創作小説屋

創作小説置き場。BL・R18あるのでご注意を。

ある平凡な主婦の、少しの追憶⑰

2007年06月14日 10時04分39秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
自閉症である長男は、公園に連れて行っても、遊具で遊んだりしない。
周りをグルグルと回って、目を離すと公園の外に走っていってしまう。
長女は公園で遊びたがっているのに、長くは公園にいられなくて、本当にかわいそうだ。

休日に長女だけでも公園に連れて行ってあげてくれないか、と夫に頼むのだが、
「嫌」の一言で片付けられてしまう。
理由を聞くと「疲れるし、面白くないから」という。

仕事で疲れていることは分かっているので、
休日は昼過ぎまで寝かせてあげるようにしている。
それでも、ほんの一時間、娘を公園に連れて行ってくれ、と頼むのは酷なことなんだろうか。

そうはいっても、自分が買い物があるときは、娘と2人で出かけてくれるときもある。
長男のことは絶対に連れて行かない。
最近、長男は夫のことを恐れはじめている。


長男は、よくグルグル回ったり、ジャンプをしたりしている。
それが落ち着くようだ。
娘も一緒になってグルグル回って、2人でケラケラ笑いあっていることがある。
その笑い声を聞くと、胸の中につかえている、夫の態度とか息子の将来とか、そういうモヤモヤが少しの間だけ晴れてくれる。
私にとって至福のときだ。

それが他の人に迷惑をかけているなんて思いもしなかった。
階下の住民の方から、苦情の電話がきたのだ。

うちは結婚当初にマンションを購入した。
階下には、うちより少し年上のご夫婦と小学生の子供が住んでいる。
子供が産まれたときに挨拶にいったところ、
「日中はほとんど家にいないので、うるさくしても大丈夫ですよ」
といっていただいた。
その言葉に甘えて、子供達が家で飛んだりはねたりすることを、注意しないでいたのだ。
早めの就寝を心がけていたので、夜は静かにしていた。

毎年末、菓子折を持って挨拶に行き、どのような様子か聞いていたのだが、
前に挨拶に言ったときには、特に何も言われなかった。

しかし最近、子供達も体が大きくなったし、
何より長男の動きが激しくなってきたので、
階下に相当響いていたようだ。

電話口で階下の奥さんに懇々と言われた。

走り回ったりジャンプをしたりする音があまりにもウルサイ、と。
もう少しお子さんを外で遊ばせてあげたらいかがですか、と。

電話を切ってから、不覚にも涙がでてきてしまった。

“もう少しお子さんを外で遊ばせてあげたら・・・”

それができればどんなにいいだろう。
普通の子みたいに、普通にすべり台やブランコで遊んでくれたらどんなにいいだろう。
糸の切れた凧みたいにふら~っといなくなったりしないで、しっかりと私の手を握ってくれたらどんなに・・・。

そうは言っても、階下の方に迷惑をかけているのは事実なのだ。
電話を切ってから、ずっとピリピリしてた。
少しでも走ると「走らないで!」と思わず怒鳴る私。
怒鳴りたくなんかないのに・・・。

息子はジャンプをやめられない。
マットレスを引いて、その上でジャンプをするように言い聞かせるのだが、目を離すとマットレスから出ていってしまっている。
それを捕まえて、元に戻す。
逃げる息子。
延々と繰り返される・・・。

子供達がいつも通り9時前に寝付き、ようやくホッと肩の力を抜いた。

明日からどうしよう・・・。
これから毎日こんな風にピリピリして暮らすのかと思うと・・・。

長い長いため息をついたのと同時に、電話がかかってきた。

・・・彼からだった。
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ある平凡な主婦の、少しの追憶⑯

2007年06月13日 09時57分25秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
『結婚式に行ってきたぞ』

このタイトルのブログ、読むべきか読まざるべきか、ちょっと迷った。
「祝福できる」と何度も自分に言い聞かせて、開いてみた。

結果・・・・・・・・・落ち込んだ・・・・・・。
落ち込んだ自分に対して更に落ち込んだ、とも言える。


彼の結婚式に参列した友人のブログだった。
忙しいのか、彼は掲示板に顔を出さなくなっていたため、
詳しい挙式の日取りも知らなかったので、
このブログで「結婚した」ってことを知った。

教会をバックにみんなで写っている写真。
ケーキカットをしている写真。
披露宴後に、ロビーで写した写真。

新婦さんは輝くばかりに幸せオーラを発していた。
私たちより二つ年下だと聞いた。
肌の綺麗な、かわいらしい女性。

その横で、彼は笑っていた。
笑っていた。


なんで今さらこんなに胸のあたりが痛くなるんだろう。
胸というよりも胃に近いかな・・・
ぐっと押されている感じがする。
吐き気もする。
涙が、出てきた。

今の彼のことなんて愛していない。
今でも好きなのは、8年前までの彼。
それから後の彼のことなんて私は知らない。

だから、祝福できる。
せっかく友達に戻れたんだもの。
祝福しないと。
彼と彼の奥さんの幸せをお祝いしないと。
そんなことは分かっている。

なのに・・・なんで涙がでてくるんだろう。
何が悲しいんだろう・・・。
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ある平凡な主婦の、少しの追憶⑮

2007年06月12日 00時33分34秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
彼とホテル“ヘブン”に行った(といっても、部屋の中には入っていないけど)ことなんて、夢の中の出来事のようだ。
「もし、あの時部屋まで行っていたら」と妄想して、勝手に顔を火照らせているバカみたいな自分がいた。

でも、日が経つうちにその回数は減っていき、またいつも通りの毎日を繰り返していた。


私には子供が2人いる。
娘は4歳5ヶ月。
息子は2歳10ヶ月。

息子はまだ言葉らしい言葉が出ていない。
「男の子は言葉が遅いのよ」
周りのそんな慰めも、限界がきていた。

夫の反対を押し切って、ようやく検査を受けた結果は、私の予想通りのものだった。

『自閉症』

やっぱり、と思った。
今はインターネットという便利なもののおかげで、どんな情報でも得ることができる。
書いてある自閉症児の特徴は、そのままズバリ息子に当てはまっていた。

正式な検査を受けたにもかかわらず、夫は認めようとはしなかった。
「まだ小さいんだからわからない。これからみんなに追いついていくだろう」
そう言い張った。

それでいて、息子の自由奔放さにイライラして怒鳴り散らす夫。
「萌はこのころもっと聞き分けが良かった」
と、娘と比較して更にイライラしている。

ありがたいことに、娘はとても素直な子で、奇異な行動をする弟でも、よく面倒を見てくれる。
金銭的な理由で娘の今年の幼稚園入園は見送ったのだが、そうして正解だった。
娘がいてくれるおかげで本当に助かっている。

でも、そうはいっても、娘もまだ4歳児。
物の取り合い等で弟と激しいバトルをすることもしばしばだ。
息子も常識では考えられない行動を取るので、私も止めるのに忙しい。
うちは毎日本当にうるさい。

夫は別室にいてもそのうるささに耐えられないらしく、度々子供達のところに来ては、怒鳴り散らしていく。
休日は、夫の機嫌を損ねないように、子供達をなるべく静かにさせなければいけないので、平日よりも余計に疲れる。

平日は、うるさいながらも、子供達と幸せな日々を過ごしている。
もちろん、子供達にイライラさせられることも多い。
特に息子の障害が分かってからは、不安が頭の中を埋め尽くすことが多々ある。
でも、2人が仲良く遊んでいる姿を見ている時など、愛おしい気持ちでいっぱいになるのだ。
一緒にいるだけで、幸せを感じることができる。


でも、夫は違うようだ。

外出先で、パニックを起こしてのたうちまわる息子を見て、
「こいつ、本っ当にいらない」
と吐き捨てるように言った夫。

息子は療育センターで紹介された訓練会に通い始めた。
そこでの話を夫にしたら、途端に機嫌が悪くなり、
「オレの前で障害の話をするな」
と、怒鳴られた。
一番理解して欲しい夫にそこまで拒否されるとは・・・。

息子の障害が分かってからは、今までにも増して、夫は子供達の面倒を見なくなった。
家の中の全てのことを私にまかせっきりにした。
それでいて、疲れている私に、夜の生活を求めてくる夫の神経は本当に理解できない。

日中は『母』で、夜は『妻』。
『私』はどこにいってしまうのだろう?


唯一、自分を取り戻せるのが、高校の同級生の掲示板だった。
ここでは、「誰かの奥さん」でもなく、「誰かのママ」でもなく、「自分自身」でいられる。

毎朝、誰よりも早く起きて、ほんの数十分だけ『私』に戻る。

最近の気がかりは、あれ以来、彼の書き込みがまったく見られなくなったことだ。
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ある平凡な主婦の、少しの追憶⑭

2007年06月11日 12時06分57秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
私と彼は同じ高校の同級生だった。
つきあいはじめたのは、20歳の成人式で再会してから半年後のこと。
成人式をきっかけに仲間で集まることが頻繁になったのだ。
同級生のホームページもできて、掲示板の書き込でみんな情報交換をしていた。
掲示板は暗証番号を入力しないと入ることができない、プライベートなものだった。

それなのに、その掲示板に、彼女が書き込みをしてきたのだ。

「ストーカー女が私の彼につきまとって迷惑している」
「他の方も、今後一切彼に連絡してこないでください」

管理人をしている友人がすぐに削除したが、かなりの同級生の目にとまってしまった。

別れた経緯を知っている女の友人達は、猛烈に怒っていた。
「自分が彼女いる男にちょっかいだしてきたの棚に上げて何いってんの?!」
等、みんなすごい勢いで書き込みをしていた。

事情をしらない男の子達も厳しかった。
「連絡するなって、そんなことを言われる筋合いはない」
「ここは他人のあんたが書き込みしていい場所じゃない」
「なんでパスワード教えたんだよ?」

みんなが盛り上がっている中・・・
私は、妙に冷静になっていた。
今さらながら罪悪感も覚えはじめた。

彼がパスワードを教えたということは、彼は私や仲間達よりも彼女の気持ちを優先した、ということだ。
そこまで、彼女が大切なのか・・・。

もう、彼と会うのはやめよう。
そう思った。
彼からも一切連絡はこなくなった。


それから彼は同級生の集まりには一切でてこなくなった。
二年後、親友の結婚式でみんなと再会して、それからようやくまた掲示板にも顔を出すようになった。

彼女との交際は、結局1年ほどしか続かなかったらしい。
彼女の束縛に耐えられなくなったのが、一番の原因のようだ。
『また』人を傷つけてしまった、と自己嫌悪に陥ったらしい。

やはり、彼女が書き込みをした内容を彼は把握していたのだ。
止めることができなかったことを後悔している。
私のことを傷つけてしまった、と。

今となってはどうでもいい話だ。
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ある平凡な主婦の、少しの追憶⑬

2007年06月10日 08時33分02秒 | ある平凡な主婦の、少しの追憶(一部R18)
彼の優しさは、人を傷つける。

「別れたのは8年前。それから2年後に再会した」
「駅の改札口の横で別れた」

表向きはそういうことになっているけど、実はそうではない。
2人の中でも「なかったこと」にしていることがある。

実は、別れてから2ヶ月ほど、体の関係だけは続けていたのだ。
もうすでに、彼には新しい彼女がいたのにも関わらず。

彼と別れてからの私は自暴自棄になって、見ず知らずの男と関係を持ちそうになるほど、荒れていた。
そのことを彼は人づてに聞き、
「知らない男に抱かれて気を紛らわすぐらいなら、オレが・・・」
と、言ってきたのだ。

体の関係を続けることで、彼をつなぎ止めることができるかもしれない。
そう思って始めたことだった。
体を重ねているときは、確かに自分のものになっている彼。
でも心は新しい彼女のところにあることが、悲しいほど伝わってきた。
だからこそ、その行為に没頭した。
そのせいか、この2ヶ月間のベッドの上が一番淫らで一番自由だった。

でも、そんな関係は長くは続かなかった。

彼女が、彼と私が連絡を取っていることに気が付いてしまったのだ。
もちろん、体の関係が続いていることはバレていない。
でも別れた女と連絡を取り合っていることは、彼女には許せなかったらしい。
その怒りの矛先は私と私たちの仲間に向いた。
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