風景、動物、花鳥、なんでも失敗をおそれずぶつかっていきたい」と芸術院会員になっていた画伯はいう。
山種美術館の土牛展の会場ですれ違ったご婦人が、ご一緒のお友だちに
「本当に心が洗われるような作品ばかりで感動したわ」とおっしゃっていました。
私も心の底からそのように感じ、また土牛の作品の素晴らしさは上の日野原さんの言葉そのものだと思っています。
日本画家の作品レベルは60代から上がり、70歳前後でピークとなるように今まで感じてきましたが、
土牛の作品は70代~80代でもまだまだ素晴らしい、豊かに優しく「私」を許し、受け入れてくれる。
そんな印象を持ちました。(下の醍醐も土牛83歳の作品です)
土牛展は今月22日までです。是非皆さまお出かけくださいませ。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます