「勝つ。勝ちたい。いや、それよりも負けたくない」。小倉の偽らざる気持ちだった。そしてかなり弱々しい決意だった。
かつてこれほど勝算のない対局があっただろうか?いやプロに入ってから、これほど分の悪い戦いはなかった。プロになりたての頃、当時の将王との対局の時も、結果はともあれ、気持ち的には五分五分のつもりだった。この戦いに勝てる確率は2割。ここ数年、小倉なりにヘボンについて研究はしていた。圧倒的に強い。かつては隙のあった序盤も、ほとんど見当たらなくなった。偽らざる小倉のヘボンに対する評価だった。
「奇策でいこうか?」。小倉は今朝の朝食の時まで迷っていた。しかし、対局室に入り、いまや宿敵となったヘボン、そして隣に座る土井、そしてその手前に置かれている将棋盤を見た時、心の揺れは止まった。そして決意を固めた。
「自分は将王である。弱者の戦術は採れない」
戦いはこれまでに何度も見られた定跡の手順で淡々と進んだ。
かつてこれほど勝算のない対局があっただろうか?いやプロに入ってから、これほど分の悪い戦いはなかった。プロになりたての頃、当時の将王との対局の時も、結果はともあれ、気持ち的には五分五分のつもりだった。この戦いに勝てる確率は2割。ここ数年、小倉なりにヘボンについて研究はしていた。圧倒的に強い。かつては隙のあった序盤も、ほとんど見当たらなくなった。偽らざる小倉のヘボンに対する評価だった。
「奇策でいこうか?」。小倉は今朝の朝食の時まで迷っていた。しかし、対局室に入り、いまや宿敵となったヘボン、そして隣に座る土井、そしてその手前に置かれている将棋盤を見た時、心の揺れは止まった。そして決意を固めた。
「自分は将王である。弱者の戦術は採れない」
戦いはこれまでに何度も見られた定跡の手順で淡々と進んだ。