ご存知の通り、著者の佐藤可士和氏は、最近脚光を浴びているクリエーターです。
以前、柳井正氏監修の「ユニクロ思考術」という本を読んだとき、その中で紹介されていたのでちょっと気になっていました。
本書は、その佐藤氏が語る「クリエイティブシンキング」のすすめです。
語り口は柔らかですが、随所に興味を惹く指摘が見られました。
まずは、「本質をつかむ」ための「見立て」の活用です。
「見立て」とは、茶の湯や和歌等の世界で使われていた「あるものを別の何かになぞらえて見る」という手法のことです。
(p35より引用) この“見立て”の習慣を、ぜひコミュニケーションスキルとして、普段の会話に積極的に取り入れてみてほしいと思います。・・・
全く別々の事象を的確につなげることは、モノの本質をつかむ絶好のトレーニングになります。・・・視点を変えて再解釈することで、本質が浮き彫りになるという見立ての行為自体が、非常にクリエイティブだと思います。
この「本質」は、プロジェクトワークにおいては「コンセプト」と同値です。
(p111より引用) まず大切だと思うのは、プロジェクトのビジョンを示すこと。つまり、コンセプトメイキングです。・・・
さらに、コンセプト設定の際、誰もが明確にイメージできるようなキーワードを提示できれば、コミュニケーションが断然スムーズになります。「要するにこういうこと」というふうに、プロジェクトの目的を短い言葉でまとめるのです。ユニクロのプロジェクトの場合は、「美意識ある超合理性」をデザインのキーワードにしました。
このあたりの考え方は、プロジェクト推進の要諦を説く妹尾堅一郎教授の主張と多くの点で重なるところがあります。妹尾教授は、コンセプトの共有の有効な手段として、「メタファー」の活用も勧めています。これは、佐藤氏のいう「見立て」の意味するところや目的と同じです。
もうひとつは、「ストーリー」。
この「コトをつなぐ物語性」も、最近のマネジメントやマーケティングの世界でもよく登場するキーワードです。
佐藤氏の活動は、デザイナーからクリエイティブディレクターへと変化してきたとのこと。
(p114より引用) その中で、最近特に実感しているのが、“コンテンツからコンテクストを作る”ことの重要性です。コンテンツは個々の内容、コンテクストはそれらがつながった文脈ということになります。・・・この場合のコンテクストやストーリーとは、いわゆる物語というよりは、ブランドのバックグラウンドやコンセプトなどの大きな軸に沿って、一つひとつの要素がつながり文脈を成している状態を指しています。
この指摘もとても重要です。佐藤氏はさらにこう続けます。
(p116より引用) ストーリーやコンテクストが重視されるようになってきた背景には、世の中の情報の肥大化や、企業の事業の複雑化も大きく関係していると思います。・・・
こうした時代背景もあり、“コンテンツからコンテクストを作る”、すなわちストーリーを描いていくことが、ブランディングの核心だと考えるようになりました。現在だけでなく過去の要素も整理してつなげながら、未来に向けての方向性を作っていくことで、自然とブランドのビジョンを構築できるようになったのです。
そして、このくだりの締めの表現は、まさに佐藤氏らしいものでした。
(p117より引用) 以前はブランディングに対して“立体的なイメージを構築する”という三次元的な捉え方をしていましたが、ストーリーを意識するようになってからは、さらにこの時間軸の視点が加わって四次元的に捉えられるようになり、より滑らかな構築ができるようになりました。
さて、最後にご紹介するのは、佐藤氏が指摘する「現代のキーワード」です。
(p65より引用) 僕は今、時代のキーワードは“リアリティ”だと思っています。暮らしを取り巻くあらゆる環境が目まぐるしく変化する現代においては、表層的で飽きられやすいトレンドではなく、より本質的で現実の生活にフィットした感覚で、消費者の心を自然に捉えることが求められていると感じています。
Twitterに代表されるような「バーチャルな緩いつながり」が流行っている現代に見えますが、それだからこそ、実態としては、「時代が求めている感覚」はリアルなものとして通底しているいうことなのでしょう。
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