この本には、小林秀雄氏の数々の著作から厳選された416のフレーズがその発表順に紹介されています。
その中には、いかにも小林氏「らしい」言葉もあれば、「らしくない」と感じられる言葉もあります。
(「らしい」「らしくない」といっても、そこには、私が勝手に抱いている「小林秀雄像」があるのですが・・・)
その両者を織り交ぜて、印象に残ったフレーズを私自身の覚えとしつつご紹介します。
まずは、小林氏29歳の作「文芸月評Ⅰ」から「柔軟な心」について。
(p27より引用) どうか、柔軟な心という言葉を誤解しない様に。これは、確固たる意志と決して抵触するものじゃない。
柔軟な心をもつこと、柔軟な心でいることは、「意志」によるものだということです。
いうまでもないことですが、柔軟な心は「優柔不断」とは全く異質のものです。
このあたりの感覚はいかにも小林氏らしい感じがします。
次は、日中戦争が勃発し日本が再び三度、戦争への道を進み始めたころ、35歳の作「戦争について」から「歴史の教訓」についての言葉です。
(p62より引用) 歴史は将来を大まかに予知する事を教える。だがそれと同時に、明確な予見というものがいかに危険なものであるかも教える。・・・歴史の最大の教訓は、将来に関する予見を盲信せず、現在だけに精力的な愛着を持った人だけがまさしく歴史を創って来たという事を学ぶ処にあるのだ。
戦争という大きな社会の転換点において、「過去」や「将来」よりも「今」を尊ぶ姿勢です。
さて、小林氏は、文芸であろうと美術であろうと音楽であろうと、その対象に向かう姿勢は同く自然でした。
このあたり、48歳の作「偶像崇拝」から。
(p153より引用) 絵を見るとは一種の練習である。・・・絵を見るとは、解っても解らなくても一向平気な一種の退屈に堪える練習である。練習して勝負に勝つのでもなければ、快楽を得るのでもない。理解する事とは全く別種な認識を得る練習だ。
対象を総体として一途に「見る」のです。
音楽なら努めて「耳を澄ます」のです。
最後に、2フレーズ。
49歳の作「政治と文学」から「弱点に乗じた思想」について。
(p159より引用) 空虚な精神が饒舌であり、勇気を欠くものが喧嘩を好むが如く、自足する喜びを蔵しない思想は、相手の弱点や欠点に乗じて生きようとする。
そして、46歳の作「『罪と罰』についてⅡ」から「真実と絶望」について。
(p127より引用) 口に出せば嘘としかならない様な真実があるかも知れぬ、滑稽となって現れる他はない様な深い絶望もあるかも知れぬ。
小林氏にしては珍しい激しい心中の吐露の言葉のです。
人生の鍛錬―小林秀雄の言葉 価格:¥ 756(税込) 発売日:2007-04 |
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