「花かえ」
徹は20代半ばになっていた。
勤める会社も倒産のうわさが流れ、徹は収入の多い「原発」に職換えしようかと思っている。
久々に街角で見かけた昌也は、
スーツにネクタイをしめ、卑屈なほど腰を低くして、接待者を送り出す。
徹と愛子の関係はまだ続いている、しかし……。
雪もとけ春の息吹が感じられ、「花換え祭り」が近づいている。
徹は毎年この「花かえ」の祭りを愛子と二人で行っていた。
だが、今年は三か月前に知り合った信用組合に勤める真理と行くことにした。
『思いあう男女が「花を換えましょう」と言いながら桜の枝を交換する。それが花換え祭りの由来だった』
「おれはクズや。愛子に嘘ばっかし付くろくでなしや。花換え祭りに行きたくなくても、
愛子と寝たくて会いにきた。しょうもない男や。もう、おれのことなんか忘れろ」。
大声でわめき、走り去る徹。
これが徹の精一杯の誠意なのか。
そうではあるまい。
自分勝手な我ままで飽きた女を捨てる無責任な男。
未練を断ち切るように大阪に行く愛子。
『真理となら、前を向いて人生を歩んでいけるような気がする。
(真理と一緒なら)この空虚な感情から逃れることができるだろう』と徹は思う。
半ば強引な運びで、徹は真理と結婚する。
職を換え原電の警備員として働く徹。
果たして、徹の未来に灯りがともるのか……。
次回は連作短編の最後「光あれ」を記載します。