海も山も川も泣いている
暑中お見舞い申し上げます
最愛の人を失い、家を失い、
真面目にコツコツと築き上げてきたかけがいのないものを、一瞬にして奪われ、
途方に暮れる人々。
六〇歳を過ぎて漁場を奪われ、
船や漁網を奪われてなお、
「海さえあれば、魚を捕りたい」と、
赤銅色に日焼けした顔の深いシワに埋まった眼が、
意思の強さを物語っている。
重い口が開いて、「海で魚捕る以外に、何もできねぇもんな」
とつぶやく男の言葉が胸を撃ちます。
放射能で汚染された家々が、整然と続いている。
人さえ住んでいれば、平和で静かな町だったはずだ。
郊外に出れば、
樹々の緑が真夏の光を受けて風に揺らぎ、
田圃を渡ってくる風が、今年も豊作を約束してくれる。
だが、見えない「死の灰」の不安に、
田も畑も捨てて、故郷を捨てざるを得ない人々。
「何も悪いことしてねぇのに、どうしてこんなことに……」。
言葉が重い。
つらく、やりきれない試練の夏が、
ゆっくりと何事もなかったように、通過していこうとしています。
健康に留意し、御身ご自愛ください。
2011年 蝉しぐれの夏に。