ざっくばらん(パニックびとのつぶやき)

詩・将棋・病気・芸能・スポーツ・社会・短編小説などいろいろ気まぐれに。2009年「僕とパニック障害の20年戦争出版」

将王 22手目「勝算」

2016-01-15 23:36:14 | 小説
「勝つ。勝ちたい。いや、それよりも負けたくない」。小倉の偽らざる気持ちだった。そしてかなり弱々しい決意だった。

かつてこれほど勝算のない対局があっただろうか?いやプロに入ってから、これほど分の悪い戦いはなかった。プロになりたての頃、当時の将王との対局の時も、結果はともあれ、気持ち的には五分五分のつもりだった。この戦いに勝てる確率は2割。ここ数年、小倉なりにヘボンについて研究はしていた。圧倒的に強い。かつては隙のあった序盤も、ほとんど見当たらなくなった。偽らざる小倉のヘボンに対する評価だった。

「奇策でいこうか?」。小倉は今朝の朝食の時まで迷っていた。しかし、対局室に入り、いまや宿敵となったヘボン、そして隣に座る土井、そしてその手前に置かれている将棋盤を見た時、心の揺れは止まった。そして決意を固めた。

「自分は将王である。弱者の戦術は採れない」

戦いはこれまでに何度も見られた定跡の手順で淡々と進んだ。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする