先に読んだ中嶋嶺雄氏による「日本人の教養」の読書案内のリストに載っていたので手に取った本です。
ヘルマン・ヘッセの代表作として有名で、中高校生にとっての必読書のような著作ですが、恥ずかしながらこの歳(50歳を過ぎ)になって初めて読んでみました。
繊細な自意識をもった主人公のハンスは、父親・校長をはじめ田舎町の周囲の人びとからのプレッシャーを受けながらも、当時のエリートコースであるマウルブロン神学校に合格しました。しかし、期待に胸膨らませた神学校の生活の中で、ハンスは大きな壁に直面します。
(p58より引用) 教師の義務と、国家から教師にゆだねられた職務は、若い少年の中の粗野な力と自然の欲望とを制御し除去し、そのかわりに、国家によって認められた静かな中庸を得た理想を植えつけてやることである。・・・学校の使命は、お上によって是とされた原則に従って、自然のままの人間を、社会の有用な一員とし、やがて兵営の周到な訓練によってりっぱに最後の仕上げをされるはずのいろいろな性質を呼びさますことである。
こういった教師に代表される「権威」主義に対する批判は物語の随所に出てきます。
(p118より引用) 学校の教師は自分の組に、ひとりの天才を持つより、十人の折り紙つきのとんまを持ちたがるものである。よく考えてみると、それももっともである。教師の役目は、常軌を逸した人間ではなくて、よきラテン語通、よき計算家、堅気な人間を作り上げる点にあるからである。
ハンスと友人のハイルナーは、教師にとっては好ましい生徒ではありませんでした。勉強家で優等生だったハンスも、異端児ハイルナーとの友情に傾き、徐々に教師たちからは疎んじられる対象になっていきました。
(p119より引用) 昔からのりっぱな学校の原則に従って、ふたりの若い変り者に対しても、怪しいと感づくやいなや、愛のかわりに、厳しさが倍加された。
勉強に身が入らなくなったハンスに対して、神学校の校長が声をかけます。
(p122より引用) 疲れきってしまわないようにすることだね。そうでないと、車輪の下じきになるからね
しかしながら、校長の忠告もハンスには効きませんでした。そして、その後、ハンスはドロップアウトの道を一気に下り始めることになります、
小説なので、このあとのなりゆきを細かく辿ることはしませんが、物語のなかでのハンスの心情は、周りからの期待からはじまり、不安・優越感・夢・友情・挫折・・・と大きく揺れ動きます。
そして終幕は・・・、少々呆気ない印象です。
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