海に消えた対馬丸・学童疎開の悲劇 ②
海底に横たわる対馬丸
1997(平成9)年冬。
深海探査機が海底の沈んでいる船を探し当てた。
場所は鹿児島県トカラ列島の悪石島(あくせきじま)沖。
水深870㍍の光のない暗黒の世界。
探査機のサーチライトの光に黒く大きな物体が徐々に浮かび上がってくる。
やがて、光にとらえられた物体がその正体を現してくる。
穴の開いた船が永い眠りから覚める瞬間である。
探査機が近づく。
暗くよどんだ海底のなかで光がとらえたものは三つの文字だった。
濁った海水を通して浮かび上がる文字。
『對馬丸』。
カメラは海底に横たわる船をとらえる。
腐食が進み魚の住み家になっている船。
1944(昭和19)年8月22日22時23分、
悪石島沖にて沖縄の学童疎開船「對馬丸」が撃沈から53年ぶりに姿を現した瞬間であった。
船は那覇から長崎へ向かう途中、
鹿児島県・悪石島の北西約10㌖の地点を航行中、
米潜水艦ボウフィン号の魚雷攻撃により、沈没した。
(つづく)
(語り継ぐ戦争の証言№26) (2023.7.9記)