愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題339 飛蓬-192  冬3首-1 鎌倉右大臣 源実朝

2023-06-15 15:47:40 | 漢詩を読む

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秋が去り、冬の訪れである。この時代、季節の移り変わりを実感するのは、まず目にする景色の変化でしょうか。一面に錦模様の彩をなしていた山々で、木の葉が散り、寂しげな景に変貌していきます。

 

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  詞書] 十月(カミナヅキ)一日(ツイタチ)よめる 

秋はいぬ 風に木の葉は 散りはてて

  山さびしかる 冬は来にけり (金槐集 冬・275;続古今集 545)   

 (大意) 秋は去ってしまった。風に木の葉は散り尽くし、山が寂しい様子を

  表す冬がやって来たのだ。  

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<漢詩> 

  孟冬情味   孟冬の情味     [上平声四支韻]

過秋草木衰, 秋は過(サ)りて 草木 衰え,

風刮落葉枝。 風 刮(フイ)て 葉落とす枝。

千里山清寂, 千里 山清寂(セイジャク)にして,

顕然迎冷时。 顕然(ケンゼン)たり 冷時に入る。

 註] ○情味:情緒、興趣; 〇清寂:ひんやりとして静寂な様子; 〇顕

  然:明らかに、はっきりと。  

<現代語訳> 

 初冬の情緒 

秋の季節が遷り替わり 草木が萎れてきた、

風が吹いて 葉を落とした枝。

千里四方 山はひんやりとして寂しい様子である、

明らかに冬の寒い季節となっているのだ。

<簡体字およびピンイン> 

 孟冬情味   Mèng dōng qíng wèi 

过秋草木衰, Guò qiū cǎomù shuāi,    

风刮落叶枝。 fēng guā luò yè zhī.  

千里山清寂, Qiān lǐ shān qīngjì, 

显然迎冷时。 xiǎnrán yíng lěng shí

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実朝の歌は、曾祢好忠(ソネノヨシタダ)(後注)の次の歌を参考にした本歌取りの歌とされています。この歌で詠われているように、冬の訪れとともに木の葉が散りはてるばかりでなく、生き物の活動も衰え、虫の鳴く音も弱っていくよ と。

 

人はこず 風に木の葉は 散りはてゝ 

  夜な夜な虫は 声よわるなり (曾祢好忠 新古今集 秋・535)  

 (大意) 待ち人の訪れはなく 木の葉は風に散りはてゝ 夜ごとに虫の鳴く音も

  弱まっていく。  

 

[注] 曾祢好忠は、生没年不詳で、平安中期、第65代花山帝(在位984~986)の頃の歌人で、中古三十六歌仙の一人である。また百人一首(46番)歌人でもある(閑話休題-182、および『こころの詩(ウタ) 漢詩で詠む百人一首』)。

 

曾祢好忠の歌風は、自由奔放、題材・用語・表現すべてにわたって自由清新な革新歌人で、藤原俊成ほか、後世に大きな影響を与えた歌人として評価されている。“百人一首”の原型“百首歌”の創始者とされている。

 

zzzzzzzzzzzzz -2 

 

彦星と織姫が天の川の両岸に佇んで逢うのに難渋しているところに、鵲(カササギ)が羽を広げて繋がり橋を作ってやり、両者目出度く逢瀬を果すことができたという 鵲橋のお話である。通常、これは陰暦7月7日の夜‐七夕の出来事とされる。

 

澄み渡った冬空に、月が冴え冴えとしているのは、鵲橋に降りた霜に起因するのであろう と。

 

oooooooooo   

  [詞書] 月影霜に似たりといふことを 

月影の 白きをみれば 鵲の 

  わたせる橋に 霜やおきけむ   (金槐集 冬・290) 

 (大意) 月が白くさえているのは あの天上に鵲が渡した橋に霜を置いてい

  るからであろう。  

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<漢詩> 

 冬天銀漢    冬天の銀漢    [下平声七陽韻]  

煌煌冬銀漢   煌煌(コウコウ)たり冬の銀漢(ギンカン)、 

奕奕鵲成梁。 奕奕(エキエキ)たる鵲(カササギ) 梁(ハシ)を成(ナ)す。 

月影一明浄, 月影 一(イツ)に明浄(メイジョウ)たり, 

是因橋上霜。 是(コ)れ橋上の霜に因るならん。 

 註] ○煌煌:光り輝くさま; 〇銀漢:銀河; 〇奕奕:非常に美しいさま; 

  〇梁:橋; 〇明浄:澄み切って、明るくきれいである。  

<現代語訳> 

 冬空の銀河 

天上に光り輝いている冬銀河、 

美しい鵲が羽を広げて橋をなす。

月光はなんと冴えわたっていることか、 

それは鵲橋に置いた霜のせいなのであるよ。

<簡体字およびピンイン> 

 冬天银汉     Dōng tiān yínhàn  

煌煌冬银汉, Huáng huáng dōng yínhàn,  

奕奕鹊成梁。 yì yì què chéng liáng

月影一明净, Yuè yǐng yī míngjìng,  

是因桥上霜。 shì yīn qiáo shàng shuāng.  

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実朝の歌は、次の2首の本歌取りの歌であるとされている。

 

秋の霜 白きをみれば かささぎの 

  渡せる橋に 月のさやける 

     (後鳥羽院御集、建仁元年十一月俊成九十賀御屏風歌)

 (大意) 鵲橋に降りた霜の白い所を見るに、その白さゆえに月が冴え冴えと

  して明るいのであろう。  

 註] 〇さやける:光が冴えて明るい。

 

実朝の歌は、「月が冴え冴えとしているのは、鵲橋においた霜が原因」ということを、後鳥羽院と 言い方を変えた歌のようである。但し、前者は“冬空”であり、後者は“秋空”である点 詠んだ時は異なるが、本質的な問題ではないと思える。

 

鵲の 渡せる橋に おく霜の 

  白きを見れば 夜ぞふけにける  

 (大意) (鵲橋伝説を想像しながら) 目の前にある玉階に霜が降りて、星明かり 

  に映えている、その白さを見ると すっかり夜が更けているのだ。 

 

家持(718?~785)は、『万葉集』の編纂に関わったとされる“万葉歌人”である。しかし百人一首として撰されたこの歌は、『万葉集』には入っていないことから、家持作には疑問符がついているようである。

 

zzzzzzzzzzzzz -3 

 

実朝は、千鳥の歌を多く作っており、冬の海で鳴く千鳥がよく詠われている。千鳥は、万葉の頃から人々に親しまれ、歌に詠まれてきている。多数群れをなしており、海辺や川辺で小動物を捕食している。日本で繁殖する種類もあるが、多くは渡り鳥である と。

 

冬に日本にいる種は少ないが、俳句では千鳥は冬の季語であり、また和歌でも冬の情景でよく詠われる。掲歌では、寒空の下、妹が島・形見の浦で千鳥の鳴く情景を淡々と詠っています。この歌は、純な叙景歌のようで、この情景に対する作者の想いは語られていない。

 

oooooooooo   

  詞書] 寒夜の千鳥

風寒み 夜の更けゆけば 妹が島 

  形見の浦に 千鳥なくなり  (金槐集 冬・298; 新勅撰集 冬・408)

   (大意) 風が寒くなって夜が更けて来ると ここ妹が島の形見の浦に千鳥の鳴

  く声が霧に響くことだ。  

  註] 〇風寒み:風寒くして; 〇妹が島・形見の浦:紀伊の国にある。万

   葉集巻七に所出の地名。 

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<漢詩> 

  寒夜鴴        寒夜の鴴(チドリ)    [上平声十四寒韻]

風寒天一端, 風寒し 天の一端,

夜更思渺漫。 夜更けて 思い渺漫(ビョウマン)たり。

妹島形見浦, 妹島(イモガシマ) 形見(カタミ)の浦,

默聞鴴叫闌。 默(モク)して聞く 鴴の叫(ナ)くこと闌(タケナワ)なるを。

 註] 〇渺漫:果てしなく広がっているさま; 〇妹が島・形見の裏:紀伊の

  国(現和歌山県)の地名。  

<現代語訳 > 

 寒夜の千鳥 

風寒い夜、天の一端を眺めやる、

夜更けて 思いは定まらない。

妹が島 形見の浦にあって、

耳を澄ますと 千鳥の鳴く声が聞こえてきた。 

<簡体字およびピンイン> 

 寒夜鸻       Hán yè héng 

风寒天一端, Fēng hán tiān yī duān 

夜更思渺漫。 yè gèng sī miǎo mán. 

妹岛形见浦, Mèi dǎo xíng jiàn pǔ, 

默闻鸻叫阑。 mò wén héng jiào lán.

ooooooooo 

 

掲歌の“妹が島・形見の浦”および“千鳥なくなり”に関わる参考歌とされる歌として次の2首が挙げられている。

 

藻(モ)刈り舟 沖漕ぎ来(ク)らし 妹(イモ)が島 

  形見(カタミ)の浦に 鶴(タヅ)翔(カケ)る見ゆ  

       (作者不詳 万葉集 巻七、一一九九) 

 (大意) 藻(モ)を刈る舟が沖から近づいてくるらしい。妹が島の形見の浦の辺 

  りを鶴が飛び翔っているのが見える。  

  註] 〇藻刈舟:藻を刈るのに用いる小舟。 

 

うば玉の 夜のふけ行けば 楸(ヒサギ)生ふる 

  清き河原に 千鳥なくなり 

      (山部赤人 万葉集 3914; 新古今集 巻六 冬・641)  

 (大意) 夜が更けてゆくにつれ、ヒサギの生える清らかな川原で千鳥がしき

  りに鳴いている。  

  註] 〇うば玉の:枕詞で、“烏羽玉”が黒いところから「黒」「闇 」「夜」

    「夢」などにかかる; 〇楸:キササゲまたはアカメガシワとされるが未詳。  

 

妹が島・形見の浦について: 

地図を開き、大阪湾の太平洋への出入り口を見ると、友が島水道を挟んで、和歌山と淡路島が嘴を突き合せた箇所がある。和歌山・加太(万葉時代の賀太)の港から望むと、幾つか(実は4島であると)連なって見える島が友ケ島である。

 

歌に詠われる“妹が島”とは、友が島を指し、また“形見の浦”は“妹が島”にあるいずれかの浦(港、入江)を指していると思われます。

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