いつも読書の参考にさせていただいている「ふとっちょパパ」さんが紹介されていたので読んでみました。
いくつもの興味深いテーマについて、27名の論者による代表的な意見がコンパクトに提示されています。
それぞれの主張内容も面白いものでしたが、立論の方法という点でも学ぶべきところが多くありました。
たとえば、「生物多様性」の議論にあたっての池田清彦氏の立論に見られた「議論の出発点の明確化」の実例です。
(p33より引用) まず、はっきりさせておかなければならないことは「生物多様性の保全」そのものは政治であって科学でないことだ。それは、この世界にたくさんある価値の一つにすぎないのであって、最重要な価値でも絶対的な価値でもない。そのことをきちんと理解しないと、「生物多様性の保全」のためなら何をしても許される、という原理主義になってしまう。
本書にてとり上げられた論者は、際立って個性的な方が多いのですが、その中から、私が、特に個々の主張として迫力を感じたものご紹介します。
まずは、「国家の品格」がベストセラーとなった数学者藤原正彦氏の主張です。
「産学連携は国益にかなうか」というテーマについて、歯切れの良い立論を展開します。
(p78より引用) 経済復興が自明の国家目標となっている。国家目標となれば、一億火の玉の国だから、すぐに「そのためなら何でもする」ということになる。不況の本質が、政官財学の専門家によってさえ完全に把握されているとは、とても思えないのに、「改革」の旗が狂ったように暗闇の中を突っ走る。
方向を失っているから、とりあえず経済好調のアメリカを真似よう、ということでアメリカ化がすさまじい勢いで進行する。・・・かくして市場経済、規制緩和、競争社会など歴史的誤りとなりそうな思想が、十分な吟味を経ないまま跋扈する。
この主張は、現在の結果(経済状況や雇用情勢)を見てなされたものではありません。2002年時点でのものです。
同じ章で、「大学の在り様」についても、藤原氏はこう断言しています。
(p84より引用) 大学は産業にすぐに役立つ人材の製造工場ではない。本来、文化としての学問を研究教育する場である。
もうひとつ、ポップカルチャー・アーティストとして有名な村上隆氏の強い主張です。
(p258より引用) 私は「幼稚受け」をねらい、さらに幼稚化してゆくことこそ、今後の日本文化を牽引する哲学であるということを「幼稚力」という言葉に乗せて、世界にプレゼンテーションしてゆこうと思う。・・・その結果を見つめ続けて欲しい。そうすれば、外来のブランドの理解できぬ権威に溺れることなく、自分の価値観のみで飢えや渇きを癒せるときが、すぐそこに見えるはずだ。
幼稚力は、戦後、外部から与えられた価値観で成長し、ついに行き詰まった日本の、起死回生、自前の特効薬でもあるのだ。
自己の確固たる自信に裏打ちされた、気持ちのいい自立の表明です。
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