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小林秀雄の「考えること」 (人生の鍛錬‐小林秀雄の言葉(新潮社編))

2007-08-09 00:04:11 | 本と雑誌

 小林秀雄氏のベストセラーに「考えるヒント」という著作があります。
 小林氏は、その他多くの著作において「考える」ということに正面から取り組みました。

 本書で紹介されているその営みの一端です。

 まずは、38歳の作「文芸月評XIX」から「現代人の考え方」についての言葉です。

(p90より引用) 現代人は例えばAばかりを考えあぐねた末に反対のBを得るという風な努力をしない。そういう迂路と言えば迂路を辿る精神の努力だけが本当に考えるという仕事なのだが、そういう能力を次第に失い、始めからAとBと両方を考える、従ってもはや考えない。

 現代人(といってもちょうど第二次世界大戦期ですが)の「考える」態度に対する不満と、その裏返しともいうべき、自らの愚直とも見える真摯な姿勢の表明です。

 次は、20年を経た小林氏57歳の作「良心」の中で、同じく「考える」について触れているフレーズです。

(p191より引用) 考えるとは、合理的に考える事だ。・・・現代の合理主義的風潮に乗じて、物を考える人々の考え方を観察していると、どうやら、能率的に考える事が、合理的に考える事だと思い違いしているように思われるからだ。当人は考えている積りだが、実は考える手間を省いている。そんな光景が到る処に見える。・・・考えれば考えるほどわからなくなるというのも、物を合理的に究めようとする人には、極めて正常な事である。だが、これは、能率的に考えている人には異常な事だろう。

 ここでも、考えるということに対する敬虔な姿勢が表れているようです。
 小林氏は、「考える」という行為に「手抜き」を認めません。

 考え切った思索の末に築かれた「強い思想」が「常識」となるのです。

(p67より引用) 非常時の政策というものはあるが、非常時の思想というものは実はないのである。強い思想は、いつも尋常時に尋常に考え上げられた思想なのであって、それが非常時に当っても一番有効に働くのだ。いやそれを働かせねばならぬのだ。常識というものは、人々が尋常時に永い事かかって慎重に築き上げた思想である。

 小林氏36歳の時、「支那より還りて」からの言葉です。

人生の鍛錬―小林秀雄の言葉 人生の鍛錬―小林秀雄の言葉
価格:¥ 756(税込)
発売日:2007-04


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