きのうはやあるきのじいさんにおいぬかれる

犬と酒依存症のおっさんが、車椅子を漕ぎながら、ネガティブに日々見たり聞いたり感じたりした暗めの話題を綴ります。

FOG

2013-08-06 18:00:00 | 近場の異邦人
もうかなり前のこと。

久々に海の方へ行く。その時にしては気温が高く、むあっとした日。
大型フェリーが出入りする観光港の隣に、漁港がある。

雨は止んだが、この辺りはまだ路面が濡れていた。さらにお墓参りで行く島の方を見ると。

濃い霧で、いつもはそこにある筈の島が、うっすらと。港に着くと少しだけはっきりするようになる。

ターナー島も、分かりにくい。がしかし、何となくあるのは分かる。
麦を買ってきて、港に戻ると、島は完全に見えなくなっていた。すぐ下は、普段と変わらぬ海の色。魚が普段と変わらず泳ぎ、釣り人が糸を垂れている。

ある筈なのに見えないというのは不思議なものだなあ、と。
ただ確かに変わらずにそこにあるのだろうけど。
手が届きそうで届かないもどかしさにも似ている気がした。

そして、少し前のこと。

知り合いが亡くなった。まだ20代だった元気だった。突然眠るように息を引き取ったらしい。
穏やかな顔をして横たわっていたのが救いだった。でも本当に起きてきそうな気がして、不思議な気分だった。
彼がいた職場を離れてからは、街でほんの数回会ったことがあるだけで、車椅子を押しながらとりとめのない話をしただけだったが、いなくなる、という事実にぴんと来なかった。
やがて、見送る時間になり無念さと寂しさがゆっくりとこみ上げてきた。

やがて、ゆっくりと島が姿を現す。

それほど時間は経っていなかった。

きらきらと、穏やかな顔をしていた。

彼の関係者の一人として、謹んでご冥福をお祈りいたします。