第2部(4) 人の心と科学(3)
「安心という名の社会システムを、根底から覆してしまった」
「人間の作りだした文明が人間の存在を脅かしてしまう」
3.11が私たちに突きつけた苦難と警鐘。
一年半過ぎた現在でも、絶望や悲しみから立ち直れず、
不安な日々を暮らす人は多い。
特に、原発過酷事故による放射能拡散の汚染は私たちをパニックに陥れた。
目に見えず、無味無臭の放射能の恐怖は、
政府に「安全」というデーターを提示されても、もはや信じることはできない。
「安全神話の崩壊」は、
私たちを安易に信じることの愚かさを教えてくれた。
電源三法交付金によって原発立地自治体の財政は豊かになり、
住民の生活も豊かになっていった。
過疎の地域に設置された原発の電気は、
遠く離れた人口密集地帯である都市部へ供給され、
都市に住む人々は、それを当然の成り行きとして享受してきた。
(写真:河北新報 福島県双葉郡双葉町・無人の街)
3.11は私たちが当然として受け止めてきた「安心」という社会のシステムを、
根底から覆してしまった。
自然の持つ脅威に、改めて私たちは、
地震や津波に対する認識がいかに甘かったのかを思い知らされた。
根こそぎさらわれた津波の去った町に立ち、
放射能に追われ、慣れない異郷の地に立って、
「こんなはずではなかった」とつぶやく。
無人の街・双葉町(写真)
歩道に雑草が生い茂り、地震で倒壊した家屋は手付かずのまま。
「警戒区域」に指定され、
全町民の6971人が異郷の地での避難生活を強いられている。
「希望的に言っても帰還まで10年かかる」。
双葉町長・井戸川氏の悲痛な言葉である。
「希望的……」というところに、先の見えない不安が感じられる。
いったい、私たちはどこで何を間違えてしまったのか。
(つづく)