読書案内「傾いた橋」② 小林久三著
偽証した道子に幸せは訪れるのか
男・松崎は20年前の「東城電器商殺人事件」の真相を究明するために、道子に会いに来た。
弁護士で、高校時代の道子の恋人でもあった。
事件当時容疑者の暴力団構成員・杉江は逮捕されたが、
道子の当夜のアリバイ証言が決定的な証言として、杉江は釈放された。
杉江は道子が同棲中の男だった。
道子が18歳の時の偽証だった。
事件は一転し被害者の妻・山口トシの犯行として、彼女は13年の刑に服するが、
出所後無実を訴えて街頭に立って「冤罪」訴える。
山口トシの存在を道子に教え、真実を話して欲しいと迫る松崎。
真実を話せば、やっとつかんだ島でのささやかな幸せは、壊れてしまうだろう。
道子は真実に蓋をしようと弁護士・松崎の訴えに、頑なに心を閉ざす。
しかし、罪の意識と良心の呵責(かしゃく)に道子の心は揺れ動き、
断ち切ったはずの過去を探りに、橋を渡り悲しい青春時代を過ごした故郷に足を踏み入れる。
高校生の息子(先妻の子)との関係もぎくしゃくし、
昔この街で何があったのか。
継母がそのことにどんな関わりを持っていたのか、
母の不審な行動に息子の気持ちが自分からだんだん離れていく不安に道子の心は揺れ動く。
真実を話し山口トシの冤罪を晴らすべきなのか。
夫や息子に知られてしまえば島での今の生活は間違いなく破綻してしまうだろう。
真実を知れば、夫や息子は私を絶対に許さないだろう。
道子は幸せになるために渡った橋を、過去の冤罪事件に繋がり、
道子にとっては破滅へつながる橋を戻り始めた。
橋を境にして幸と不幸が錯綜する。道子の目前で橋が傾いていく……。
「傾いた橋」は昭和59(1984)に第91回直木賞候補になった小説だが現在は絶版になっている。評価☆☆☆☆ (2015.8.20記) 横になった画像がどうしても縦になりません。申し訳ありません。